メルマガ[001] 日本はいまや「投資立国」。あなたが思い描く国とはまったく違う国になっている。 |
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山田順の「週刊:未来地図」 No.001 2012/08/08
日本はいまや「投資立国」。あなたが思い描く国とはまったく違う国になっている。
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未来地図=将来像=ビジョンがないから政治は迷走する
ロンドンでは日本人選手がメダルに向かってひたむきに努力しているというのに、この国の政治家は政治を放棄して、政局ばかりに走っている。今日、自民党は民主党に早期解散を迫って党首会談に臨んだ。そうして、会談後、谷垣総裁は「早期解散が確約された」と成果を強調した。 そんなもの成果でもなんでもない。すでに一体改革で増税が決まっているこの国で、誰が政治をやろうと同じだ。現在の政治状況のままでは、日本は確実に衰退し、数年以内に財政破綻による最悪の時が訪れるだろう。 なぜ、ここまで日本の政治は迷走するのだろうか? それは、彼らに明確な「未来地図」がないからである。未来地図=将来像=ビジョンである。そんなことを言っても、一寸先がわからないのが人生であり、政治はまさに「一寸先は闇だ」と反論する人もいるかもしれない。 しかし、未来はわかるのだ。政局は別として、私たちの社会や経済がこの先どうなっていくかは、ほとんど予測できるのである。
未来に起こることは、すでに過去、現在に起こっている
これまで、私は多くの富裕層、ビジネスの成功者たちを取材してきたが、彼らはみな「未来地図」を持っていた。それをもとにして成功への道を歩いたから成功したのである。たとえば、外車の輸入販売で成功したA氏は、「未来がわかったから成功したんです」と言い切った。私が、「どうやったら未来がわかるんですか?」と聞くと、「毎日、ニュース、新聞を見て、世の中の動きを追いかけていればいいんです。次にどの車がヒットするか、未来の需要を知るのは、それほど難しくない」と答えた。これは、未来に起こることは、すでに過去、現在に起こっているということを意味している。 ところが、多くの人がそれを見逃している。つまり、見逃さなかった人間だけが成功するのだ。ビジネスも政治も同じだ。未来地図がなければ、うまくいくわけがない。 では、現在起こっていることで、どんなことが日本の未来を端的に表しているのだろうか? 今日のニュースでいうと、財務省が発表した「2012年上半期の経常収支」だろう。
経常収支のうち貿易収支が過去最大の赤字
8月8日、財務省は、12年上半期の経常収支の黒字が3兆0366億円で、前年同期に比べて45.0%も減少したことを発表した。これは、上半期としては過去最少の黒字幅で、貿易収支が2兆4957億 円と過去最大の赤字となったことが原因だ。ただし、所得収支が7兆1467億円の黒字だったため、経常収支としては黒字を確保したのである。 貿易収支の赤字の原因は、去年の東日本大震災にある。あの大震災で福島第一原発の事故が起こり、その後、各地の原発を停止させたからだ。この影響は大きく、日本は液化天然ガス(LNG)の輸入を急増させるしかなかった。その結果、LNGの輸入が前年同期比で49.2 %も増えてしまい、貿易収支は一気に赤字化してしまったのである。
日本はもはや「貿易立国」ではない。「投資立国」だ
経常収支というのは、主に貿易収支と所得収支で成り立っている。貿易収支というのは、モノの輸出入を集計したもの。いっぽう、所得収支とは、企業が海外の工場建設などや海外証券投資で得た収益から、日本国内で外国企業などが得た利益や報酬などを引いたものだ。 これらの収支を合算した経常収支は、国全体の収支であり、家庭にたとえれば家計だ。これが黒字なら、家庭は健全と言えるように、経常収支が黒字なら、国内でいくら借金が積み上がろうと、外から見た日本は健全である。だから、国債による借金が約1000兆円あろうとも、日本は破綻しないのだ。 それはともかく、この日本の家計のかたちから見えてくるのは、私たちの国が、かつて言われた「貿易立国」ではないということだ。 日本はもはや「貿易立国」とは呼べず、「投資立国」と呼んだほうがいいということ。これまで私たちが思ってきた日本という国のかたちは、すでに大きく変わっていたのだ。いまの日本は、海外投資なくしては存在できない国になっていると言っていい。「海外なくして日本なし」の「投資立国」に なっているのである。 これが認識できれば、日本国の未来地図を明確に描くことが可能になる。
日本は加工貿易国、貿易の稼ぎで食べている国
私は小学校高学年で「日本は加工貿易国」と習った。いまから半世紀前の日本は、間違いなく貿易立国であり、貿易で稼いだ黒字で、アジアでたた一国欧米先進国の仲間入りを果たした。日本経済は貿易黒字で成り立っていて、その黒字で私たちの暮らしは豊かになったのだった。 「日本は原料を海外から輸入し、それで工業製品をつくって海外に輸出して稼いでいる国です。そういう貿易を加工貿易と呼びます。私たち日本人は、そうして稼いだお金で、海外から食べ物を買って生きているのです」と、社会科の教師は言った。 しかし、いまの日本は違う。2005年を境にして、経常収支のうちの所得収支が貿易収支を上回るようになったのだ。2005年までは貿易収支の黒字が日本の経常収支の黒字の主体だった。が、いまは貿易収支が赤字になり、所得収支の黒字が日本を支えているのだ。日本は、貿易で稼ぐより、海外への投資から得られた配当や利子で稼ぎ、それで私たち日本人の暮らしは成り立っているのである。
「海外の子会社が日本の親会社を支えている」という構造に
日本企業は、いま、どんどん海外に出て行っている。大企業はもとより、二次下請け、三次下請け企業も出て行っている。出て行かなければ、縮小する国内市場で「座して死を待つ」しかないからだ。いまや早く出ていった企業ほど成果をあげ、そういう企業では「海外の子会社が日本の親会社を支えている」という構造になっている。これは、日本国全体に言えることで、「ジェトロ世界貿易投資報告2011年度版」を見ると、日本の上場企業の営業利益は、すでに2010年の時点で、海外(53.1%)が、国内(46.9%)を上回っている。 ここ十年ほどで、日本企業の海外直接投資は大きく拡大した。2001年からの10年間で2.8倍にもなっている。しかも、2005年からの5年間では、一気に倍になっている。2005年に3882億ドルだったものが2010年には8305億ドルになっている(ジェトロ「日本の国・地域別対外直接投資残高」)のだ。 とすれば、ここから先の未来は、さらに所得収支の黒字化を拡大させるべきだろう。海外投資を拡大させ、グローバル化に適した国にすれば、日本の衰退は食い止められることになる。 つまり、企業や個人が海外に出ていくこと、つまり空洞化を止めようなどとすることは、まったく無意味だ。むしろ逆に奨励し、彼らが海外で稼いだ富を日本に還流させる。そういう政策が肝要になってくる。 私は去年『資産フライト』(文春新書)という本を出したが、この海外に資産を持ちだす人々に対して、いま、非難の声が上がっている。一部には「非国民」という声さえある。しかし、未来地図から言えるのは、資産フライトを非難するのではなく、むしろ積極的に推進させ、その上がりを日本に還流させる。そのような国に日本をつくり変えていくことだ。
自民党の「国土強靱化法案」はまったくの時代錯誤
こう考えると、現在の日本の政治状況は絶望的だ。 野田政権は「一体改革」という名の増税法案を自公との談合で決め、消費税増税と併せて所得税、相続税などの増税も決定的になっている。また「消費税増税は全額社会保障に充てる」としているが、自民党は時代錯誤としか思えない「国土強靱化法案」をつくり、コンクリート(公共事業)を復活させようとしている。 国土強靱化? そんなバカな?と、耳を疑ってしまう。 投資立国に変貌したこの国で、いまさら高速道路やハコモノをつくってどうするというのだろうか? そんなことに200兆円もつぎ込むというのだから、あきれ果てて声も出ない。 彼らの頭のなかにある日本は、昔の日本、20世紀の日本、いまは存在しない日本なのだ。21世紀になって、世界は激変しているというのに、日本だけは変わっていないと、彼らは思い込んでいるのだろう。 だから、財政破綻を防ぐためには増税をし、デフレ脱却のためには金融緩和をする。経済成長と雇用を増やすためには公共事業をやり、格差を是正するためには富裕層からもっと税金を取ればいいと考える。 この単純すぎる発想は、一見すると、ものすごく日本のことを考えているように見える。彼らはみな憂国の念に動かされているから、愛国者として歓迎される。しかし、彼らの言うことを聞いていたら、日本は絶対に再生しない。その意味で、彼らは愛国者でなく、むしろ彼らこそが非国民ではないだろうか。
「投資立国」日本が今後取るべき道とは?
投資大国という未来地図を描けば、今後、日本が取るべき道は明らかだ。空洞化、資産フライトは、むしろ日本を強くすると考えなおし、そこからの所得収支をいかに日本に還流させるかが、日本再生のキーポイントである。 そのためには、次のような政策を実行すべきだろう。 1)増税よりも減税(法人税、所得税、相続税など)をする 2)米国のような「本国投資法」をつくり、海外配当を日本に還流させる 3)企業の海外進出を積極的にサポートする 4)金融ガラパゴスを止め、国内金融を解放する もっと言えば、鎖国政策をやめ、開国する。グローバル化にもっと大胆に適応していくことだ。金融システム、会計システムなど企業活動に必要なものは、すべてグローバルなシステムを採用し、国内でも英語でビジネスができる国にしなければ、日本は再生しない。
米国が実施した「本国投資法」とはなにか?
ここで、2)米国のような「本国投資法」(HIA:Hometown Investment act)に関して説明しておくと、これは、アメリカ政府が2005年に実施したものだ。 資本の世界にはレパトリエーション(Repatriation)という言葉があり、もともとは「兵士が母国に帰還すること」といった意味だったが、金融用語として、投資家が海外で運用していた資金を国内に戻したり、海外支店の儲けを本社に送金したりすることを指すようになった。 米国本国投資法は、これを推進する法律で、米国企業が利益や配当金、余剰資金を米国内に海外から戻す場合、2005年に限って通常35%の法人所得税率を5.25%に減税するといったもの。この実施で、海外に出た米国への資金は本国に還流した。 日本も、今後は、こうしたことを、どんどん実施すべきなのだ。
「日本でつくり欧米に売る」から「アジアでつくりアジアで売る」
現在、日本を離れた投資資金の多くが新興アジアに向かっている。新興アジアとは、タイ、ベトナム、カンボジア、インドネシア、マレーシア、フィリピンなどの諸国を指す。さらに、このASEAN諸国に、インドやバングラデッシュ、そして開国したばかりのミャンマーも加えた地域は、21世紀最大の成長地域と目されている。この新興アジアに、香港とシンガポールというアジアの二大オフショアをとおして、日本のマネーが流れ込んでいるのだ。 新興アジアをにらんで、本社機能の一部を海外に出す日本企業も多くなった。2011年9月、パナソニックは国内にある部品や原材料の調達・物流本部機能を 2012年4月にシンガポールに移転すると発表した。HOYAの鈴木洋最高経営責任者(CEO)が自ら仕事の拠点をシンガポールに移し、 日産自動車もインフィニティ事業部を丸ごと香港に移している。
「三丁目の夕日」の世界では、誰もが豊かになれる
新興アジアを歩くと、私のような世代の人間は、限りない懐かしさを感じる。小さな商店がバラバラに並んだ街並み、市場や露店、まだ舗装されていないところが残る道、そこを走るバイクや車、道行く人々、そうした街のすべてが日本の昭和30年代のデジャブではないかと思えるからだ。ついこの前までのベトナムがそうだった。 いまは、ミャンマーが日本の昭和30年代、「三丁目の夕日」の世界だという。「三丁目の夕日」の世界では、誰もが豊かになれる。働けば働くほど未来は開ける。しかも、日本人なら一度それを経験しているのだから、こうした市場で成功するのは、現在の国内市場よりはるかに簡単とされる。 私は、小学校の社会の授業で、「京浜工業地帯」や「太平洋ベルト地帯」などという言葉を習った世代だ。日本には、京浜工業地帯、中京工業地帯、阪神工業地帯、北九州工業地帯などの工業地帯があり、それらが太平洋ベルトに沿って並んでいる。これが日本の生命線だと教えられた。 しかし、これからは、新興アジアが日本の生命線なのである。それを認識できるかできないかで、あなたの今後の人生は大きく変わるだろう。 |