[010]中国山東省済南市、「白酒」宴会の恐怖 |
2009年3月5日 久しぶりの北京は金融危機の影響なし このブログを10日以上書かなかったのは、今回が初めてだと思う。じつは、2月の最終週はずっと中国にいた。4月に出すMOOK『高城剛責任編集GO! IBIZA楽園ガイド』のe-book化の打ち合わせ、北京の経済界の取材、中国の出版社訪問などスケジュールがびっしりで、ブログを書く時間がとれなかった。 もちろん、マックのノートは持っていった。しかし、やったのは、メールだけ。あとは、ネットでニュースのチェックぐらいで、自分のサイトさえ開かなかった。 久しぶりの北京(ベイジン)は、快晴続きだった。驚いたのは、空が青く、いつもなら霞んで見えない高層ビルがはっきりと見えたことだ。そしてもうひとつ驚いのは、北京の街からは、金融危機の影響があまり感じられなかったことだ。 街はいつもどおり活気に満ちていて、復興門周辺の金融街は賑やかだし、王府井は地方からのお上り観光客でいっぱい。三里屯のバー街に行けば、相変わらず外国人客が席を埋めて飲んでいた。 『高城剛責任編集GO! IBIZA楽園ガイド』のe-book化は、フォレストラインという中国の会社に頼んだ。このフォレストライン社は、中国で大成功したオンラインメディアだが、なんと社長は30歳の若き日本人。 昨年、日本に逆上陸し、現在では、日本でも集英社の女性誌『NONNO』のウエブ版を制作している。
中国のオンラインメディアの雄「フォレストライン」 昨年の9月、フォレストラインの社長・遠藤大輔氏の紹介記事をサンケイ新聞で見て、即座に連絡を取ったのがきっかけで、今回の中国行きは運命づけられていたと思う。 というのは、フォレストラインが制作する『RAY』や『COSMOPOLITAN』(いずれも中国版)のe-bookは、flashによってつくられているので誌面がウエブ上で動くうえ、無料でダウンロードできるという素晴らしいモデルだったからだ。 中国では、PC上の無料ウエブマガジンというモデルが確立しており、その発展と技術力は日本を超えている。紙媒体も健在だが、ウエブメディアは、日本より中国の方が先に進んでいるといっていい。しかし、多くの出版人がこのことを認識していないし、また、認めたがらない。この中国のウエブメディアの牽引車となったのが、フォレストラインだ。 遠藤氏とフォレストラインについては、また、別の機会に触れるとして、e-bookというモデルが中国で成功しているということは、沈滞するいまの日本の出版界にいい刺激になると思う。
山東省の「白酒」しこたま飲ませ伝説
私は、東京と北京で、彼と何度も酒を酌み交わした。もちろん、北京では、白酒(バイジュウ)である。そして、そのうちの1回は飲み過ぎて、完全に沈没し、朝起きたときにはまったく記憶をなくしていた。 じつは、北京で白酒を飲んだのは、その後、山東省済南(ジーナン)に行き、ここで山東出版集団と打ち合わせをするからだった。当然、打ち合わせ後は夜の宴席になり、ここで、白酒の乾杯を交わすことになる。中国では、こうした儀礼的な酒席の乾杯が相手との距離を計ることになり、ここで、首尾よく相手の心をつかめれば、ビジネスは成功するという。 とくに、山東省は中国でも酒席の掟のようなものが発達している。しかも、白酒をしこたま飲ませられると、さんざん聞かされていた。講談社北京文化有限公司の副総経理の劉岳さんも、私が山東に行くと言うと、「それは大変ですよ」と、意味ありげに笑った。 ただし、ただ酒をたくさん飲めばいいというものではないという。彼らの伝統文化にのっとり、ホストから受けた杯を一気にカラにしなければならない。いわゆる日本の「一気飲み」だ。これを、身分が上の人間から続けて受けていくのが礼儀だという。まず、ホストの「一気飲み」を3回受ける。その後は、ホスト側の次席の人間の杯を受ける。そして、さらに次席の人間という具合に進んでいくという。 となると、白酒は50度を超える酒だから、小型ワイングラス6杯ぐらいで完全にダウンするのは、間違いない。実際、これまで多くの人間が、山東流の歓待にダウンしたという。 「山田さん、6杯は覚悟してくださいね」 と、遠藤氏は事前にアドバイス(?)をしてくれて、それを北京で予行演習してみたら、本当にダウンしてしまったというわけだ。
6杯を覚悟していたが3杯ですんで拍子抜け
山東省済南市にある山東出版集団は、中国でもトップ5に入る出版社で、傘下に10社以上の出版社と、なんとホテルも経営している。その本社ビルの会議室で、先方の幹部たちの歓迎の挨拶を受け、私はこう返礼をした。 「済南は、私にとって一度は来てみたかったところです。遥か昔、この地には李白も杜甫も訪れて、素晴らしい詩を書いています。とくに、李白は白酒を飲んだおかげで、心に残る詩を残しました……」 夜の宴席は、山東出版集団の総経理の張氏も顔を出し、総勢13人の酒席となった。こちらは遠藤氏と彼の中国人マネージャー沈くん。そして、私の部下の小島くんに、同行した編集プロダクション代表の杉森昌武氏。さらに、上海から飛んで来た三井物産上海の加藤仁志氏。これに、先ほど私たちを出迎えてくれて山東出版集団の幹部たちが加わった。 噂に違わず、宴席は張総経理の挨拶から乾杯は始まった。もちろん、白酒である。じつは、事前の作戦で私が潰れたときのために、小島くんが生き残りをかけて、最初から「ビールを」とリクエストすることになっていた。しかし、彼がそう申し出ると、張総経理は一喝した。
「面子」と「人間関係」が 中国の文化の基本
「あれでよかったの?」と、当然、宴席後、私は遠藤氏に聞いた。 「いや、よかったと思いますよ。こちらを尊重してくれたと思いますね。成功ですよ」 遠藤氏によれば、ケースバイケースで、こいつはダメだと思ったら徹底的に飲ませて潰してしまうということもあるという。このケースだと、もうビジネスは成立しない。また、こちらが飲めるとなったら、お互いに徹底的に飲むということもあるという。このほうがマシだそうだ。ただ、きちんと数回で終わらせることもあり、今回はそうだったたから、うまくいったというのだ。 中国は、「面子」と「人間関係」の文化である。まず、相手の面子を立て、そうしてこちらの面子も立ててもらい、そのなかで人間関係が築かれないと、なにごとも進まない。また、中国は、最初に枠組みを決めることが多く、日本のように細かく積み上げて決めていくということは少ない。 これくらいのことは、娘が長く中国にいたので理解していたが、これに「白酒」が絡むとなると、行く前から不安だった。じつは、 北京から済南に飛ぶ飛行機のなかで、「今夜は即死」と覚悟を決めていた。しかし、そうはならずに、なにか拍子抜けした感じだった。 ただ、無事にすんでほっとした。
今後のアジアのリーダーは間違いなく中国
さて、私が中国にいる間に、1月の自動車販売台数が、史上初めて中国がアメリカを抜いて世界一になったというニュースが流れた。中国は前年同月比14%減の74万台だったが、アメリカは、なんと37%減の66万台だったという。いまや、中国はアメリカの覇権喪失(自滅)にともない、名実共に、世界NO.1の大国になりつつある。 この自動車販売数の世界一が意味することは、大きい。それは、今後、日本を含めたアジアの製造業が、アメリカに頼る必要がなくなるということだからだ。 現在、中国は、金融危機を尻目に、せっせと世界の資源を買い漁っている。「China Daily」には、そんな記事が多く載っていた。たとえば、中国アルミは、大規模投資から資金難に陥ったオーストラリアとイギリスの合弁鉱物資源会社リオティントに資本参加を表明。また、中国投資銀行は、欧米の資金が引き上げたブラジル、ロシア、ベネズエラなどの石油会社に次々と投資している。 私が中国にいた間、中国首脳はほとんど中国にいなかった。胡錦濤主席はアフリカ、習近平副主席は中南米、温家宝首相はロシアへと、資源外交に飛び回っていた。 済南から北京経由で日本に帰ったのは3月1日の夜だったが、日本のニュースは、相も変わらず、麻生退陣問題と『おくり人』のアカデミー受賞秘話だけ。中国との落差に、あまりにも淋しくて腹も立たなかった。 麻生首相は外国首脳としては異例の早さでワシントンに呼ばれ、オバマ大統領と会談したが、それは、「呼んであげるから、国債を買ってほしい」という話にすぎない。 中国に行くたびに思うが、もはや、アジアのリーダーは間違いなく中国である。この事実を認めないと、今後の日本のビジネスに未来はないと思う。 |
What's New(最近の更新)
- 24/03/11●書店はどんどん消滅!この10年間で764社が倒産や廃業
- 24/03/08●「Dr.スランプ」の漫画家・鳥山明さんの死は世界でも大報道。国内の低評価は異常。
- 24/03/07●経産省が書店支援の「書店振興プロジェクトチーム」設置という愚策を発表
- [426]大谷翔平の過剰報道はいつまで続くのか?
- [425]大河ドラマ『光る君へ』で、平安時代を見直すと驚くほど新鮮。猛暑と和歌の世界。
- メルマガ[709] 政治腐敗は極致、経済は衰退一方。なのに国家ブランドは世界一という不思議
- 24/02/26●2023年コミック市場は6937億円 前年比2.5%過去最大
- メルマガ[708] トランプNATO発言の背景:アメリカはローマ帝国と同じ道をたどるのか?
- [424]不景気なのに株価暴騰。政治も経済もメタメタなのに、なぜか、安閑とした日々が流れていく
- 24/02/09●ドラマ『セクシー田中さん』問題で、小学館の編集者一同が声明を発表
- メルマガ[707] まだまだ上がる株価。景気がよくないのに株価だけが上がる理由とは?
- 24/02/01●2023年の出版物推定販売金額はかろうじて1兆円を上回る
- 24/01/30●トップカルチャーの連結決算は売上高189億5300万円で前年比9.3%減
- メルマガ[705] 暖冬で雪不足も、このまま春に。そして、10万年に1度の猛暑の夏がやって来る!
- メルマガ[702] 日本では「知らんけど」アメリカでは「Meh」選挙の形骸化で崩壊する民主主義
- メルマガ[703] あるのか初の女性大統領誕生。ニッキー・ヘイリーはトランプに勝てるのか?
- 24/01/15●松本人志スクープで「週刊文春」約45万部が完売。松本のタレント生命終焉
- [外食Diary]KENZO ESTATE
- 24/01/05●前代未聞。小学生向け学習参考書が2023年年間ベストセラー第1位に!
- メルマガ[701] 2024年、日本経済と円はさらに衰退:なぜもう2度と好景気と円高はありえないのか?
- [423]2024年の年明け、初日の出に多幸を祈願
- メルマガ[690]2023年10月〜[700]2023年12月、全タイトル一覧
- [422]もう年末。この3カ月で日本も世界もまったく不透明に!もう見ているだけしかない。
- 23/12/06●『あの子もトランスジェンダーになった』が発売中止に!
- [外食Diary]YIS Food Festival
- [外食Diary]ゆう心
- 23/11/30●近刊情報誌『これから出る本』、2023年12月下期号をもって休刊
- 23/11/11●漫画アプリは韓国「LINEマンガ」と「ピッコマ」が2強状態
- メルマガ[689] 負けがわかっていても突き進む大阪万博は「インパール作戦」「本土決戦」なのか?
- [外食Diary]源や