[225]ストリーミングによっても救われない音楽業界は、明日の出版業界なのか? |
2015年 2月 11日(水曜日) 14:01 |
アメリカでは、音楽販売の状況がオンライン化の進展により、地殻的な大変動を迎えている。オンライン化による音楽業界の状況は、同じくオンライン化による出版業界の状況に大きな影響を与えるので、出版業界の今後のことが気になる。すでに、アメリカでは「The Death of Music Sales」(ジ・アトランティク誌:『The Atlantic』)という記事が書かれるまでになっている。 http://www.theatlantic.com/business/archive/2015/01/buying-music-is-so-over/384790/
今年初め、調査会社ニールセンの音楽業績データ「Nielsen Music」は、2014年における音楽売上データを発表した。それによると、アルバム(CD)売上枚数は2013年の2億8940万枚から11%の減少(全CDでは15%減)。また、アルバムダウンロード(DL)売上は1億1760万枚から9%の減少(全DLでは13%減)を記録している。ただし、有料のオンデマンド型音楽ストリーミングサービス(ST)は54%という驚異的な成長を記録している。 つまり、CDも DLもダメで、音楽聴取はほぼSTに移行しつつある。STと言えば、「iTunes」「SoundCloud」「Spotify」「Pandora」「iHeartRadio」などが代表的だ。
この現象は日本でも変らない。10年以上前から「CD不況」が言われるようになり、CD販売は毎年減少してきた。これを補ってきたのがDLだったが、こちらも最近では減少に転じている。「有料音楽配信」は、2011年以降、4年連続でマイナスだ。 CDがダメでDLもダメとなると、ミュージシャンと音楽業界は制作費を確保することができなくなくなる。実際、ミュージシャンの中には「DLの売上が少なくては次の作品のメドが立たない」という人間が続出している。CDの場合、アルバム1枚が3000円とすると、自身で作詞作曲をするミュージシャンに入る収入は1枚につき約100円。DLだとバラ売りがほとんどだから、売れなければ収入はガタ減りする。
では、こうした落ち込みをSTの急増で補えるのかというと、まず無理だ。「Spotify」などの有料STサービスの値段は、1カ月に約10ドルに過ぎないからだ。しかもこれはサービスだから、売上が伸びるには会員数が拡大し続けなければならない。つまり、売上はいずれ頭打ちになる。CDやDL販売は、ひとつひとつの作品に対する売上だから、作品が増え、ヒット曲が出れば売上が上がる。しかし、STではこれが起きない。 DL販売が始まると、ユーザーはよほど好きなミュージシャンでないとお金を出して新アルバムのCDを買わなくなった。そうしてDLでは、お金を出すのは1曲単位になった。
それがいまやSTでは、新曲やヒット曲などにあまり興味を示さず、いつでも好きな曲を聴ければ満足というようになった。 CDやDLによる音楽販売では、人気上位のミュージシャンが全売上の80%を占めていた。しかし、STではこのような「上位集中現象」は起らず、トップ10の曲でも売上の2%に過ぎないというデータがある。Spotify には約3500万曲が収録されているというが、この中から、毎日トップ10の曲を聴くユーザーがいくらいたとしても、それはたいしたことではないのだ。
もはや音楽業界とミュージシャンは、ライブなどのリアルな現場で稼ぐしかなくなってきている。だから、クラウドファンディングで資金を集め、インディーズバンドを支援するというような動きが起きている。 そこで、出版業界で仕事をしている者として思うのは、音楽業界のこうした変動が、今後の出版業界でも起きるかどうかだ。とくに電子書籍はどうなるのかが気になる。 英『エコノミスト』誌は最近(2015.1.15)「Publishing: Spotify for books」(2015年1月15日)という記事を載せている。この記事を読むと、今後、電子書籍も音楽と同じようにSTが主流になるとしている。
日本でも最近、月額料金を支払って雑誌やマンガ、小説などが一定期間読み放題になる「電子書籍の読み放題サービス」が増えてきている。 しかし、本当にこうなると、出版社は新作を出すためのコストが維持できなくなり、作家は印税収入が激減する。その結果、新作は減り、作家はミュージシャンと同じようにリアルの場(講演や有料読書会など)での収入を増やさなければ生活できなる。ただし、作家は、ミュージシャンと違ってパフォーマンスでお金を稼ぐ能力は、それほどない。また、コンサートやライブほど作家の講演会が人を集められるだろうか?
ただ大きな疑問もある。それは本が音楽とは2つの点で違っていることだ。1つは、読むという行為が能動的であること。これは音楽が聞き流すこともできるので、聞き放題でも済むが、本ではそうはいかないということ。また、音楽は3、4分でひとつの作品が終わるが、本はいくら短くても1時間は時間を取られるということだ。 こうしたことから、電子書籍とはいえ、まだユーザーはひとつの作品にお金を払う可能性もある。
はたして、音と文字という差異を乗り越えて、電子書籍もSTが主流になる時代が来るのかどうか? いまのところ、私にもわからない。ただ、電子書籍がいま大きな過渡期に差しかかっているのは間違いない。もし、STが主流になれば、紙市場はCDと同じく縮小を続けているので、業態変換ができないかぎり、やがて多くの出版社が潰れるだろう。
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