2015年5月15日●私がプロデユースした『孫子が指揮する太平洋戦争』(前原清隆・著、文春新書)5月20日に発売 |
著者の前原さんは、元陸上自衛官で、現役中は部隊・陸幕・統幕・外務省・米軍等の勤務を経験し、現在は、NPO法人『孫子経営塾』を主宰し、代表理事(塾長)を務めています。この塾には、さまざまな人が参加し、「戦わずして勝つ」という孫子の思想を理解し、それを生き方・ビジネス・経営・人創りなどに役立てています。 本書はその成果を、太平洋戦争にだけに絞って書籍化したものです。 前原氏らがいちばん思っていることは、「なぜ日本は孫子を軽視してしまったのか。軽視しなければ、あのような無茶な戦いはせず、勝機もあったのではないか」ということです。実際、太平洋戦争を検証すると、大日本帝国の指導者、軍人たちは、この古典を軽視し、《兵とは国の大事なり、死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり》という孫子の哲学を捨て去り、兵士たちに「必殺、必勝、必贏(ひつえい)」(「贏」は勝つという意味)という歪んだ教えだけを叩き込んでいます。これでは、戦争(ビジネス)に勝てるわけがありません。
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■孫子は一貫して「非戦」を説き「平和」を追求
ところで、『孫子』と言えば、《彼を知り己を知れば百戦して殆(あや)ふからず》(第3章:謀攻篇)がいちばん有名です。これは、「敵の実力を知り、己の力を知り、その優劣・長短を客観的に把握していれば,何度戦っても負けることがない」という教えです。 しかし、多くの人が誤解しているのは、孫子は根本的には戦争しないこと(不戦)を最善としていることです。孫子は一貫して「非戦」を説き、「平和」を追求しています。それが、《戦わずして人の兵を屈するは善の善なり》(第3章:謀攻篇)であって、孫子は「戦わずして勝つ」ことを本質的な哲学としているのです。 したがって、《彼を知り己を知れば百戦して殆(あや)ふからず》は、やむなく戦わかなければならなかったときの教えです。すなわち、孫氏は徹底して「情報を集めろ」と言っています。敵の情報が不十分なら、必ず負ける。戦ってはいけないということです。その意味で、あの太平洋戦争は本来、戦ってはいけない戦争でした。
■個々の戦争における孫子の教訓
というわけで、本書ではまず、開戦初期における真珠湾奇襲作戦について述べた後、ミッドウエー海戦、ガダルカナル作戦、重慶打倒作戦とセイロン作戦、マリアナ海戦、レイテ決戦、インパール作戦、本土決戦といように、個々の戦いを、孫氏の視点に立って考察・分析しています。
以下の、この本の「目次」です。 第1章 真珠湾攻撃-----兵は詭道なり [コラム1]概説“孫子の兵法”とは? 第2章 ミッドウエー海戦------勝を知るに五あり 第3章 ガダルカナル作戦------人を致して人に致されず [コラム2]なぜ日本軍は孫子を軽視したのか? 第4章 重慶打倒作戦とセイロン作戦-----勝ち易すきに勝つ 第5章 インパール作戦-----将に五危あり 第6章 マリアナ沖海戦------勝つべからざるものは守なり [コラム3]東郷平八郎とニミッツと孫子 第7章 レイテ決戦-------死地には則ち戦う 第8章 本土決戦------亡国は以って復た存すべからず
■いまも通じる「人創り」の思想
孫子の名言は軍事に限らず、いまも生きています。このグローバル化した世界においても、個人から組織、ビジネスにいたるまで不滅の真理です。だから、多くの個人、経営者、政治家などが、いまでも『孫子』を愛読し、そこから多くの教訓を引き出しています。 たとえば、グローバル人材、リーダーの育成ということで見ると、次の名言があります。孫子の思想は、人創りに関して次のようにはっきりしています。 《凡そ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ。故に善く奇を出だす者は、窮まり無きこと天地の如く、竭(ツ)きざること江河の如し》(第5章:勢篇) 現在と異なり、2500年前の中国の江河の水は尽きることがありませんでした。そんななかで、まさに千変万化する状況の変化に応じて“奇を無限に出し得る人創り”こそ、孫氏が理想としたことです。 |