[250]オバマ大統領、広島訪問で本当の涙を流すために-------。 |
2016年 4月 24日(日曜日) 03:17 |
「ありがとうございます。生きているうちに現職のアメリカ大統領の広島訪問を観られるなんて思いもしなかった!この光景を見ながら泣くでしょう」 と、ネットの声にあったが、おそらく私も泣いてしまうだろう。5月27日、彼が慰霊碑の前に立ち、なにか言い出しただけで、涙が出てくると思う。 とはいえ、今回の訪問に関してはいろいろな見方がある。そこで以下、泣く前に、このことを整理しておきたい。 まず、この訪問がなぜ実現したのかだが、これにはいくつかの理由が考えられる。
■「謝罪なき訪問」の理由とは?
その第一は、やはり、オバマ大統領自身が広島訪問を望んでいたことだ。彼は2009年11月の初訪日の際、広島訪問について「将来訪問できたら非常に名誉だ」と述べている。プラハで「核なき世界」を訴えてノーベル平和賞を受賞した以上、広島訪問は彼の任期の締めくくりの象徴的な出来事として、歴史に名を残せるからだ。 第二の理由は、アメリカの世論(言論)が、広島訪問に反対しなかったことだ。いくら人道的には犯罪だとはいえ、原爆投下は戦争終結のためには必要だったというのが、これまでのアメリカの公式見解だった。つまり、日本に対して謝罪は必要ないとしてきた。 しかし、NYタイムズ(3月13日)は、「ケリー氏が地ならしをした以上、オバマ大統領が初めて広島を訪問する大統領になることを妨げるものはないはずだ」と、容認する姿勢を示した。さらに、ワシントンポスト(3月16日)も、「オバマ大統領は謝罪のためではなく、核の平和に向けて努力するために広島を訪問すべきだ」と続いたので、訪問に対する障害は消えた。 というわけで、訪問しても謝罪はありえない。プラハ演説と同じような人類社会全体へのメッセージになるだけだろう。とはいえ、それだけでも日本にとっては快挙だ。
■中国拡張主義に対する牽制
オバマ大統領広島訪問の第三の理由は、中国の覇権主義への牽制だろう。広島訪問は、中国に対して、アメリカのアジア太平洋政策が盤石なことを見せつけるためでもあるはずだ。 もともと「核なき世界」というのは、安全保障から言えば、矛盾に満ちたものである。なぜなら、核保有国でありながら、それを自ら否定しなければならないからだ。しかも、アメリカの核の傘で守られている日本の広島を訪問して、「核なき世界」を訴えるのである。 とすれば、広島訪問には、その裏に、アメリカの政治的な意図があって当然だ。それは、アジア太平洋地域の国々、とくに日本の安全保障はアメリカの死活的な利益だとするメッセージである。 これは、日本にとって本当に有難いことだ。 案の定、反日の中韓は反発している。朝鮮日報(4月23日)は、中国人民大学国際関係学院の時殷弘教授が「米国の大統領が被爆都市(広島)を訪問するのは、中国を刺激する行為だ。(米日両国は)安全保障をめぐる競争をあおり、アジアの平和を脅かす行為をやめるべきだ」と述べたことを伝え、韓国には「戦争を起こした国である日本を被害者扱いし、日本の過去の侵略の歴史に免罪符を与えかねない」という声があることを強調した。
■欧州、中東での失敗を広島で埋め合わせ
ところで、オバマ大統領はプラハ演説後、世界平和に対してはなんの成果も上げられなかった。欧州の平和を訴えたのに、ウクライナを見捨ててロシアに完敗した。 さらに、プラハ演説と同じような演説をカイロ大学で行ない、「安定した安全な中東」を約束したにもかかわらず、中東を大混乱に陥らせた。アメリカは事実上中東を見捨ててしまい、IS(イスラム国)の拡大、サウジとイランの断交、大量の難民をつくってしまった。 こういう経緯を見れば、今回の広島演説も口先だけなのは間違いない。彼は、力の使い方を知らない。というより、使うことを極端に嫌がる。その結果、欧州、中東から逃避せざるをえなくなった。だから、その失敗のツケを日本で穴埋めしようという意図も見える。なぜなら、この地域は、北朝鮮という爆弾はあっても、まだまだ、危機は顕在化していないからだ。 とはいえ、こうしたことを割り引いても、今回の広島訪問は、日本にとっては大歓迎である。
■アメリカは加害者ではない
ただ、日本人として懸念していることがある。この国には、左翼、右翼とも根強い「反米感情」がある。それが、吹き出して「謝罪しろ」という声が大きくならないかということだ(そういうことはないと思うが、左翼はなにをするかわからない)。 原爆投下に関しては、日米では大きく認識が違う。多くの日本人は、原爆投下は人道犯罪であり、アメリカには道義的責任がある、私たちは被害者だと思っている。しかし、多くのアメリカ人は、人道犯罪で道義的責任があるということを百歩譲って認めても、アメリカが加害者だとは思っていない。 私は娘がインター育ちで、アメリカ式の教育を受けたため、アメリカの歴史教科書やサブテキストをよく読んだ。そのなかで、原爆投下は生徒同士で議論する項目になっているものの、アメリカが加害者だとは述べられていない。実際、よくよく考えれば、これは事実だ。なぜなら、原爆を投下したのは、アメリカだが、そうさせてしまったのは日本だからだ。
■はたして「道義的責任」を問えるか?
もし、広島、長崎で亡くなった人たちに謝罪するとしたら、それはアメリカ大統領ではない。いまは存在しない大日本帝国の中枢にいた人々である。 なぜなら、彼らこそ人道を無視し、人の命の尊厳など顧みず、1億総玉砕しても国体と天皇を守ることを国民に強いたからだ。1945年の敗戦に至る半年間を考えただけでも、15、6歳の少年兵まで使ってカミカゼ特攻をやらせ、沖縄では住民を巻き込んで徹底抗戦までさせた。ポツダム宣言が出されてもまだ本土決戦を命じていた。なぜ、こんなことを続けたのだろうか? もし、人道や道義的責任を問うなら、こちらのほうがよほど重大ではないか。同じ日本人が日本人に、「死ね」と命じていたのだ。 私が絶望的な気持ちになるのは、この時期、日本はいつでも降伏できたのにそれをしなかったことだ。あれほど負け続け、あとは国民がどんどん死ぬだけだとわかっていながら、「戦え」と命じ続けたことだ。 しかも、その一方で、すでに日本侵攻を狙っていたスターリンのソ連に和平の仲介を頼むなど、愚かなことを行っていた。信じ難いことだ このとき、私の父は満州で戦い、母は空襲下で怯えて暮らしていた。
■原爆投下をさせてしまった責任
歴史に「IF」はないが、「IF」で考えないと真実は見えてこない。1945年当時の大日本帝国政府の愚かさ、国民の命を顧みない非情さがなければ、アメリカの原爆投下はなかったはずだ。 つまり、原爆投下をさせてしまったのは、日本人自身である。したがって、本当に謝罪しなければいけないのは、日本政府である。しかし、現在の日本政府は当時の政府を継承しているわけではないので、この論理は成り立たない。 それでも、時々、私は思うことがある。いくら、戦後に民主主義政府になったとはいえ、いまの日本政府も当時と変わらないのではないかと。 結局、戦後70年も経った。どんな理屈があろうとあの爆弾は投下されるべきではなかったという意見もある。しかし、これらのことをすべて思い、5月27日に、亡くなった人々に手を合わせるためには、歴史認識をはっきりさせる必要がある。 そうでなければ、死んだ人々は浮かばれない。本当の涙は流せない。 |
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