[031]歴史は変るのだろうか? 2009年の夏を振り返る |
2009年9月13日、14日、16日 9月になってから、急に涼しくなった。8月31日に台風が来てから、すべてがガラッと変ってしまった気がする。台風一過の9月1日、駅のホームから見上げた空はどこまでも青く、空気は澄みわたっていた。電車に乗ると、夏休み明けの子供たちの元気な姿があった。そして、この2週間、暑さはついに戻ってこなかった。
http://www.youtube.com/watch?v=2CBjNWYRO-A 徳川家広氏と北京に赴任する近藤大介氏を送る ジャーナリストで講談社の『週刊現代』の副編集長の近藤大介氏が北京講談社に赴任することになり、7月の初め、送別の夕食会を翻訳家の徳川家広氏を交えて、近藤夫妻と私の家族でやった。
「共産主義国家が民主主義国家になる」という皮肉
その後、ジョン(ワッツ記者の愛称)と、有楽町のガード下の居酒屋『新・日の基』に場所を移した。そこには、『ガーディアン』東京特派員のジャスティン・マッカリー記者(Justin McCurry)と、『フィナンシャル・タイムズ』のミュア・ディッキ東京支局長(Mure Dickie)がいた。
思えば、今年の夏は、中国、中国で過ぎた
今日は9月16日、ほぼ1日空いてしまったが、前回の続きを書く。民主党政権は、昨夜やっと閣僚名簿が決定し、今日、新内閣が発足する。「歴史が変わった」とされる選挙からまるまる2週間、メディアは大騒ぎを続けてきたが、まだなにも変わってはいない。 今後の日本がどうなるかは、ともかく新政権が動きだしてみなければわからない。 さて、それにしても、なぜ、この夏は中国、中国となってしまったのだろうか? 前回書いたことを読み返してみて、つくづく中国関係が多いことに自分ながら驚いた。数年前まで、私も家族もアメリカ志向だった。それが、娘が大学2年生の「study abroad」で中国に行ってからは、ガラリと変わった。 もちろん、中国の成長が猛スピードで、低成長の日本よりはるかに刺激が多いこともあるだろうが、それ以上に、自分がアジア人であることのほうが大きいと思う。欧米の街を歩いて感じないデジャブーの感覚が、中国の街を歩くと、突然湧き上がってくることがある。以前、自分がこの光景のなかにいた。いや、確かにいたに違いないと思うことが、何度かあった。ほとんどの日本人のルーツが大陸なのは疑いようがない。
金融危機以後も、ヘッジファンドは健在だ
こうした中国とアジアの台頭に、私などよりはるか以前に気がつき、「これからはアジアの時代」と、仕事と生活のベースを香港に移してしまったのが、ファンドマネージャーの渡辺雅子さんだ。 彼女のことは、このブログの[013]にも書いたが、なんと、渡辺さんが香港に移り住んだのは、1994年のことである。 その渡辺さんは、毎月のように日本に来ているが、7月29日の夜、食事に誘われ、麻布十番の『ピアット・スズキ』に行った。ここは、イタリアンの人気店で、わずか18席しかないので予約が大変。グルメの渡辺さんは、香港からこの店を予約してくれていた。 リーマンショック以後、世界金融は激変したが、ヘッジファンドは一部をのぞいて健在である。「この前は、オーストリアまで行ってきました」と、渡辺さん。「いまは世界中に、パフォーマンスがいいファンドがいっぱいありまして、そうしたファンドを見つけると、そのマネージャーに直接会いに行っているんですよ」と、続けた。 オーストリアのような東欧諸国にも、優良なヘッジファンドがあるとは驚きである。つくづく世界は狭くなったと思った。渡辺さんは欧州暮らしが長かったから、欧州各国に友人がいて、オーストリアではウィーン郊外でアグロツーリズモ・ステイを楽しんだという。 今月の24、25日に、ピッツバーグで、G20の首脳会合(金融サミット)が開かれる。ここでの焦点は、金融規制と金融機関の幹部に対する報酬制限だ。これがどうなるかでヘッジファンドの世界も変わるが、もし、規制を強めれば、資金は欧米からアジアに向かうだろう。 ニューヨーク、ロンドンの規制が強まれば、それに代わって、香港、シンガポール、ドゥバイが、世界の金融センターとしてますます発展することになる。まさに、アジアの時代だ。もちろん、いまの東京はカヤの外である。
投資家たちの投資意欲は衰えていない
アジアの時代を見越して、ほぼ日本を捨ててしまった投資家・上条誌郎氏が帰国するというので、会いに行った。7月27日の午後、例年なら暑くて汗がふき出すはずだが、この日は曇っていて涼しかった。それで、海浜幕張駅からアパホテル&リゾート[東京ベイ幕張]まで歩いた。 ホテルでは、「成功の7つのステップ」で有名なジェームス・スキナー氏のイベントが行われており、その合間に、上条氏とランチをした。 彼のことは、連載ブログ「ニュー・リッチの未来」の1回目に書いたとおりだが、金融危機以後も元気である。「かえってこういうときこそ、投資意欲が旺盛になる」と、何度も聞かされた。二番底が来るとしても、それが悪いこととは限らないのが投資の世界だ。投資家は、経済がよかろうと悪かろうと、どんなコンディションでも投資からリターンを得られるような仕組みが、いまの世界ではでき上がっている。 「今度はいつ戻る?」と聞くと、「まだよくわかりません。いまは、ベトナムに集中していますから」と、上条氏。彼は、いまベトナムで大規模な投資をしている。 上条氏は、いわゆるパーマネント・トラベラーである。日本には、年間の半分もいない。パーマネント・トラベラーになれば、定住するという概念はなくなり、ビジネスをする国、家族が生活をする国、納税をする国、バカンスを楽しむ国を使い分けることができる。こうした生き方を発明したのは、ヨーロッパ人たちだが、最近では、中国人、韓国人もやっている。 ただし、日本人はほとんどいない。
高城剛・著『サバイバル時代の海外旅行術』が発売
高城剛氏の『サバイバル時代の海外旅行術』(光文社新書)が発売されたのは、8月半ばのことだった。いま、アマゾンのレビューを読んでも、評判がよく、「読みやすく面白く、ためになる本」という声が多いのが、私としては素直にうれしい。 じつは、この本のきっかけを多少なりともつくったのは、この私かもしれないからだ。 『GO!IBIZA楽園ガイド』の打ち合わせで、彼の話を聞ききながらいつも思ったのは、なぜ、日本の若者が彼のように自由に旅をしないかということだった。 i-PhoneやPCでネットから情報を得て、LCCを利用すれば、格安で世界中を飛び回れる。高城氏は、いつもそうしてトレンドセッターとして生きてきた。富裕層がするラグジュアリーな旅の世界も、パック旅行の世界も旅は旅だが、彼の旅は、まさに現代だから可能な最新の旅である。そのことが、この本にはギッシリ詰まっている。そうして、最新の旅をしないと、いまの世界のリアルな姿は見えてこない。 打ち合わせの席で、日本のガイドブックが使えない、時代に合っていないという話になったとき、かつての若者のバイブル的ガイドブック『地球の歩き方』が、いまや購買年齢層も40代が中心になり、なんのメッセージもないカタログ・ガイドになってしまったことを、私も高城氏も嘆いた。 「あれは地球の歩き方ではない。地球の迷い方だよ」と私が言うと、彼は笑いながらうなずいてくれた。 高城氏は私より、一世代下だが、「ボクのバイブルは『Whole Earth Catalog』です」と言ったので、なぜかすべてが納得がいった。 スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での卒業式スピーチは、いまでも記憶にあざやかだ。そのスピーチの最後の言葉、“Stay hungry. Stay foolish.”は、『Whole Earth Catalog 』の最終版 『Whole Earth Epilog 』の裏表紙にあった言葉である。
いま必要なのは、世界のトレンドを知る人間
いまの日本には、彼のような、世界のトレンドの最先端を身を持って知っている人間が必要だ。ハイパーメディアクリエーターという肩書から、旧世代の年輩の方々は「得体のしれないヤツ」と胡散臭がるが、とんでもない間違いだ。ファッション、音楽、映画、ITなどのトレンドを支えているのは、最新の経済・金融であり、最新のテクノロジーである。そして、ローカルにしてグローバルな伝統文化、生活様式も、それに含まれる。高城氏は、それを理解している。 永田町や霞が関に出入りし、政治家や官僚の「日本改革論」をこれまで何度も聞いてきた。しかし、彼らの話より、よほど高城氏の話のほうが的を射ていて面白いし、建設的だ。 民主党の若手政治家のなかには、かなりの論客がいる。若手官僚のなかにもかなりの論客がいる。しかし、彼らが得意なのは、机上のデータの駆使、学者の論説の受け売り、経済理論・公共政策論などのこねくり回しで、なんでも本当によくは知っているが、聞いていて眠たくなる。 民主党議員のなかで、いま誰がi-PhoneやSmart phoneを使っているだろうか。PCは使っている。ただ、それで自身のBlogも書いているといっても、ほとんどが他人に任せてアップしているだけだ。自民党はもっとひどいから、書くまでもないが……。 そして、誰が世界を見聞して歩き、グローバルなネッワークのなかで生きているだろうか? オバマ大統領は『Blackberry』の愛用者である。 民主党は、本当にこの日本を改革できるのだろうか?
残念ながら、五輪誘致で東京はリオに敗れるだろう
高城氏が本のあとがきに、私への感謝を書いてくれたので、そのお礼のメールを出したら、しばらくして返事がきた。 その冒頭に、「この三週間で、バルセロナ→サンセバスチャン→マドリッド→バルセロナ→アムステルダム→東京→アムステルダム→ロンドン→ナイロビ→マサイマラ→ナイロビ→ロンドン→バルセロナ→ロンドン→東京→ロンドン→バルセロナ→フランクフルト→リンツ→フランクフルト→バルセロナ→ロンドン、そしていま東京に向かっています」とあった。 彼はいま、「東京オリンピック2016招致」の総合演出をしている。 五輪開催地を決めるIOCの総会は、10月2日に迫っている。さすがの高城演出でも、東京になるのはほぼ無理だろう。シカゴとリオデジャネイロの一騎打ちに持ち込まれ、南米初のリオデジャネイロ・オリンピックが実現する可能性が高い。 私には、なぜ、いま五輪誘致をしなければならいのか、その理由がわからない。かつて大阪が同じことをやり、北京に敗れたことが、まったく教訓になっていない。
JAL(日本航空)の再建問題の的外れ
この2、3日、JALの再建策がメディアを賑わせている。デルタかアメリカンか、どちらかの外資導入を計る案が出た後、6000人削減と路線2割カットという大幅なリストラ案が提示された。 しかし、もはやJALは事実上、破綻している。破綻した航空会社にさらに資金(すでに政策投資銀行を通して税金が入っている)をつぎ込むより、やるべきことはある。 それは、成田や関空を24時間空港にすること。羽田の国際空港化をもっと強化すること。さらに、一刻も早くオープンスカイに参加することだ。成田や関空は、いまやアジアのローカル空港と化している。こんな状態で、かつてのフラッグキャリアを復活させることなどできるわけがない。
酒井法子と押尾学の覚せい剤事件で思い出すこと
話は変わるが、この夏の話題を独占したのは、酒井法子と押尾学の覚せい剤事件だった。今日は、酒井法子容疑者が保釈されるというので、湾岸署に200人以上の報道陣が集まっている光景を、テレビで見た。 こういう光景を見ると、昔、女性週刊誌で芸能担当だったころ、自分もあのなかにいた記憶がよみがえってくる。 その記憶が、9月14日に、57歳という若さで膵臓癌により死亡したパトリック・スウェイジと結びついた。 私が芸能記事を担当していたのは、1990年代の初めまで。最後は、松田聖子の当時の不倫相手ジェフ・ニコルスの告白記事だったが、このときは、ジェフをニューヨークでインタビューした。その経緯は省くが、このジェフが松田聖子と知り合ったのが、当時、パトリック・スウェイジが63丁目の3rd. アヴェニューで経営していたマホラード・カフェだった。 1991年にピープル誌の「最もセクシーな男」に選ばれたパトリック・スウェイジの人気は絶頂で、マホラード・カフェには多くのセレブが集まっていた。そうした客たちのなかに、松田聖子がいて、このカフェでウエイターをしていたジェフに声をかけたのが、2人の交際の始まりだった。 当時、CBSレコーズを買収したソニーは、アメリカで松田聖子を売ることを真剣に考えていた。
エセックスハウスがJALの旗艦ホテルだった時代
1990年代の初め、クリントン政権になってからのアメリカは、もっとも輝く時代を迎えようとしていた。冷戦が終了して、アメリカは文字通りスーパーパワーとなり、クリントンの「It’s economy」の掛け声で、経済は復活した。 1980年代に麻薬と犯罪で汚染されたニューヨークの街も、浄化が進んでいった。ジェイ・マキナニーが描いた『Bright Lights, Big City』は過去のものとなりつつあった。『Bright Lights, Big City』は、コカイン漬けの編集者の80年代の日常を描いていたが、コカインなどまったくトレンドではなくなっていた。 いまの日本の麻薬汚染を見ていると、経済低迷と社会の閉塞感が大きく影響していると、つくづく思う。 1990年代の初めごろまでは、日本も輝いていた。アメリカの知人に「なんの取材に来たんだ?」と聞かれ、「マツダセイコ」と答えると、「そうか、車と時計か」と言われた。車の「マツダ」と時計の「セイコー」だと思われたのだ。 これは冗談ではない、本当の話だ。 そういえば、このとき、突然、芸能レポーターの梨元勝さんから電話が入り、「エセックスハウスにいるのですぐ会いたい」と言われた。「えっ!、梨さん、なんでニューヨークにいるんですか?」と、私が驚いて聞き返すと、「じつは、奥さんから聞いたんです。1週間も連絡が取れないから、ピンときて、これはなにかを追いかけているなと、飛んで来ましたよ」と言うので、さらに驚いた。 このエセックスハウスは、当時はJALが経営していた。ニッコーホテルズの海外の旗艦ホテルであり、当時のJALは、正真正銘のナショナル・キャリアだった。 現在、エセックスハウスは、アラブ首長国連邦の「ジュメイラ・インターナショナル」が経営し、「ジュメイラ・エセックスハウス」となっている。
小泉改革がなんだったのか?なぜ誰も本質を言わない
本当に、時代は変わった。思えば、あのころから、日本はふたたび鎖国国家になった。そして、もう15年以上「鎖国」を続けている。鳩山新首相は、「東アジア共同体」を目指す姿勢を打ち出している。 しかし、その反面、EUやアメリカとのFTA交渉を積極的に進める気配はない。 また、民主党政権の一部の方々は、小泉改革を否定している。「小泉改革が日本を悪くした」と言い、時計の針を逆に戻そうとしている。しかし、小泉改革が悪かったのは、エセ改革であり、本当の改革ではなかったことだ。 改革するように見せかけて、本当はほぼなにもせず、「鎖国国家」を続けてきたことである。 私は、いろんな人に聞いて歩きたい。「小泉改革は改革でしたか?」と。そして、「日本は鎖国していませんか?」と。 はたして、民主党政権は開国することができるのか? 歴史が変わるというなら、いますべきことは、開国以外にないと思う。
すっかり「鎖国国家」の住民になってしまった
いずれにせよ、あっという間にこの夏は過ぎてしまった。 まだまだ、たくさんのことがあったが、書けないことも多い。中国からは、まだここに書けない多くの知り合いが東京にやって来た。アメリカからもやって来た。夏は、人がいちばん移動する季節だ。 そういえば、長くカリフォルニアのパームデザートにいた藤原肇氏(国際ジャーナリスト)も私を訪ねてきて、「アメリカを引き払った。これからは台湾に居を移して、そこで暮らす」と言われたので、あらためて驚いた。やはり、アメリカの時代は終わり、アジアの時代が本格的に来るのだろうか? 休みが取れず、国内に閉じこもって過ごしたのは、ここ10年以上なかったことだ。海外からは、友人知己がやって来るのに、すっかり「鎖国国家」の住民になってしまった気分である。 毎年のように家族で行っていたハワイも、すっかり遠くなった。 それでも、1回だけ、家族旅行をした。7月24、25、26日の金土日、大阪に行き、2泊して、そのうちの丸1日を、ユニバーサルスタジオ・ジャパン(USJ)で遊んだ。初めてUSJに行ったが、大人としてはデイズニーランドより楽しめた。 うちの家族は食べていれば機嫌がいいので、夜は、「食い倒れ」に徹し、北新地のたこ焼き屋を7軒ハシゴした。最後は、自分焼きで有名なマルビルの地下の「蛸之徹」に行き、苦しくなったお腹を抱えてホテルに帰った。 「一晩で7軒? ありえない」と言われたが、やはり大阪、同じたこ焼きでも店によって味はそれぞれ違う。 ただ、もうたこ焼きは当分、食べたくない。
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