[038]久しぶりのハワイで感じた「天国も不況には勝てない」現実 |
2009年10月27日 久しぶりにワイキキを歩いて、その変貌ぶりに驚いた。 メインストリートのカラカウア通りにあるロイヤル・ハワイアン・ショッピングセンターは、「ロイヤル・ハワイアン・センター」として生まれ変わり、新しい店が次々にオープンしていた。2階にフードコートができ、大勢の観光客でにぎわっていた。 また、アウトリガー社が手がけていた地域開発プロジェクト「ワイキキ・ビーチウォーク」もほぼ完成し、ルーワース通りとワイキキ・ビーチウォーク周辺にもたくさんの店がオープンしていた。 ここには、もうじき、あのドナルド・トランプが初めて手がける高級リゾートホテル「トランプ・インターナショナル・ホテル・ワイキキ・ビーチウォーク」がオープンする。この通称トランプホテルは、ロイヤルハワイアン、ハレクラニ以上のラグジャリーなホテルとして、いま評判を呼んでいる。
新装オープンしたロイヤル・ハワイアン 夜もにぎわうビーチウォーク
ラグジャリー施設オープンのかげで消えていった店
しかし、これらの施設はみなリーマンショック以前から開発されていたもので、ハワイの景気はいまだにどん底状態にある。ラグジャリーな施設がどんどんオープンするかたわらで、なくなった店も多い。ナイキタウンやバナナリパブリックはワイキキから撤退した。 カピオラニ・ビーチで娘とボディボードをしたあとよく行っていたカラカウア通りに面したラーメン屋さんももうない。海から上がったあとは、ここでラーメンを食べて、向かいのサーティンワンでスムージーを買って帰るのが日課だった。いま、このラーメン屋さんは、バーガーキングになっている。 インターナショナル・マーケット・プレイスの露店も様変わりした。韓国系や中国系の人たちが売るお土産品を見た後、2階に上がって、無料のフラショーをよく見た。しかし、いま2階にあるのは1店だけで、ほかの店はみなクローズしていた。もちろん、フラショーもやっていない。 「フラを見たいなら、ロイヤルハワイアンでもショッピングプラザでもやっているので、そちらに行かれれば」と言われたが、私も家内も、せいぜい20~30人ぐらいの観光客相手に、地元のおばさんや子供たちが踊る素朴なダンスが好きだった。ハワイのフラは年々、観光化、ビジネス化が進んで、いまやショービジネスになっている。
オフシーズンなので人は少ない カラカウア通り
「Quiksilver」と「Roxy」と「たまごっち」の時代
家内と娘は、毎年、夏をハワイで過ごした。娘は、エレメンタリーの2年生から、La Pietra HawaiiSch For Girls のサマーセッションに通い、ミドルスクールからは州政府前にあるSt. AndrewsPriory Schoolのサマースクールに通った。 St. Andrewsに通うのには、インターナショナル・マーケット・プレイスからクヒオ通りの対面にあるバス停から、20番のバスに乗った。このバス停そばのナフア通りの角には、以前、カレーハウスの「CoCo壱番」があったが、違う店になっていた。インターナショナル・マーケット・プレイスのクヒオ通り側には、以前は「Quiksilver」のショップがあったが、ここももうない。ここで娘にせがまれ、当時はやっていた「Roxy」のロゴ入りの白いボードを買った。 「もっとほかにいいのがあるでしょ」と言っても、まだミドルスクールだった娘は白い色にRoxyのピンクの模様が気に入って、「これじゃなければいや」と言い張った。 そういえば、インターナショナル・マーケット・プレイスで、「たまごっち」を買ったこともあった。日本では手に入らなかったが、なぜか、ここの露店ではたくさん売っていた。もちろん、ニセモノも売っていて、どちらも買った。 あの頃の日本は、まだ元気だった。1990年代の半ばまでは、いくらバブルが崩壊したとはいえ、ここ、ハワイでは日本の存在は大きかった。もちろん、いまも日本人観光客は多い。10月はこちらはオフシーズン。しかし、日本は結婚シーズンなので、日本人カップルの姿がやたらに目についた。 ワイキキを歩いていると、日本人観光客をいっぱい乗せてワイキキトロリーが終始行きかっている。JTBやH.I.S.専用のトロリーは、乗客は日本人だけ。昔は、こんなトロリーは走っていなかたので、いつもバスに乗った。20年前、バスはクウォーター2枚(50セント)で乗れたのに、いまは2ドル25セントもする。相変わらず、日本人は日本人だけで固まり、行くところもほとんど同じだ。
ワイキキトロリー
日本人観光客、とくに日本人女性に盛況なのが、化粧品や健康グッズなどを置いているショップだ。そこには、日本の女性誌で取り上げられた製品が並び、取り上げられた記事が展示されている。「あ、これよこれ!」と、OLの2人連れが声をあげていた。
日本の女性誌に紹介されたことを宣伝するショップのウィンドウ
これからの観光客の主役は中国人と韓国人
ホノルルのメディアは、「観光客の主役がシフトしている」と伝えている。これまでは、アメリカ西海岸からのアメリカ人と日本人が主役だったが、今後は中国人観光客がさらに増えるだろうという。 中国および韓国からのハワイ旅行者は、年々増加している。 ハワイ州政府は、中国からの旅行者は、今後3年で3倍規模になると予想しており、民間レベルでも一部プレマーケッティング活動が始まっている。 さらに、州政府は、現在、ホノルル-上海直行便誘致に動いているという。 韓流スター、パク・ヨンハが、ハワイ・コンベンションセンターで単独コンサートを行った。10月17日に行われたこのコンサートには、韓国人より多い1000人以上の日本人ファンが訪れ、パク・ヨンハの一挙手一投足に歓声を上げ、熱気ムンムンだったという。日本人ファンは、「アンコール」を連呼。パク・ヨンハは2回もステージに上がり、ダブルアンコールでファンの声援に応えたという。 こんなことは、10年前ならありえなかったことだ。街角のスタンドに置かれている無料のクーポン付ガイドブックも、ハングル版が2つもできた。これも、昔はなかった。
あまりの円高で今年は日本に里帰りできない
帰国する日、昼過ぎのJALなので、娘はお腹がすくとランチを買いに出かけて、怒って帰ってきた。「急いでいるのに、20分も待たせるんだよ。でも、2袋と言ったのにフレンチフライが1袋多い」と、すぐに機嫌をなおした。 娘が買ってきたのは、小さい頃からいつも買っていた「TEDDY'S Bigger Burgers」のハンバーガー。ここは、地元のレストランランキングのバーガー部門を毎年受賞している人気店で、なんと日本に進出し、この10月1日に原宿店がオープンしている。 空港に向かうタクシーのなかで、「ハンバーガーを買うために遅れたので、急いでほしい」と言うと、「大丈夫!ショートカットを知っているから」と、年輩の日本人女性運転手が言った。 「昔は大型トラックの運転手をしていて、タクシーを始めたのは3年前。ハワイで大型を運転していた女性は私ぐらいしかいないんじゃないかな」 へえ、こんな人もいたのかと思った。家内が「毎年日本には帰られるの?」と聞くと、「毎年帰っているけど、今年は円高過ぎてあきらめましたよ」と言う。なぜ、1ドルが90円になってしまうのか、私には理解できない。実体経済は、どう見ても日本のほうが悪い。
財政難からハワイ州の学校は、なんと「週休3日制」に!
空港に向かうH1(高速)がやや渋滞していたので、「ウィークデイなのに変ですね」と言うと、「なんか今日は学校がお休みらしいよ。ハワイだけ、学校は週休3日になったそうよ」と言うので、「そんなことがあるの?」と、家内と首を傾げた。 娘は「週休3日にしても同じだよ。ハワイの先生はいつも遊んでいるから」と、当然といった雰囲気。「オバマが出たプナホみたいな優秀な学校もあるじゃないか」と言うと、「あそこも同じじゃない。とにかく、ハワイは勉強するところじゃないよ」と気にもとめない。 ハワイの学校が週休3日になったのは、事実である。その後、報道で知ったのだが、ハワイが週休3日に踏み切ったのは、教師が遊ぶためではない。不況のせいだ。ハワイ州は、支出を削減するため、金曜日を休校にして教員の出勤日数を減らすことにしたのである。 これにより、ハワイの学生 約17万1000人の年間授業日数は、従来より17日も少なくななり、年間163日となった。アメリカには最低年間授業日数を定めた規制はない。しかし、全土の大半で180日以上の授業日数が確保されているので、ハワイはアメリカでもっとも授業日数が少ない州となってしまった。 一般層向けの不動産は、成約価格、成約件数ともに下落傾向
学校が週4日しか開けないほど、ハワイの経済状況は悪い。ハワイ経済を支えているのは、地場産業である観光業である。軍事基地が多いから軍需産業だという人もいるが、やはり、観光客が落とすおカネでハワイ経済は回っている。 じつは、ハワイというのは、公務員天国で、ハワイ州の総GDP280億ドルのうち、政府が占める割合はなんと24%に達している。つまり、政府がもっとも多く観光産業の恩恵を受けていて、公務員は観光産業で食べているようなものだ。現在ハワイでは12万5000人の公務員がいて、ハワイ州の人口約120万人のうち就労人口が6割で72万人だとすると、なんとそのうち17%が公務員である。 そして、この公務員の外側に、さらに多くの観光産業で食べている人々がいる。これらミドルクラスからローエンドの層の消費は、リーマンショック以後、著しく落ちている。 個人消費を図るバロメーターの1つが、不動産の売れ行きだ。ハワイでは、富裕層向けの別荘やコンドは別として、こうした一般層向けの不動産(スモールユニットと呼ばれる)の成約価格、成約件数ともに下落傾向が続いている。 かつて、不動産が値上がりしているときは、「リバースモーゲージ」と呼ばれる不動産を担保にした低金利ローンを活用して、本来の所得を上回る消費が可能だった。これが、アメリカ人のライフスタイルだったが、いまはそれができない。消費が低迷して当然だ。 『ホノルル・アドバタイザー』紙の記事によると、ハワイでの失業率、自己破産率はともに上昇している。アメリカ政府は、ドルを刷るだけ刷って、「再びバブルをつくろう」としている。これを市場刺激策と称しているが、その弊害は大きい。もし、マネーの供給を止めれば2番底は確実にやってくるし、続け過ぎれば、インフレが起こって、一般層の生活は破壊されかねない。すでに、居住不動産用の貸出金利が上昇傾向にある。FF金利は史上最低なのに、住宅ローン金利は5.3%まで上 っている。
ホテルはどこも割引料金(通称カマアイナレート)を実施
この前のブログで書いたように、ハワイにおカネを落としてくれる観光客は、昨年比で17%も減った。それで、どのホテルも地元民向けの割引料金(通称カマアイナレート)を設定し、客の呼び寄せに必死になっている。 『パシフィク・ビジネス』によると、カウアイ島の最高級リゾート「プリンスリゾート」では、 カマアイナの宿泊者に対して3泊目を50ドルに、またハワイ島の名門「マウナラニ」では、特定の部屋に限って、1泊705ドルから300ドルに値下げした。また、ハネムーナーの聖地とされるマウイ島の「ウェスティン・カアナパリ」でも1泊530ドルから189ドルで提供するプランを実施している。 『ホノルル・アドバタイザー』紙(10月19日)に、「ワイキキのリテイル(小売り)の落ち込みは深刻」という内容の記事(Reach Robbie Dingeman記者のレポート)が載っていた。それによると、ハワイの観光客の中核である西海岸からの旅行者の1日に落とす平均額は、昨年の148ドルから133ドルに減った。そのため、化粧品、香水、ジュエリーは30%近くも売り上げが落ちたという。 じつは、ハワイ観光産業の小売りが最高の売上を上げていたのは、2001年、あの9.11テロの年だった。以来、ずっと小売りは落ち込み、昨年から今年にかけて大きく落ち込んだのである。
2000ドルのブランドバッグから500ドルの財布にシフト
そんななかで、唯一健闘しているのが、日本人にもおなじみのABCストア。バーゲンプライスのTシャツやタオル、お土産品などで売上を伸ばしている。ハワイの多くの小売業がレイオフを行ったが、ABCストアだけは1人の首も切らず、給料も下げなかった。プレジデントのPaul Kosasaは“We are doing OK.”(私たちはうまくいっている)と胸を張る。 しかし、日本人観光客でもっているといっていいDFSは、去年130人の首を切り、ここのところの円高でやっと売上げが回復してきたところだという。 ただし、バイスプレジデントのSharon Weinerによると、「若い日本人の消費力は落ちています。以前はコーチやほかのブランドの2000ドルのバッグを買っていましたが、いまは500ドルの財布を買っています」とのことだ。
売り上げ好調なABCストア DFSギャラリア
1980年代から1990年代にかけて、ハワイはアメリカ人にとっても、日本人にとっても“この世の天国”paradiseだった。そして、当時、日米はほぼ一体化(というか日本はアメリカの属国)した状態にあった。しかし、太平洋を隔てたこの両国は、いまや没落してしまった。 悪い冗談としか思えないが、「アメリカ国債のカタに、アメリカはいずれハワイを中国に売る」なんて話もある。 |
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