[112] 紙の新聞はやがて終わり、ソーシャルマガジンの時代がやってくる |
2011年 12月 25日(日曜日) 19:56 |
メディア業界にとって、かなり衝撃的なニュースが二つあるので書き留めておきたい。一つは、先週発表された南カリフォルニア大学(USC)のレポート。もう一つはグーグルが数日前に発表した「Google currents」だ。前者は、アメリカの新聞がほとんど5年以内に消えるという衝撃の予測。後者は、ソーシャルマガジンの時代が訪れたことを実感させるもの。 まず、南カリフォルニア大学(USC)のレポートだが、USCのデジタル未来センターのジョン・コール教授の発言は、かなり悲観的だ。「米国の新聞がほとんど5年以内に消える」としたうえで、「生き残る可能性のある新聞はNYT、WSJ、Washington Post、USA Todayくらい」と言っている。ここまで冷徹な見方する人はあまりいない。 NYT.com Google currents
『ニューヨーク・タイムズ』は紙を捨て完全デジタルに?
以下はレポート発表受けて書かれた『Guardian』の記事「Most print newspapers in the States have only a five-year life span」からの一部転載。 The report, Is America at a digital turning point?, is due to be released next month by the University of Southern California's Annenberg centre for the digital future. But the centre's director, Jeffrey Cole, has released its highlights, which are based on 10 years of studies. He says: "Circulation of print newspapers continues to plummet, and we believe that the only print newspapers that will survive will be at the extremes of the medium – the largest and the smallest." He argues that only four major American dailies will continue in print form: the New York Times, Washington Post, Wall Street Journal and USA Today. At the other extreme, local weekly newspapers may still survive. Cole says: "The impending death of the American print newspaper continues to raise many questions. Will media organisations survive and thrive when they move exclusively to online availability? How will the changing delivery of content affect the quality and depth of journalism?" Those are questions we've been asking for several years, and now ask ourselves on a daily basis. As for the forecast itself, it is foolish to put a date on a process (even though I agree with Cole that newsprint death is inevitable). I note that he has already run into criticism for doing so (see comments by John Robinson and by Frank Denton), not least because while publishers can continue to extract profits from print - even if the product itself declines in quality - they will not walk away. That said, Cole's report requires attention. "We find that the strengths as well as the consequences of technology are more profound than ever," he says. "At one extreme, we see users with the ability to have constant social connection, unlimited access to information, and unprecedented buying power. At the other extreme, we find extraordinary demands on our time, major concerns about privacy and vital questions about the proliferation of technology – including a range of issues that didn't exist 10 years ago... We find tremendous benefits in online technology, but we also pay a personal price for those benefits. The question is: how high a price are we willing to pay?" Cole also argues that, over the next three years, the tablet will become the primary tool for personal computing. He says: "The desktop PC is a 'lean forward' device – a tool that sits on a desk and forces users to come to it. The tablet has a 'lean-back' allure - more convenient and accessible than laptops and much more engaging to use. For the vast majority of Americans, the tablet will be the computer tool of choice by the middle of the decade, while the desktop PC fades away." →Most print newspapers in the States have only a five-year life span このような背景があるためか、ニューヨーク・タイムズ社(NYT)はCEOのジャネット・ロビンソン氏の年末退任を、12月15日に突然発表。さらに、傘下にある地方紙16紙をまとめて売却することも公表した。また、多くのベテラン著名記者の退社も公表されている。 こうしたことから言えるのは、NYTが紙を諦めたということ。これまでデジタルシフトを急速に進めてきたが、もはやデジタルシフトの段階は過ぎて、デジタルのみで生き残る道を選んだということだろう。 カスタマイズされた自分だけのマガジン
一方のグーグルが発表した「Google currents」は、スマートフォン向けコンテンツ・プラットフォーム。ニュース記事などのコンテンツを、読みやすい雑誌スタイルのタッチスクリーン・レイアウトで簡単に表示するものだ。グーグルは「Currents」の公開にあたり、新聞や雑誌、ブログを含む150以上のパートナーと提携した。これらのパートナーはそれぞれ、「Currents」向けのエディションを用意しているので、読者はそれらのなかから好きな記事を選んでカスタマイズし、自分だけのマガジンをつくれる。 このエディション以外にも、「Currents」では「Google News」やRSSフィード、「Google+」のストリーム、「Google Reader」から集められた話題のコンテンツが、カテゴリー別に表示される。また、動画や写真フィードにも対応。もちろん、フェイスブック、ツイッタ-、Tumblr、Instapaper、Pinboardとも連携しているので、コンテンツ共有が可能になっている。
「●●新聞」とか「●●マガジン」は意味がなくなるのか?
ソーシャルマガジンの先鞭をつけたのは「フリップボード」(Flipboard)だが、その後、次々と同種のアプリが登場。ざっと挙げただけで、「Zite」(CNNが買収)、「Pulse」、「News.me」、「Sulia」などがある。大手ウェブ企業も競って参加、AOLの「Editions」、ヤフーの「Livestand」など、アメリカではいまやこの種のアプリが氾濫している。 「フリップボード」は、ソーシャルマガジンをつくれる便利なアプリで、ツイッター、フェイスブック、リンクトインなどのSNSのほかに、新聞サイト、雑誌サイト、ニュースサイトのリストが用意されている。「Google currents」も同じだ、こうなると、もうウェブの中で、個々の「○○新聞」とか「○○マガジン」などというのは、読者にはどうでもよくなる。
「見たいもの、読みたいものが勝手に集まってくる感じ」
私はまだ利用していないので、すでに「フリップボード」を利用している娘の友人たち、若い世代の意見を聞くしかないが、誰もが「超便利」と言う。「見たいもの、読みたいものが勝手に集まってくる感じ」と、好評だ。 しかし、こうなると、新聞や雑誌に限らず、ブログもつぶやきも写真も映像も全部が同じになってしまい、それをつくる方、コンテンツプロバイダーは大変だ。しかも、ユーザー側とっては、そのコンテンツがどこから来たかには興味がなくなるので、メディアのブランドとしてアイデンティティはどうなってしまうのか?また、当然だが、記事の書き方、発信方法も変わらざるを得なくなるだろう。 現在、アメリカの既存プリントメディアは、ソーシャルネットワークの対応に追われている。上記したように、NYTはデジタルに完全シフト。すでに「ウォールストリート・ジャーナル」は「WSJ social」を開始している。この先は、すべてのコンテンツが混在し、またテレビ、PC、ケイタイ、スマートフォン、タブレット端末などの機能別あり方が意味がなくなる「メディア融合時代」がやってくる。 私はついて行くだけで精いっぱいで、いま、やっとのことでソーシャルに関する本を書き終えた。この本は小学館から来年2月に発売される。タイトルは『本当は恐いソーシャルメディア』に決まった。
(以下、参考記事) →Times Chief Is to Retire at Year-End →The New York Times Company Reports 2011 Third-Quarter Results →The New York Times Company Confirms It Is in Discussions to Sell Its Regional Media Group
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