[025]なんと朝日の一面に「出版界 地殻変動」の記事が! 印刷
2009年6月1日

 土曜日(5月30日)の朝、起きてすぐ朝日新聞を見て驚いた。なんと、一面に「出版界 地殻変動」の大見出しで、7段もの記事が載っている。あわてて、なにかスクープでもあるのかと読んだが、最近の出版業界の動向を伝えるだけで、目新しいことはなにも書かれていなかった。
 
 書かれていたのは、大日本印刷と出版大手社3社がブックオフ株を取得したこと。これは、漫画の利益の配分をめぐっての出版社と新古書店の綱引きであり、それを主導したのは大日本印刷。大日本印刷は、最近、丸善などの書店から主婦の友社などの出版社に出資しており、出版界の上流から下流を押さえようとしている……などのことだった。

 これは、私がこのサイト内の連載「メディアの未来」で書いてきたことと同じだ。ただ、朝日の記事は、ブックオフの佐藤弘志社長、大日本印刷の森野鉄治常務などのコメントを載せている点が、新聞記事と言えば新聞記事らしかった。
 ただし、記事の最後が、次のように終わっていたのには、思わず失笑してしまった。

《だが最近では、大日本印刷グループに対抗できるような書店連合や出版社の合従連合のうわさ話が、業界内では具体名で語られるのが常になっている》

 これは、確かにそうだが、本当に合従連合の動きが起こっているかといえば、そうではない。この書き方では、いかにも水面下で話が進んでいるかのように受け取られるが、私が知る限り、そのようなことはない。あるのは、あくまで、業界内の下の人間のうわさ話だけだ
 日本の出版界というのは、欧米と違って、ダイナミックなメディアの合従連合が起こるような土壌になっていない。ほぼすべての会社が、非上場であり、同族経営のような形態が主流だからだ。

 それにしても、なんでこんなことがニュースになるのだろうか? 出版界の心配をするなら、朝日新聞自身も赤字決算なのだから、自分のことを心配するほうが先だろう。また、出版界ばかりではなく、いまはプリントメディア全体の危機なのだから、その心配をするほうが先ではないだろうか?
 
 そうすれば、こんな観測で記事を終わらせることなく、結論に行き着くはずだ。つまり、もう新聞・雑誌・書籍というプリントメディアの時代は終わったということ。現在、雑誌・書籍・新聞の「紙から電子媒体へのシフト」が急速に進んでいるということのほうが、読者にとっては、はるかに重大なニュースだと思う。

 アメリカはでは、2年前に発売されたアマゾンの「Kinddle(キンドル)」が、この流れを加速化させてきた。にもかかわらず、日本の新聞・出版界は、危機感が薄かった。
 しかし、いまやこの日本ででも、たとえば、「iphone」で雑誌・書籍・新聞を読む若者は、どんどん増えている。
 実際、私の娘は出勤時、iphoneでニューヨーク・タイムズを読んでいる。紙の新聞を読んでいるのは、オヤジ世代だけで、若者はほとんどケイタイでニュースを読んでいる。
 新聞も、最近では、産経新聞が紙面のレイアウトのままiphoneで読める。しかも、読みたいところをタッチすると、その部分が拡大されて読むことができる。

 だから、新聞は、こうした時代になったことを、まず堂々と書くべきだろう。そして、やがて自分たちプリントメディアは主流でなくなることを、素直に書いていくべきだろう。こっちのほうが、業界内幕話より、よほど大事だ。
 なぜなら、この流れは、プリントメディア業界にとっては「危機」だが、メディアの受け手、読者にとっては危機ではないからだ。このことも、はっきりと書くべきだろう。
 そうでなければ、読者は、新聞や出版界が衰退していくことが、自分たちにとっても危機だと誤解してしまうに違いない。

 一般読者の誰が、新聞や雑誌、本が売れなくなって困るだろうか? 
 今後、ますます、この手の記事は増えるだろうが、そのたびに、危機感は煽られるだろう。しかし、騙されてはいけない。活字離れなど起こっていないし、紙の新聞や雑誌、本が衰退していくことは、別段、悪いことではない。