[035]閲覧サイト「コルシカ」雑誌販売中止の教訓 印刷
2009年 10月 15日(木曜日) 20:15

 エニグモは、10月13日、始めたばかりの雑誌閲覧サービス「コルシカ」でのすべての雑誌販売を取りやめると発表した。これは当然の結果と言えるが、ここに至るまでの騒動をみていて、私には思うことがあった。

 それは、なぜ、出版社側が抗議ばかりして、こうしたデジタル化の流れを自分たちのものにすることができないのだろうかということだ。この程度のサービスなら、ちょっと考えればできるはずなのに、日本の出版社は、それを自分たちでやろうとはしてこなかった。

 今回の「コルシカ」騒動は、そういった意味では、出版社にとっていい教訓だ。

 

 報道では、「コルシカ」がサービスを停止したのは、出版社の抗議と著作権の侵害に当たるという、2つの点が大きな原因だとされている。もちろん、そうだろう。しかし、なんといっても大きいのは、日本のほぼ全部の出版社を敵に回してまでやる事業ではないと、エニグモが判断したからだろう。

 「コルシカ」は、サイト上で雑誌を購入すると、その電子データをオンラインで閲覧できるというサービス。しかも、希望者は、配送料を支払えば、実物の雑誌を受け取ることもできる。課金モデルであることが難点だが、ユーザーにとっては便利なサービスなのは間違いなかった。

 

 しかし、始めたとたん、ほぼすべての出版社が抗議した。それは、出版社からの利用許諾など得ず、エニグモが独自に雑誌をスキャンして電子データ化したためだ。さらに、それを販売したのだから、出版社にとってはグーグルのブック検索以上に、利益を横取りされたも同然だった。「社団法人日本雑誌協会」が、猛然と抗議し、販売中止を要請したのも無理はない。

 エニグモは雑誌の電子化について、「(ユーザーが購入した雑誌の電子化代行なので)著作権の私的利用の範囲内と考え、出版社の許諾は不要と考えていた」と語ったが、この解釈にやや無理があったことも確かだ。ただ、そんな法律論より重要なのは、彼らには、オリジナルをつくった者への敬意がまったくなかったことだ。

 ようするに、パクリをユーザーサービスと言い換え、それを換金しようという発想では、コンテンツを扱う資格はないと言ってよい。今後について、エニグモは、「個別に出版社と協議し、許諾を受けた雑誌をそろえることで、早期のサービス再開を目指す」というが、はたして許諾を与える出版社があるだろうか?

 

 いずれにしても、今回の問題が浮き彫りにするのは、日本の出版社のデジタル対応の鈍さである。こんなサービスはちょっと考えれば自分たちでもできるのに、やろうとしてこなかった。だから、その間隙をぬったこんなサービスをゲリラ的に始められてしまうのである。

 いま、日本雑誌協会は加盟社が参加するかたちで、電子書籍のプラットフォームをつくる計画を進めている。しかし、これは加盟社がみんなでやらなくてもすむ話である。大手なら、自分のコンテンツに自信があれば一社でできることだ。

 

では、なぜ、そうならなかったのだろうか?

 それは、グーグルのブック検索問題で大騒ぎになったことでわかるように、こうしたデジタル化に詳しい人材が、社内にいなかったからだ。だから、なにかを始めようとすると、各社横並びで研究することからスタートする。しかし、そうしているうちに、貴重なコンテンツは、ポータル側からの要請で提供を余儀なくされてしまう。

 そして、出版社は、オリジナルコンテンツ(本、雑誌)を制作しながら、その利益は、ほとんどポータル側に奪われてしまう。

 

 この9月14日から、電子雑誌の専門販売事業「MAGASTORE(マガストア)」が始まった。これは、電通が主導する、iPhoneアプリでの電子雑誌販売サービスだが、出版社側の利益率は薄い。今回、販売開始されたのは、『AERA』『ar』『GQ JAPAN』『週間ダイヤモンド』『SPA!』『FRIDAY』など16誌。書店で販売されている雑誌とほぼ同様の記事が収録されている「Full版」、 雑誌の一部記事を収録した「Lite版」、特別編集による「Special版」などのバージョンがあり、価格は115円から700円。

 ところが、その利益といえば、コンテンツを提供する出版社側は、売り上げから40%を取れるだけである。ほかのスマートフォンでは50%だから、まさに薄利。これでは、製作費すら出ない。

 

 ただ、これで実際の雑誌も売れ、電子版もどんどんダウンロードされれば、めでたしめでたしだが、そんなことが起こるわけがない。ともかく、、これで儲かるのは、プラットフォーム側だけ。ようするに、出版社にしてみれば、取次に代わる新しい中間卸売業者を通してコンテンツを提供しているわけで、これは、本来のデジタル化とはとても呼べない。

 デジタル化時代は、他人がつくったプラットフォームに乗ってコンテンツを提供していては、儲かるのはプラットフォーム側だけである。今回の「マガストア」は、電通の新事業だから、出版社側がつき合ったとしか言いようがない。

 そんなカラクリがわかれば、デジタル化もプラットフォームも自社でやるべきなのである。それができないということは、このモデルを理解し、なおかつ、それを構築できる人材がいないということに尽きる。いい加減、このことに気がついて思い切った手を打たないと、出版崩壊は止められない。