ニュー・リッチの未来[005]プノンペン最悪体験 印刷

■レストランは最低、おまけにティクティク運転手と大ゲンカ


リバーサイドのHimawari Hotelにチェックイン

 シームリープ(シェムリアップ)から飛行機で1時間。カンボジアの首都・プノンペンに着いたのは、2008年12月30日の午後。初めて見るプノンペンは、いちおう大都会だが、やはりすべてがアジア臭い。
 アジア臭いとは私の勝手な「造語」。それは、単にニオイだけのことでなく、建物のたたずまい、色彩、雰囲気など全部含めた感じを指す。東南アジアの街に共通する雰囲気なのだが、プノンペンはとくに、このアジア臭さが強いと思った。

 タクシーで、予約してあるHimawari Hotel Apartmentに行った。このホテルは、プノンペンペンでは一流で、ジャッキー・チェンも宿泊客の1人とガイドブックに書いてあった。それでも1泊150ドル。
 プノンペンペンで最高級はラッフルズだが、こちらは最低で300ドルはするので、当然やめて、ここを予約した。

 Himawari Hotelは、トンレサップ川のリバーサイドにあり、王宮にも近い。ホテル前のシソワット・キー(大通り)を北に歩けば、外国人向けのバーやレストランが並ぶリバーサイドタウンがあり、ここは、プノンペンでもっともツーリスティックなエリアだ。

公共交通がないから街はバイクだらけ


 私たちはチェックインをすませると、さっそく街に出て、トンレサッップ川畔の公園を歩いた。風は生暖かく、川は土色に濁っている。公園は人が多く、物売りもいて、街全体は独特の臭いがする。
 ふと見ると、シソワット・キーをゾウが歩いていた。すかさず、娘と妻がゾウのそばまで走って行って写真を撮った。

 そうこうしながら、初めて気がついたのだが、通りはバイクだらけだった。もともと、カンボジアはクルマは少ない。ほとんど走っていない。シームリープでもバイクだらけだった。しかし、ここでは、2人乗りは当たり前。3人乗りしている若者もいた。明らかに学校帰りの高校生と思われる若者が、2人乗り、3人乗りしている。また、赤ん坊を抱えて夫婦で乗っているバイクもある。

 交通規則などあったものではなく、信号もほとんどない。
 あとで知ったのだが、プノンペンには公共交通がないのだという。バス、電車がない。そして、クルマは金持ちしか持っていないので、庶民の移動はほとんどバイクだという。

ティクティクの運転手とレストラン前で大ゲンカ

 もちろん、ティクティクもある。バイクタクシーだ。このティクティクは便利で安いが、カンボジア滞在中、私は運転手と何度もケンカした。
 いちばん、私が爆発したのは、翌日の大晦日、娘が予約したレストラン「Malis」(マリス)にホテルから行ったときだった。

 ホテル前で、「ツー・ダラー・トゥ・マリス、マリス・レストラン」と運転手に言ったら、「OK、OK」の返事。それで乗り込んで、レストランに着いて2ドル渡すと、「ノー、スリーダラー」と運転手。
 バカ言っているんじゃないと聞くと、「オマエの娘が3ドルと言った」と言うのだ。もちろん、娘はそんなことは言っていない。
 ともかく、少しでも高く支払わせたい意図がミエミエなので、私はキレた。値段の問題ではない。別に5ドルだって、日本のタクシー代を考えれば安いのだから、払ったってかまわない。私が許せないのは、このようにウソをついてまでボッタくろうとするアンフェアなやり方のほうだ。
 それで、レストラン前で口論となった。

 びっくりしたのは、娘と妻とレストランの店員。しばらく、あきれた顔で、私と運転手を見ていた。それで、もういい加減潮時だろうと、3ドルを渡し、私は「これは嘘つきのオマエにやるんじゃない。オマエの妻と子供にやるんだ」と英語で言った。

 この私の捨て台詞を聞いて、娘は怒った。
「いくらなんでも言い過ぎだよ。あれじゃ、完全に見下している。あの人にだってプライドはあるでしょう」

ホームレスの母親に抱かれた赤ん坊を見つめられ涙

 もちろん、ティクティクの運転手には、善良な人間もいる。しかし、外国人観光客からならいくら取ってもいいと考えている運転手もいる。たとえば、「○○までいくら?」と聞いて「3ドル」と言うので乗ったら、降りるとき、「ノー、9ドル」という。
 で、「なぜだ?」と聞くと「イーチ、スリーダラー(1人3ドル)」と言うので、あきれてしまう。確かに、私たちは3人だ。

 しかし、距離を考えれば、9ドル=900円としてみると、それは東京のタクシーと同じ値段ではないか。

 カンボジアの庶民は貧しいから、このくらいのたくましさがないと、生きていけないのかもしれない。
 街には、物売りも多いし、ホ—ムレスもいる。手のない赤ん坊を抱えて、ヨーズなどの果物を街角で売っている母親を見ると、やはり目をそらしたくなる。裸で無邪気に走り回っている子供たちを見ただけで、涙がにじんだこともあった。

 リバーサイドのカフェで、景色を見ながらコーヒータイム。タバコに火をつけて、目の前を見ると、ホームレスの母娘がいる。母親に抱かれた娘は2歳ぐらい。ボロボロの布に包まれ、丸い目でじっとこっちを見ている。いたたまれない。これでは、落ち着いてコーヒーなど飲んでいられない。
 しかし、この光景を当たり前だと思えるようにならなければ、この国では暮らせない。
 それでも、やはり、「フェアでないのはよくない」と、私は何度も思った。

料理はパサパサ、サービスなしの高級レストラン


 この旅は、アジアの未来を考える旅だ。だから、行く先々で、街角の経済みたいなものをできる限り見ようとした。
 そうした意味でいくと、プノンペンには、まだ本来のサービス産業というものはない。スパもカフェも高給ダイニングもバーもあるが、カッコだけで中身がない。

 前記した「マリス」というレストランは、「クメール料理の高級レストラン」として紹介されていて、「店内には、中庭もあり、スタイリッシュな造り」「ランチは20ドル、ディナーは40ドルから」となっていた。だから、当然、庶民が行く店ではない。
 ここで、私たちは、「ニューイヤー・イーブ」のコース料理(1人45ドル)を頼んだ。
 しかし、その味は無味乾燥で、特徴なし。とくに、ウズラの丸焼きはパサパサで食べれなかった。そんな私たちを、制服姿のウエイトレスの女性は、席の脇でただ立って見ているだけだ。

スーパーのフードコートと変らないスペイン料理

 リバーサイドの「パチャラン」(Pacharan)という店にも行った。スペイン料理の店で、カタルーニャ出身の若きオーナーが客に気さくに話しかけ、店内はスタイリッシュで「カンボジア初の本格スパニッシュレストラン」と紹介されている。この「パチャラン」も前記した「マリス」も、『地球の歩き方』では人気店ということになっている。
 しかし、料理はひどい。タパスはどれもまずく、サングリアもいい加減。「こんなの日本のスーパーのフードコートの店と変らないじゃん」
 と、妻も娘も機嫌が悪かった。


 プノンペンの最新スポットが軒を並べる「St.240」にも行った。100メートルほどの通り沿いに、オシャレなバーやレストラン、カフェがあるということだったが、どれもオシャレとは言い難く、それも数軒しかなかった。

「まだまだ伸びる」カンボジア経済の現状と将来


 カンボジアは、今回の世界金融危機の影響をあまり受けなかったという。それもそのはず、ここでは、まだ金融そのものが整っていない。まだ、証券取引所も開設されていない。
 IMFのレポート(2009年2月10日発表)によると、2009年の成長率予測は、4.75%、インフレは8.2%となっている。
                     http://www.imf.org/external/np/sec/pn/2009/pn0918.htm

 カンボジアの2008年の名目GDPは105億ドルで、2007年の86億ドルから実質7%以上伸びている。また、1人当たりのGDPも2008年には700ドルを突破したと言われている。

 カンボジア観光省の発表によると、2008年のカンボジアへの来客数(ビジネス客を含む)は、215万人。2007年は202万人だったので、その伸び率は6%程度である。
 ただし、金融危機の影響で第1位の韓国からの来客数は33万人(2007年)から27万人(2008年)に19%減少している。第2位は、隣国ベトナム。第3位が日本、以下アメリカ、中国、タイの順だ。
 
 カンボジアの経済発展は、やはり、海外からの投資にかかっている。アンコールワットのあるシームリープに、過去もっとも投資してきたのは、韓国資本だった。
 こうした投資が鈍ると、カンボジアの発展はスローダウンする。しかし、人々のたくましさを見れば、まだまだ、大きく伸びていくのは間違いない。

 余談だが、まずい食事ばかりしていたので、ついにデリバリーを取ってみようということになった。ホテルにあった英語のタウンガイド『D2D Phnom Penh』に載っていた店に、娘が電話した。
 30分ほどして届いたカレーと焼きそば(もちろんカンボジアスタイル)を、ホテルのプールサイドで食べた。これが、じつは、プノンペンで食べた料理のなかで、いちばんおいしかった。