■『TBSザ・検証――局にかわって私がやる!』 印刷

(1996年6月25日、神山冴と検証特別取材班、鹿砦社)

    

 1995年に発生した「オウム真理教」事件は、その後、メディアの加熱した取材ともからんで意外な発展をみせた。その矛先は、とくにTBS に向けられ、1989年に発生した坂本堤弁護士一家殺害事件が、坂本弁護士の批判インタビュー映像を、TBS側が放送直前にオウム真理教幹部に見せたことが発端だったことが発覚して、TBSは窮地に立った。

 1996年4月30日 、TBSはこの問題についての社内調査概要など発表し、特別番組で視聴者に謝罪した。このとき、キャスターの筑紫哲也は「TBSは死んだ」と発言した。

本書は、こうした経緯を克明に取材し、TBSがなぜビデオを見せたのか、なぜTBSはそのことを隠そうとしたのか、またなぜ2人のプロデューサーは辞めさせられたのかなど、事件のインサイドとテレビ界の誰も知らない内幕を明らかにしたもの。

 この取材に関しては、多くの関係者、インサイダーの協力を得たが、その経緯は明らかにできない。ただし、その内容は、すべて私がまとめた。

 あれからすでに十年以上が経過したが、事件の記憶は生々しい。ここでは、本書から、「まえがき」「目次」「第1章」「あとがき」を掲載する。

 

 

反省するのはTBSだけでいいのか!――まえがきに代えて

 

 TBSビデオ事件のこれまでの経過を見ると、他のテレビ局、そして大新聞、スポーツ紙、週刊誌に至るまで、他のメディアはひたすら“TBS叩き”に血道をあげている感がある。

 事実、次から次へと不祥事が明るみに出るし、上層部の対応も後手後手にまわっている。これでは、叩かれるのも無理もないと思われるが、はたしてそれで問題は解決するのだろうか?

 これまでに大マスコミによる不祥事はたびたび起きているが、そのたびに叫ばれるのは、“報道の倫理、モラル”という決まり文句である。

 しかし、では、“報道の倫理、モラル”とはいったい何なのか? そもそもメディアに、倫理やモラルなんてあるのだろうか?

――本書はこういった見地から、あらためてTBS問題を考えなおそうというものである。

 実際、現場の声を聞いてみると、「いったいどこが悪いんだ」という声が根強い。もちろん、TBSの対応に、まったく誠意がなかったことも事実である。上層部は事実を知りながら隠し通そうとしたのだから、責められても責められ過ぎることはないだろう。

 しかし、他メディアのTBS批判には、ずいぶんとおかしな点が多い。

 そのひとつが、「坂本弁護士のインタビュービデオをオウム側に見せたことが悪い」という視点である。もちろん、見せないに越したことはないが、見せただけでは倫理的には問題であっても、致命的な報道の逸脱行為とは言えないだろう。

 日本テレビの氏家社長のように、

「ウチでは、そんなことは絶対にない。そんな人間がいたら即刻クビだ」

 と言いきってしまったら、それではほとんどのテレビ局員がクビになってしまう。実際、TBSの旧社会情報局の2人のプロデューサーは、今回のビデオ見せ事件の責任をとらされ懲戒解雇処分になってしまった。これに関しては、同情論も多く、またトカゲのシッポ切りという批判もあるが、こうした見方が出るのも、どのテレビ局でもビデオを相手に見せることが一般的に行なわれているからである。

 つまり、ビデオを見せた行為自体は、それほど悪いことだとは言いがたいのだ。

 

 考えてもみよう。もし自分があのときの立場に立たされたら、いったいどうしていたか?

 他メディアでTBS批判をする記者や識者は、この点をハッキリと認識すべきではないだろうか。

 当時のオウムは、得体の知れない薄気味悪い宗教団体だった。その幹部が押しかけ、居丈高にプレッシャーをかけてくる。もし、最後までハネつけたら何をされるかわからない。命さえ狙われるかもしれないと、恐怖を覚えるのが自然だ。

 それで、TBSの局員たちはビデオを見せたのである。ともかく、彼等はオウムにビビッてしまった。これがコトの真相なのに、それを報道倫理の誤りとして糾弾しても仕方がないのではなかろうか。

 ただし、ここからは、ジャーナリストとしての真価を問われることになるが、ビデオを見せた相手側の反論もビデオに収録し、双方併記のかたちで放映することが大事なのだ。これは、ひとつの取材方法として十分に理にかなったものだから、TBSとしてはそうすべきだったと言わざるをえない。

 しかし、残念ながらそうはされず、TBSはオウムの圧力に屈することになってしまった。あるいは放映中止を条件に裏取引きをし、麻原彰光の独占インタビューに振り替える(未確認)という結果になってしまった。たまたま、こうした過程で坂本弁護士事件が起き、TBSの対応は、ビデオを見せたことを隠す方向になってしまったので批判されるのだ。

 くり返すが、ビデオを見せた点だけでTBSを叩くのは、他のメディアにとって自分の顔にツバをはきかけるようなものだろう。

 さて、もうひとつ、TBS叩きの奇妙な点は、オウム事件全体に対してのマスコミの反省が全然なされていないことである。各メディアは、TBSの罪ばかりあげつらうことにより、自分たちが犯した重大なミスをまったく忘れてしまっているようだ。

 というのも、オウムがあれほど危険な存在であることを、以前から一部のマスコミは知っていた。坂本弁護士事件にしても、ほとんどオウムの犯行であることは状況からいって間違いなかった。

 それなのに、どのマスコミもオウムの危険性を正面から取り上げなかったのである。ひとり『サンデー毎日』だけが坂本弁護士事件以前にキャンペーンをはったが、それも一過性にすぎなかった。被害者が続出しているというのにあえて無視し、オウム側の水中クンバカなどのキャンペーンに乗ったりしてしまったのである。

 坂本弁護士事件にしても、TBSが事実をすぐ警察に報告し、他のマスコミもそれを報道したら、オウムの犯行はもっと早い時点で解明できたかもしれないという意見がある。

もちろん、

「いやそんなハズはない。たとえTBSの件が伝えられても、ボンクラの神奈川県警は動かなかったでしょう」(捜査関係者)

 という見方もある。

 はっきり言ってTBSよりももっと罪が重いのは警察なのに、現時点ではそういう面も忘れ去られてしまっている。

 

 さらに、あの松本サリン事件。

 マスコミは長野県警のボケ捜査情報に乗って、個人では製造できないはずのサリンを、被害者の会社員・河野さんの犯行のように報道してしまったのだから、こちらのほうがよっぽど問題であろう。

 ともあれ、全マスコミがもっと取材力を駆使し、オウムを徹底的に調べていれば、オウム事件の展開は、現在とちがっていたはずである。

 つまり、ここでの結論は、

「反省するのはTBSだけでいいのか!」

 ということになる。

 今回のTBSの不祥事は、この視点に立たなければ永遠に解決されないだろう。

 

 さて、今回のTBS不祥事に関する私の考えをひと言で言えば、

「みんなもっと正直になろう」

ということになるだろう。

 TBSの磯崎前社長にしても、上層部にしてもみんな不誠実である。もちろん、当事者である各番組の関係者、そしてそれを批判する他メディア、識者、評論家……等々、みんな不誠実である。

 今日に至るまで、私は、なるほどとうなずける発言、記事、リポートに出会ったためしがない。

 たとえば、もし私なら、報道倫理だのモラルなどという言葉をけっして使わない。なぜなら、今日のマスコミにそんなものはありえないからだ。すべてのマスコミは商売で成り立っている。テレビ、新聞、雑誌……みんな、番組、記事で商売しているのである。

 だから、報道倫理なんて言葉より先に、商売の倫理が来るべきなのだ。すなわち、粗悪品やニセモノを売ってはいけない。それだけである。

 そして、ドラマがほしい人にはドラマを、正義がほしい人には正義を、各メディアを通じて商売すればいいのである。

 で、この考えを今回のケースに当てはめれば、おそらく各場面での答えは次のようにならなければおかしいのだ。

◎オウムにビデオを見せたことに関して――「ごめんなさい。彼等があんまり強く言ってくるもんだから身の危険を感じて……。それに、こんなことは各局みんなやっている。で、その場がうまくおさまればと思ったんですよ」

◎なぜ警察に通報しなかったか――「したとしても彼等は捜査したかどうか。それに、そんなことをしても局の商売には結びつかない。基本的に番組にならないボツネタを、なぜ警察に言う必要があるのですか」

◎調査がズサンだったことに関して――「部下の部下、その下請けがやったことまで調査できません」

◎『スペースJ』などオウムに密着し過ぎていないか――「密着しなければ絵やコメントはとれない。また、ギャラを払わなければ、誰も喋らない。つまり、あれは番組製作費で、できた映像は報道ではないんです。それを報道のように見せたのは悪かった。しかし、はじめから、これはヤラセ、これはいくら払いましたと言ったら視聴者は見るでしょうかねえ」

――と、もうこれ以上書いても、要点は同じである。テレビは、それを見るお客さんに喜んでもらうために番組を作っている。その過程で起こったトラブルなのだから、正直にそう言えばいいのである。

 TBS問題がながびいたのは、この点を正直に言わなかったからだ。裁かれるのは報道倫理などというシロモノではない。単なる商売の道徳で、TBSはマガいものをお客につかませ、ウソをついただけなのである。だから、この点でゴメンナサイと素直に謝まれば、それでとりあえずはコトはすんでいた。

 少なくとも、私にはそう思えるのだ。

 では前置きはこのくらいにして、さっそく本題に入ってもらおう。

 ここに書いたのは、今度のTBS事件を、より詳しく、ナットクして考えるために、私達が集めた情報のすべてである。毎日くり返される各メディアの報道では絶対にわからない、TBSを含めたテレビ局の素顔である。

 テレビ局には、テレビ局の掟がある。

 それを知らなければ、今度の問題は、絶対にわからない。

 

 

目次

 

反省するのはTBSだけでいいのか! ――まえがきに代えて

 

第1章 これが疑惑の真相だ!

次々と発覚するTBSの不祥事。そんなにいい加減でどうするの!?

スクープを連発したおかげでオウムとの癒着の疑惑がいっぱい!

『報道特集』がスクープした麻薬の買人の証言は、完全なヤラセ!

あの“殺人教授”安部英をナマ出演させた『ニュース23』の快挙!

報道といっても一種のショー。このままだと誰も仕事をしなくなる!

まさかと思うが……懲戒解雇された2人のプロデューサーに裏金!?

【コラム】これでは民放の雄が泣く……いくらでもあるTBSの不祥事の事件

「坂本弁護士事件」が早期解決しなかった本当の理由は、これだ!?

旧役員20人中12人が東大卒というエリート集団だから“官僚答弁”に

自ら作った報道基準を無視して行動せねばならないという大矛盾!

【コラム】どこがいけない?――この際放送法を知っておく必要が!

ターニング・ポイントはビデオを見せる前日に起きたある事件に!

“反省ポーズだけで乗り切ろう”ストもポーズのTBS御用組合!?

午後のワイドショーの打ち切り決定で、外部スタッフが泣きをみた

あまりの高視聴率に「もっと検証番組を」という声が出る“皮肉”!

なぜ“民放の雄”は凋落したのか? 誰もが指摘する「あのころ」……

 

第2章 哀しき経緯

日本テレビの報道に素早く反撃。「よほど自信が」と誰もが思った!

恥の上塗りをしてしまった日本テレビヘの回答書のとんだお粗末!

東京地検の要請でビデオを提出、社内では「対応」が協議されたが……

『ニュース23』のずさんな報道で検察の怒りを買ってしまった!

社内調査委員会はできたが、調査はおざなり、認識は甘いまま

水面下には、読売グループとTBSのメンツを賭けた企業戦争が!

TBSの社名が出るか出ないかにこだわって判断ミスした大川常務

激しい内部突きあげ、早川メモの全容判明で、とうとう謝罪会見!

検証番組の後味の悪さ……TBSはこれまでの疑惑をなぞっただけ

【コラム】検証番組放送までに、TBSは何をしたのか?――問題点を整理。

事実解明より“報道局の責任をまぬがれる”道を模索し続けた!

幕引きは“厳重注意”。やはり、これがきわめて日本的な決着方法!

【コラム】ワシントン・ポストの教訓に学ふ――迅逮な対応と誠意!

 

第3章 素晴らしきTBSの人々

懲戒解雇になった多良プロデューサーに同情の声があがらない理由

まっ先にクビにされた武市さんは事件記者もやったが原稿は下手!

看板キャスター筑紫哲也に巻き起こった“やめろコール”の大合唱

サブリミナル、ディレクターと美人報道記者のW不倫で、大騒動!

他人の情報源を横取りし、体をはってでもネタをとる“記者の鏡”!

看板キャスターと“不倫”した女性ディレクターは、その後大出世!

“朝の顔”渡辺真理の独立のウワサに、局としては痛しかゆしで……

女性宇宙飛行士第1号になるハズだった女性局員は離婚後も超元気

元役員も嘆くに嘆く、磯崎前社長の「何にもしない」社長ぶり!

気の合う部下と料亭遊び。それが磯崎前社長の息抜きタイムだった!

新社長となった砂原幸雄氏は、愛妻を失ったばかりで、大抜擢!

多良プロデューサーを朝の責任者にした鴨下信一取締役の責任

“脱税プロデューサー”と言われても石井ふく子さんはやはり偉大だ!

視聴者センターへの電話で奥さんの“不倫駆け落ち”がバレた名局長!

 

第4章 パラダイスを生きる

テレビ局はアルバイト天国。上から下まで超おおらかに生きている

バカ高い給料と残業手当ては、中小企業の社長もうらやむ優良会社

プロデューサーは絶対権力。お金を使えなければテレビマンでない

1度やったらやめられない、プロデューサーというおいしすぎる職業

超モテモテで、お金もいっぱい、プロデューサーの“甘~い生活”

音楽からドラマヘ。主役は代わっても、プロデューサーは金まみれ!

必殺の口説きのテクニックから、無料航空券入手のカラクリ大公開

タクシー代月間1億円。1日にトラック1台分のビールを消費!

【コラム】知っておいてソンはない! ギョーカイ用語の基礎知識

 

第5章 TBS叩きに走る恥を知れ!

最大の掟は、視聴率。これに逆らえないから、今後もビデオを見せる

日ごろの接待を忘れ“非難記事”を書く新聞の文化部記者の無神経

新聞記者を、いっぽうでホイホイ、いっぽうで馬鹿にするテレビ局員

「あんな奴等に書かれてたまるか」と、新聞記者に思いきり懐柔工作

TBSばかりか、全局が視聴率の奴隷と化してオウムの言うがまま!

オウムに振りまわされたあげく、ついに幹部の生出演を拒否した!

【コラム】これがテレビ局のタブー! 放送禁止用語の言いかえ集

 

第6章 本当の社長は視聴率

エリートのテレビ局員にとって、バカ視聴者の電話ほど頭が痛い!

日本もアメリカも同じ。テレビの四角い箱のなかはすべて見せ物!

人手、経費は安あがり。しかも他社のネタを盗めるから、強い!

制作会社は局側の言うがまま。制作費と受注を握られ、奴隷と同じ

報道とワイドショーとの垣根がなくなったいま、問題はまた起きる

『ドラマのTBS』『報道のTBS』から『ワイドショーのTBS』へ!

スポットCMは視聴率で契約される。1パーセントは年間で5億円

誰ひとり逆らえない、分刻み視聴率のキョーフ。長嶋監督もクビ!

本当の社長が視聴率だとわかれば奴隷生活も楽しいパラダイスだ!

【コラム】まだまだある――本文中には書ききれなかった“こぼれ話”

取材を終えてわかった“本当に謝ってほしいもの”――あとがきに代えて

 

 

第1章 これが疑惑の真相だ!

 

 次々と発覚するTBSの不祥事。そんなにいい加減でどうするの!

 さて、ビデオ問題でつまずいたTBSは、次から次へと不祥事があばかれることになってしまった。

 いったい、どれほど明るみに出たか、まずは主なものをふり返ってみよう。

◎『スペースJ』が教団内部へ“偽装取材”を敢行していた!

 昨年(95年)10月8日、山梨県上九一色村のオウム真理教の教団施設で、医療機器販売仲介業者が、オウム側から医薬品を買っている取引き現場に、『スペースJ』のスタッフが業者になりすまして潜入、撮影を敢行した。この模様は、10月11日に放映された(視聴率16.9%)が、番組では「ブローカーが撮影したもの」と紹介したため、仲介した業者の怒りをかった。また、結果的に視聴者にウソをついたことになり、メディアとしてのモラルが問われることになった。

 もちろん、その後TBSは、この事実を認め、番組内でも謝罪したが、業者の言い分とTBSの主張はかなりくい違った。また、業者によると、TBSの対応はまったく誠意のないものだったという。

 まず、撮影時にカメラが信者の顔ばかり狙ったので、オウム側に不審がられたこと。次に、放映後オウムから業者に抗議がきたので相談すると、「こちらには青山(吉伸被告)と太いパイプがあるから大丈夫」という信じられない答えが返ってきたという。さらに、便宜をはかった謝礼を請求すると、「上九からの運搬費という名目ではお礼ができないが、何らかの謝礼を」と口約束していたにもかかわらずトボケられたという。

 結局、業者のもとには取引き以前のTBSとの接触のときに手渡されたテレホンカードが10枚残っただけ。その後、この業者は医薬品保管の届出を出していなかったため、薬事法違反で逮捕されたというから、まさに、TBSによって踏んだり蹴ったりだった。

◎暴力団関係に飲ませ食わせ現金謝礼も!

 これもやはり『スペースJ』。昨年5月24日放映の番組内で、「オウム未解決事件を追う」と題し、村井元幹部刺殺事件の背後関係に暴力団の介在があったという特集を組んだ。

 そして、その証言者として、真相の一部を知るとする三重県伊勢市の暴力団「羽根組」関係者を登場させた。この暴力団関係者は、番組内で「田中(徐容疑者)も男になったなあ」などという会話を他の関係者と交わし、事件が暴力団によって起こされたような印象を与えた。

 この暴力団関係者を、TBSは13日間にわたって取材、上京のための交通費と取材時の夕食代の計13万円余りを支払ったうえ、放映から1カ月半後には「約束料」の名目で謝礼金30万円を支払った。また上京時のホテル代と飲食代約41万7000円も、すべてTBSがホテル側に支払っていた。

放映後、社内で「報道倫理上問題だ」という指摘が出たため、TBSは3人の関係者を極秘裡に処分していた(減俸処分)。

 この件をスクープした朝日新聞が出た日、TBS広報部は、「反社会的な存在である暴力団の取材に本件のような現金支払いや費用が発生することはあってはならないと判断し、去年10月末に番組責任者ら3人を就業規則により処分した」というコメントを発表した。

 しかし、関係者によると、処分を受けたとき、3人は個別に呼び出され、「このことは口外するな」と幹部から口止めされたという。

7冠王の羽生善治の挙式中継で勇み足!

 羽生善治7冠王とタレントの畠田理恵の結婚式は、千駄ヶ谷の鳩森神社で行なわれたが、このとき日本将棋連盟は周囲に対する配慮から、テレビ各局に事実上のナマ中継自粛要請をした。ところが、TBSだけが朝のワイドショーのワクにナマ中継を敢行、将棋連盟と他局から激しい抗議にあった。

◎超能力大ウソ編集

 4月12日に放映された『金曜テレビの星 世紀の透視対決』で、透視能力をもつ日本人少女と超能力破りのジェームス・ランディ氏が対決したが、ランディ氏によると、TBSは明らかにウソの編集をしたという。

 少女が透視して文字を当てる場面で、カメラは少女が盗み見している不正を撮っていたにもかかわらず、すべてカット。また、その他の透視失敗場面もカットし、司会の愛川欽也の懐疑的なコメントも放送しなかったという。

◎深夜に花火を打ち上げ大騒動

 福島県棚倉町で行なわれていた『ドミノ甲子園』の収録で、新記録達成記念の連発花火を深夜0時過ぎに打ち上げ、地元住民から警察などに苦情が殺到した。

◎約束の商品出さず、お年寄りに裏切り行為!

 問題が起きたのは『さんまのスーパーからくりTV』の収録。「優勝者には3泊4日の温泉旅行」と言って、大阪市東成区の老人クラブから約60人のお年寄りを集め、2日間にわたって収録したが、結局ボツに。収録前、外部スタッフのアシスタントディレクターは「放送日と賞品を約束」したが、その後何の連絡もせず、約束された放送日を楽しみにしていたお年寄りたちはカンカン。老人クラブの会長は、こう話した。

「3月18日のリハーサルでは、みんな意気高揚していたんです。4月28日の放送予定と聞きましたし、優勝賞品は3泊4日の温泉旅行でしたからね。

 結局、私とコンビを組んだ女性が優勝したんですが、放送日には私どもと別の西成区で収録されたものがオンエアされて、私どものはボツに。当日立ち合ったADの方は、『放送中止になったら連絡します』と言ったのに、音沙汰なし。さらに、優勝の賞品も自然消減。

 そこで、担当のプロデューサーにクレームの電話を入れると、『ADが、放送中止になった場合は賞品を渡せないと伝えているはずですが』と言うんです。もちろん、そんな話はいっさいありませんでした。

 結局、担当プロデューサーが私の自宅に訪ねてきて、3泊4日の旅行に相当する賞品を渡してくれることで決着がついたのです」

 なんとか円満決着という形にはなったが、老人たちの怒りはなかなか収まらなかった。

 ちなみに、リハーサルに2時間、本番収録に5時間も費やした老人クラブのお年寄りたちの手元には、粗品の時計だけが残されたという。

――というわけで、まだまだあげたらキリがない。いかにテレビの現場がいい加減か、よくわかると思う。

 

スクープを連発したおかげでオウムとの癒着の疑惑がいっぱい!

ビデオテープを見せた件以外にも、TBSにはオウムとの間に癒着疑惑が絶えない。

ここで、それらの疑惑を整理してみると――

◎オウムに強制捜査情報を流した?

 昨年3月のオウム真理教の強制捜査。もし、それが事前にオウム側に洩れていたとしたら、あの地下鉄サリン事件の惨事の遠因はマスコミ側にあったことになる。

 この疑惑の発端は、青山メモと呼ばれる青山被告の手帳に書かれたこんな記述。

〈TBS強制捜査の情報 張りついている〉

 これが3月19日の記述で、別の日付のメモにはTBSの報道局員の名前が数カ所出てくるのだ。もちろん、メモに書かれた局員も、TBSも全面否定。TBS側の説明によれば、「報道局が強制捜査の情報を入手したのは、3月21日の午後3時か4時で、メモの日付19日ということはありえない」という。

◎局内にオウム信者社員がいる?

 これも強制捜査情報と一緒にウワサされた疑惑。「信者ではなくともシンパと呼ばれる人間が3人はいる」という話も伝えられているが、すべてはTBSがオウム報道でスクープが多い点に起因している。

「複数の人間が『ウチはオウムに強力なコネがある』というTBSのスタッフの話を聞いています。これが、早川メモに登場する報道局の西野記者だけを指すのか、別の人間を指すのかわかりませんが、TBSだけがオウム報道で突出していたのは事実です」

 と、マスコミ関係者。

 たとえば、麻原被告の獄中肉声テープがTBSだけに渡ったのは、なぜか? 『報道特集』でサブリミナル手法がとられたのは、なぜか? 早川紀代秀が富士総本部でナマ出演直後に逮捕されたのは、なぜか? と、疑惑の構図はつきない。きわめつけは………、

◎村井幹部刺殺を事前に知っていた!?

 このとき、TBSのカメラだけが犯人の徐被告を執ようにとらえている。まるで、事前に彼の行動を知っていた撮り方に不審をいだいた警視庁は「現場記者とディレクターを事情聴取した」という話も伝わっている。

◎元信者が衝撃証言を!

 こうしたTBSとオウムの癒着を、元信者が『東京スポーツ』(5/2)紙上で証言している。それによると、オウムがTBSにとった取材拒否は「親密関係がバレるのを恐れた偽装」というのだから驚く。

 もともとTBSにはオウムと癒着し過ぎているという批判が絶えなかった。だから、TBS側もその批判をかわしたいと願っていたようで、こうした思惑からオウムとの間にある取引きが行なわれたというのである。

 オウム側がTBSの取材を拒んだので思い出すのが、昨年の“説教テープ事件”。

 上祐史浩被告(当時はオウム真理教広報部長)が、教団の説教テープを「外部に出さないこと」という条件でTBS報道部のある記者に渡したところ、これがなんと朝の情報番組で放映されてしまった。当然、上祐被告は激怒し、「信義を守らない会社の取材は今後受けない」とTBSに対して抗議文を送った。当然、この後TBSは教団の南青山の東京総本部などの取材から締め出されたが、「あれは偽装。教団とTBSが裏でつながっているのを隠すためにやった工作」というのだ。

 実際、TBSの取材班は他メディアよりいつも先行していたし、杉並道場などもノーチェックで入っていたという話が伝えられている。

――ともあれ、スクープは、対象にできるかぎり接近しなければできない。癒着か密着か、その判別は簡単にはできない。

 

『報道特集』がスクープした麻薬の買人の証言は、完全なヤラセ!

 ここからは、本書で初公開する“まだあるTBSの疑惑”の数々である。

 ヤラセをやるのは、バラエティやワイドショーだけだと思ったら大まちがい。報道のTBSの看板番組『報道特集』だってヤラセをやっていた事実がある。

 これは、確かな証言に基づく事実なので、シッカリ読んでほしい。

「え~と、あれは確か去年(95年)の5月ごろだったと思います。『報道特集』のある人間から、奇妙な仕事の依頼を受けたんです」

 と言うのは、日本のテレビ局と海外取材に関して取引関係のあるプロダクションのA氏。

 彼は、突然、こう依頼されたのである。

「麻薬の買人として、ウチの番組に出演してくれませんか」

 A氏は、最初、何のことか意味がつかめず、ポカンとしていたという。

「なんでボクが麻薬の買人なんか」

 と言うと、『報道特集』の人間は、

「画面ではボカすし、声も変えるので、誰でもかまわないんだ。ともかく秘密さえ守ってくれればね」

と言い、さらに、

「絶対キミには迷惑をかけないから」

 という言葉を何度もくり返した。

 その当時といえば、“オウムが麻薬製造に関与していた”という観測が流れ、特に一部の夕刊紙や週刊誌では何度か記事になっていた。しかし、各メディアとも確証がつかめず、このスクープをどこがモノにするかという競争が激化していた。

 こうした話を説明されて、やっとA氏は、『報道特集』の人間が何を狙おうとしているのかを理解したという。

「現段階では状況証拠は十分にそろっているんだよ。しかも、捜査当局も肯定的ときているので、ボクらとしては証言者がほしいんだ。それがないとテレビでは放送できないからね」

 2人の話し合いは、旧TBSの地下1階の喫茶店で約1時間にわたって行なわれた。

「キミには絶対に迷惑をかけない。もし仮に何かあったら、ウチですべての責任を負うから……」

 くり返されるこの言葉と、相手がビジネスパートナー(お得意さん)ということで、A氏はしぶしぶこの申し出を受け入れたという。

 翌日、A氏の承諾を受けて、『報道特集』のスタッフとの具体的な打ち合わせが、局内の一室で行なわれた。A氏の証言に関しては、事前にあるスタッフが作成してきた。

 A氏の役割りは、ある暴力団関係者で、オウムから麻薬を仕入れる買人。セリフの数はそれほど多くなく、

「インタビュアーがいろいろな質問をするから、それを適当に肯定してもらえばいい。なにしろ、麻薬の買人がオシャベリなわけがないからね……」

 と、はっきり告げられたという。

 撮影はこの打ち合わせの2日後、TBSの旧赤坂社屋の会議室のようなところで行なわれた。撮影方法は、A氏の胸から下にライトを当て、顔は写さないというおなじみのやり方だった。

 当然だが、リハーサルもなく、撮影は数十分で無事に終了した。撮影が終わると、例の『報道特集』の人間がA氏に近づいて、

 A氏が中身をのぞき込むと、中には1万円札が20枚。A氏は即座に、

「こんなに受け取れませんよ」

 と、突っ返そうとしたが、その男は、

「いいから、いいから」

 と言って、A氏の肩をさかんに叩いたという。

 後日、Aさん出演のスクープは、報道特集の冒頭を飾った。

「今日はスクープをお届けします」

 とのナレーションの後、A氏は“オウム麻薬製造の事実を知る暴力団関係者”として紹介され、あのときの映像が写し出された。ナレーションはさらに、

「誰が証言しているのか、関係者に特定されやすいので、情報提供者の安全を守るために一部創作しています」

 という、ご丁寧なエクスキューズを続けていた。

「まったく、すべてツクリなのに!」

 と、その映像を見てA氏は舌打ちした。

 もちろん、すでに謝礼金をもらっているから、A氏はいまさら何も言えない。その後も今日まで、よっぽど親しい人間をのぞいて、この事実を隠し続けてきた。

 以上が、TBSの看板ともいえる『報道特集』のヤラセである。バラエティ番組などの笑って許せるヤラセはともかくとして、これは報道という名を借りた完全な犯罪である。TBSは、ニュースを自分の手で創作してしまったことになる。

 もし、このA氏の話をウソだと言うなら、当時の『報道特集』の当事者は、胸に手を当てて思い出してみるべきだろう。

 ビデオ騒動の渦中『スペースJ』(96年5月24日放送)でも、暴力団関係者の証言をとるため、ホテル宿泊費から交通費まで負担していた事実が発覚している。

『スペースJ』のこの事実発覚に対し、TBS広報部では、

「反社会的な存在である暴力団取材に、現金支払いや費用が派生してはならない」

 と、コメントしているが、こんなことを言ってしまって本当にいいのだろうか。私は心配でならない。

 

あの“殺人教授”安部英をナマ出演させた『ニュース23』の快挙!

 いくらバッシングを受けようと、日夜スクープのために努力するのが、テレビ局の報道部の宿命である。TBSの報道の柱『ニュース23』のスタッフも、この悲しい宿命を背負って大いに努力している。では、そんな努力の結晶というエピソードをひとつ。

 96年4月上句、なんと薬害エイズ問題の“戦犯”といわれる安部英氏(厚生省エイズ研究班初代班長)が、『ニュース23』にナマ出演、看板キャスター筑紫哲也のインタビューに応じた。もちろん、安部氏がテレビにナマ出演するのは、これが初めて。後に国会であのような能弁をふるったこと、また、日本テレビの桜井良子元キャスターの直撃に怒り狂ったことを考えると、これはじつに画期的なことだった。

 他局の報道部がみんな悔しがったTBSの快挙の背景はこうである。

「なんとかあの安部氏をナマで出せないか」

 と考えた同番組スタッフは、3月下旬、某有名大学教授(医事評論家)にコンタクトをとった。その教授を通して、安部氏に出演を要請するためである。

「現在のあなたの立場は最悪の状況と思われます。そこで、われわれ(TBS)は、あなたの潔白を証明する場を用意したいと考えています」

 この取材意図は安部氏に正確に伝わり、数日して、都内の某チャイニーズレストランで、仲介の大学教授を通して安部氏と『ニュース23』スタッフの打ち合わせが行なわれた。

しかし、安部氏はなかなか首をタテに振らない。そこで、このまま安部氏と物別れするのを恐れたスタッフは、次々に安部氏に有利な条件を持ち出した。

「先生のナマ出演に際しては、絶対に不利になるような質問はしません。83年のエイズ研究班の報告書に関しては、まったく言及しません。それでいかがでしょうか?」

 おそらく、これを妥協といい、どんなテレビ局もこうした報道姿勢を持っている。いや、新聞だって週刊誌だって同じだ。インタビューのためには何でもするのだ。

 この言葉でようやく軟化した安部氏に、『ニュース23』はさらに次のような約束をした。安部氏を報道陣の集まる自宅から保護し、都内のホテルと伊豆の温泉旅館にTBSの費用持ちでかくまうと……。ここに及んで、ついに安部氏はナマ出演をOKした。別れ際、『ニュース23』の人間はこうも言った。

「だいじょうぶですよ、安部先生。筑紫は医療のことに関しては素人同然ですから」

 

報道といっても一種のショー。このままだと誰も仕事をしなくなる!

 さて、『ニュース23』の報道姿勢は、“殺人教授”安部英氏のナマ出演過程でよくわかっていただけたと思う。

 つまり、『ニュース23』は報道というより、一種のショーなのである。そのとき話題の人間をナマ出演させ、視聴率のアップを狙うという、どこのテレビ局でもやっていることを忠実に実行しているだけなのだ。

 はっきり言って、これを報道姿勢などという言葉で言うから、コトはややこしくなってしまう。単に、話題作りと言えばいい。したがって、話題の人間を出演させるためには、他局ではできない有利な条件を出すか、あるいは破格のギャラがいる。

 なんのことはない、映画やドラマで大物スターに出演交渉するのと同じことなのだ。だから、暴力団関係者にも出演ギャラを払い、宿泊代と飲食代まで持ってしまう。それを「反社会的な存在である暴力団取材に現金払いや費用を負担するのは、健全な社会常識に反している」と糾弾され、世間に対して頭を下げてしまった『スペースJ』は、まったくどうかしてしまったと言えるだろう。

 しかも、局の上層部は、こうした報道姿勢をとった3人の幹部を、その時点でコトが発覚するや、うちうちで減俸処分にしてしまったのだ。

 減俸処分を受けたのは、『スペースJ』の番組責任者である小桜英夫特別報道センター長、吉崎隆プロデューサーら幹部である(肩書きは当時)。3人は、コトが発覚した昨年10月の時点で上層部に呼ばれ、処分を言い渡されると同時に、

「このことは決して口外するな」

と、クギをさされたという。

ところが、今度のビデオの不祥事が発覚する過程で、いとも簡単に露見してしまったのだから情けない。

 おそらく、こうした例は氷山の一角で、TBSとはいわず全テレビ局には、しばしば起こっているものと思われる。だから、上層部としては外部に漏れることを極度に恐れるのだ。

しかし、これがそんなに恐れることであろうか?

「もちろん、報道局内部にも“処分はやり過ぎ”と言う人間もいました。しかし、上層部は、そういう姿勢であっては困るという態度を取らざるをえない。もし、そうしなければ歯止めがなくなってしまう。スクープ狙いなら、どんな取材方法を取ってもかまわないことになり、ルールなどなくなってしまう。

しかし、これは一種のディレンマ。発覚しなければ何事も起こらない」

 とは、報道局のある幹部。

 もし、この本でスクープした『報道特集』の麻薬買人のヤラセや、『ニュース23』の安部英氏の出演交渉なども、コトが明らかになれば、上層部は幹部を「報道倫理上問題があった」として処分するのだろうか?

『報道特集』のヤラセは、明らかにデッチあげ(捏造)であり、『ニュース23』の安部英氏出演交渉は、殺人罪で告訴されている渦中の人物への便宜供与である。どちらも、正義は自分だけにあると考えている他メディアと一般大衆にとっては、格好の糾弾材料となってしまう。

「もしこんなことばかり続けば、誰もスクープを狙わなくなってしまうでしょう。多かれ少なかれ誰でもやっていることを、社会常識をタテにとって潰してしまえば、報道部に人間は誰もいなくなってしまいますよ」

と、ある局員は嘆きに嘆くのだ。

 

まさかと思うが……、懲戒解雇された2人のプロデューサーに裏金!?

 4月30日放送の検証番組に出演した2人のプロデューサー、曜日担当の武市功氏(52)と、番組責任者の多良寛則氏(53)。証言自体は目新しいものがなかったが、出演そのものにはビックリした関係者も多かった。

「なにしろ懲戒解雇ですよ。これは、組織を裏切ったという意味で、国家の犯罪でいえば死刑にも相当する重罪。そんな罪を着せられたというのに、なにをいまさらTBSに義理だてして証言しなければならないんですか」

 と言う局の人間もいるのだ。

 特に多良氏の場合、いまだ「思い出せない」「記憶にない」とがんばり、「ボクに認めろって言うんですか?」とまで言っているのだから、本人としては懲戒解雇などとても納得できるものではないはず。今後の生活と名誉のことを思えば、むしろ証言を拒否して、会社と闘うべきではなかったろうか。

 そこで、出てきたのが、TBSはウラで退職金を払ったのではないかという疑惑だ。

「そうでなければ、なぜTBSの名誉回復だけにしかならない番組に協力する必要があるんですか? それとも、2人にはジャーナリストとしての良心があり、視聴者のために出演したとでも言うんでしょうか」

 と、別の局員も疑問を呈する。

 こうした内部の声をもとに、この疑惑を最初に記事にしたのは、『東京スポーツ』紙(山本泰生&本紙取材班)。それによると、TBSの複数の内部関係者の話をまとめると、TBSはウラでチャッカリ退職金を払って、社に協力するよう密約をしたのだという。その金額は、3000万円前後というのだから、さもありなんと思えてくる。

 懲戒解雇といえば、企業という組織のなかでは社員に対する最高の制裁である。したがって、処分を受けたら即時退職で、退職金はおろか功労金、諸手当いっさいが出ない。人ごとながら、2人の今後の生活、人生まで心配になってくる。しかし、もし、ウラで退職金が出ているとすれば、話はずいぶんと変わってしまう。はっきり言って懲戒解雇は偽装ということになり、TBSの社会的責任が再度問われることになる。

「もし2人が上層部のことで何か握っているなら、口止め料ということもあるでしょう。しかし、いまの時点でそんなことは考えられません」と、また別の局員も言う。

 ともかく真相はヤブの中だが、私ならウラ退職金など受け取らず、どこかのメディアに独占手記を売るだろう。そのほうが恥知らずと言われてもよほど人間的と思うからだ。

 

●コラム:これでは民放の雄がなく――いくらでもあるTBSの不祥事の歴史

イメージがガタ落ちのTBSだが、イメージダウンはなにも今回ばかりだけではない。TBSの歴史のなかで、不祥事ばかりをふり返ってみても、いくらでも出てくるのだ。

683月・成田“角材積み込み”事件

成田空港反対闘争取材の際、TBSのマイクロバスが新空港反対同盟の婦人7人と角材付きプラカード18本を乗せ、警察検問で発見され問題となった。政府・自民党の一部から“偏向報道”の批判噴出で、局員8人が処分された。

7611月・幹部が日テレに侮辱発言

TBS編成局長が『野球とセックスを除いたらNTVに何が残るのか』と新聞取材に答えたことで、日本テレビ側が激怒。再三にわたる抗議書、返答書のやりとりの末、いちおうの“円満解決”となった。

◎84年5月・『結婚潮流』ドラマ化騒動

“明るい結婚の手引き書”なる売り文句と、24歳の若い女性編集長の存在で評判になった雑誌『結婚潮流』。これをモデルにして、TBSが制作したドラマに雑誌側が猛反発。“編集長の不倫オフィスラブ”という創作を中心にしたストーリーづくりに、雑誌側は不満を募らせ、名誉段損で放映中止の訴えを起こす事態に。

8910月・山口組ビデオを無断放映

秋の番組改編でスタートしたばかりだった『筑紫哲也ニュース23』のなかで、その日に行なわれた大阪府警による山口組一斉捜査のニュースにからめて、組側の制作した『五代目継承式』のビデオを放映。これが無断放映だったため、山口組の若頭が著作権を侵害されたとして、1000万円の損害賠償をTBSに求める訴えを起こし大騒動となった。しかし93年には、山口組側の請求が棄却された。

905月・『ギミア・ぶれいく』事件

同番組中で放送された『潜入! ヤクザ24時間追跡ドキュメント』のなかで、暴力団の幹部らが返済の遅れている不動産業者に対して、約6時間にわたり『ぶっ殺すぞ』などと脅し、借金返済を迫るシーンを放送。出演していた組長らが、暴力行為と傷害の容疑で逮捕された。目の前で犯罪が起こっているのに、それを平然と取材していた報道機関としてのモラルが問われ、担当役員やプロデューサーら7人が減俸処分に。

◎90年10月・『ギミア・ぶれいく』卵持ち出し事件

 ニュージーランドで約半年をかけて巨大鳥モアの骨を探し当てるドキュメントを取材していた外部プロダクションのスタッフが、国外持ち出し禁止の卵のカラの一部や指の骨を隠して出国しようとして逮捕された。罰金判決を受け、番組は事実上放映できなくなってしまった。

9011月・ADによる婦女暴行事件

『街かどテレビ』のアシスタントディレクター2人が、朝方、スナックのアルバイトから帰宅途上の22歳女性に声をかけ、強引に車に連れ込んで暴行。成城署に、婦女暴行容疑で逮捕された。2人は人材派遣会社から派遣され、1年前からフロアディレクターを務めていた。

◎91年1月・高速道でカーレース事件

 所ジョージや三原じゅん子らが出演した正月番組で、常磐自動車道を舞台にカーレースを展開。タレントが、それぞれの愛車で走行する様子を空撮したものが放映された。しかし、「高速道路でカーレースとは何事だ」と抗議が殺到。無許可で撮影されたことも判明し、道交法違反容疑でスタッフが書類送検された。

911月・新年会でピンク接待

ホテルニューオータニ内のレストランを借りきって、番組宣伝部が一般紙やスポーツ紙の放送担当記者の新年会を開いた。その余興で、裸になったAVギャル3人に聴診器を当てる遊びをしたところ、居合わせた女性記者数人が「サイテーの局ね」と席を立って帰ってしまった。男の記者にはウケたが、女性記者にはウケるはずのない余興だった。

917月・損失補填リストに名前

7月29日に公表された大手証券4社の損失補填リストのなかに、テレビ局で唯一TBSの名が入っているのが明らかになり、大問題となった。

補填額は日興、野村両証券合わせて6億5300万円。

「日ごろ他社の不祥事を告発するマスコミ自身が何事だ!」と大批判を浴びた。しかし、田中和泉社長は「認識がなかった」と居座り、やっと、同年10月9日になって辞任した。

922月・”佐川報道“で読売と戦争

“読売新聞が佐川急便に土地を不当に高い値段で売却し、背後には大物政治家の影がちらついている”というTBSのスクープ報道に端を発し、互いを名誉段損で提訴し合う泥仕合に。3年後、判決直前に和解となった。結果的には、TBS側の敗訴。

955月・サブリミナル放送問題

『報道特集』のオウム関連報道で、麻原被告の顔が映像に入れられサブリミナル的手法が使われたことが発覚。局員5人が減俸処分を受けたが、TBSでは、読売テレビ制作のアニメ番組内に、同じく麻原被告の顔写真が挿入されていたのをスクープしたばかりだった。

 

「坂本弁護士事件」が早期解決しなかった本当の理曲は、これだ!?

 TBS非難の声のひとつに、こんなのがある。

「もし、TBSがオウムにビデオを見せたことをいち早く公表していれば、坂本弁護士事件はもっと早く解決していただろう。この点をTBSは深く反省し、坂本弁護士のご遺族に謝罪すべきだ」

 確かにその通りである。こうした意見は新聞の読者欄にも載って、この問題に対する世間の一般的受けとめ方を示していると言っていい。

 しかし、このあまりにも正し過ぎる意見には、大きな死角が存在するのだ。

 それは、当時あれほどの状況証拠があり、しかも逮捕された岡崎容疑者というようなオウム側からの情報提供があったにもかかわらず、なぜ神奈川県警はオウムを追いつめなかったかということにかかわってくる。

ある捜査関係者が明かす。

「あくまでも私見ですが、あの時点でTBSが公開したとしても、神奈川県警は動かなかったでしょう。

その最大の理由は、これまでどのマスコミも遺族のことを考えて書かなかった点に尽きます。つまり神奈川県警にとって、坂本弁護士らが所属していた横浜法律事務所は面白くない存在だからです。あの法律事務所の弁護士さんたちは、ほとんどが左翼系と言われていて、かつて共産党と幹部の盗聴事件まで起こしてもめた神奈川県警としては、かかわりたくない気持ちが強かったからです。

もうひとつ、これは警察自身の問題ですが、彼等は宗教団体が大嫌いなんです。かかわるとロクなことがないと経験的に知っていて、なるべく介入したくなかったんです」

 正直な話、こうした見方は、これまで一部でささやかれていたものの、公には誰も発言してこなかった。

 もちろん、テレビでこんな見方を提示すれば、識者はたちまちコメンテイターを降ろされ、視聴者からの抗議が殺到しよう。

 しかし、東村山市の市議の死因が簡単に自殺と片づけられてしまうように、この日本は完全な法治国家ではない。また、人はみな平等であるという完全な自由国家でもない。そのことは、ちょっとしたジャーナリストならみな気がついているはずである。

 

旧役員20人中12人が東大卒というエリート集団だから“官僚答弁”に

「ビデオテープを見せた、という事実は確認できない」

「見せたと判断せざるをえない」

「事態解明の方向を示しえたので、私自身の責任を明確にする」

「さまざまな判断の誤りが今日の事態を招いた。深い反省の上に立って、どうすれば信頼を回復できるのかを真剣に悩み、考えたい」

――以上は、5月1日で辞任するまでの磯崎前社長の主な発言である。

「なんて官僚的な答弁だ。これが言葉を大切にするマスコミ人の答弁か!」

 という怒りの声が巻き起こったのも無理はない。TBS労組主催のパネルディスカッションでも、「おたくの幹部の発言は官僚よりひどい」と批判される場面もあった。

 発言が官僚的なら、体質も官僚的というのがTBS。実際、TBSの幹部はエリート意識の塊のような人々ばかりという。

「役人といえば東大というのが相場なら、ウチの社はお役所そのものですよ。役員は完全な東大閥ですからね」と、ワイドショー部門のあるディレクターは言う。

 なるほど、5月1日の刷新以前のTBSの重役陣は、磯崎前社長(早大卒)をのぞいて半数以上が東大出身だ。役員数20人のうち12人(60%)が東大卒。この割合は、日テレ(22人中7人)、フジ(30人中4人)、テレ朝(26人中11人)に比べると、異常に多い。

「東大閥の本流は、ポスト磯崎さんの本命と見られていた杉本明専務(辞任)と大川光行常務(辞任)でした。この下に、今回の件のA級戦犯の報道局長の藤原亙取締役が幅を利かせていた。だから、報道局っていうのは、かなりの東大閥で、自分たちはエリートと思っているから、下請けや出入りの業者なんかアゴで使うだけ。不祥事が起こればみんな他人のせいにしてしまうという体質なんです」

 とは、前出のワイドショーのあるディレクター氏。では、そんなTBSの東大卒エリート社員たちは、出入りの制作会社のスタッフにはどう映っていたか。

「やっぱり自信過剰で、そのわりには意外と世間知らず。ボクらの意見なんかほとんど無視するくせに、上司の意見には従う。これでは、やってられませんよ。それに飲みに行くのも、東大ラインで……。ともかく挫折を知らないから、今度の件で初めて世間から白い目で見られて、いい経験になったと思うね」(『スペースJ』の下請けスタッフ)

 

自ら作った報道基準を無視して行動せねばならないという大矛盾!

 報道機関(新聞、テレビ、雑誌)というものは、一般的に二重、三重の規制のなかで活動している。テレビ局だけに関してみても、まず放送法があり、電波法があり、続いて民間放送連盟の放送基準があり、さらに各局独自の報道ガイドラインを持っている。

 TBSもまた、詳細な「TBS報道基準」と「TBS報道活動の指標」というガイドラインを持っている。後者は、1994年にテレビ朝日・椿事件が起こったとき、各局が自らの戒めとして作成した“自己規制の基準”のひとつだが、今回の件でそれが十分に活かされなかったのは言うまでもない。

 なぜなら、「TBS報道活動の指標」のなかには、報道機関に関する国民の信頼を確保するために「取材結果の報道目的外使用はなされるべきではない」と明記されているからだ。さらに、この指標のなかには、「報道番組は、すべての干渉を排除し……」という「TBS報道基準」の第8項も再録されている。

 つまり、オウム側にビデオを見せることは、これらのガイドラインに照らし合わせれば、あってはならないことなのである。また、オウム側の圧力で何らかの放映を中止しているとしたら、報道機関としての独立性を失ったに等しいことになる。

 しかし、これらのガイドラインを、はたしてTBSの社員がどれほど学んでいただろうか?また、学ぼうとしていただろうか? おそらく、その存在すら知らない社員もいたはずである。さらに、ワイドショー部門などは外注がほとんどだから、下請けのディレクターなどに至っては、何も知らなかったはずである。

 とはいえ、報道をいちいち規制で縛ってしまったら、最後には何もできないことになってしまう。むしろ、スクープとか特ダネは、こうした規制をあえて無視するところから出発している。つまり、この世に、お行儀のいい報道などありえないのである。

 しかし、報道機関というものは、タテマエ上ではお行儀よくしてなければならない。自らが定めたガイドラインを守って、国民、視聴者のために努力しているという姿勢を見せなければならない。ここに、大きな矛盾があるのだ。ある報道局幹部はこう証言する。

「正直なところ、みな、何がよくて何が悪いかはわかっていますよ。局の報道基準も頭に入っている。しかし、その通り行動していたら、他局に出し抜かれてしまう。つまり、知りつつも無視して行動する。それが、報道部員というものなんです」

 

●コラム:どこがいけない? ――この際、放送法を知っておく必要が!

テレビで不祥事が起こるたびに持ち出されるのが、放送法。今回の件も、この放送法に照らし合わせて考える必要がある。

では、まず、今回の問題点を整理してみよう。

1、坂本弁護士のインタビューテープを番組前にオウム側に見せたこと。

2、同番組の放映を突如中止したこと。

3、オウム側の圧力を坂本弁護士側に伝えなかったこと。

4、坂本弁護士失跡事件が起こった後、オウム側にインタビューテープを見せたことを

公表しなかったこと。

5、麻原彰晃の単独インタビューは、テープを見せたことの交換条件ではという疑惑。

6、社内調査の遅れとズサンさ。また、組織ぐるみの隠蔽工作だったのではという疑惑。

――以上の6ポイントのうち、3、4は、完全に倫理上の問題。また、5.6も、TBS自らが認めていない以上、疑惑のまま残るだけ。つまり、放送法上問題視されるのは、1と2だけということになる。

 この問題は国会でも取り上げられたが、そこで主に指摘されたのは、放送法の1条、3条及び3条の2であった。しかし、1条は、“放送上の表現の自由は権力が保障する”という内容だから、今度の件が該当するとは思えない。また、3条の2も“放送番組準則”で、その内容は、“放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号に定めるところによらなければならない”として、以下の4点をあげている。

“1、公安及び善良な風俗を害しないこと。 2、政治的に公平であること。 3、報道は事実をまげないですること。 4、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること”

 これらは、主に倫理規定と考えられているので該当はしないだろう。

 とすると、今度の件が放送法に低触し、行政処分の対象となると考えられるのは、主に3条ということになる。

 それでは、放送法の第3条には何が書かれているかというと、“放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、または規律されることがない”ということである。

 これは、言論や出版の自由と同じような概念で、いわば“放送の自由”というテレビ局の根幹となるべき考え方と言える。つまり、テレビ局は、その放送を妨害、干渉しようとするどんな勢力にも屈するべきではないのだ。もともと、言論や表現の自由は、主に政治的権力からの自由をうたったものだが、現代では、財界、労働団体、宗教団体、スポンサーなども含むと考えていいだろう。“何人からも”とある以上、どんな団体であれ、その圧力に屈してはいけないのである。

 つまり、TBSがオウムの圧力で坂本弁護士のインタビューの放映を中止したのだとすれば、放送法第3条に低触したことになる。

 しかし、もしそうだからといって、ただちに放送法違反として、電波法などを持ち出して制裁措置(免許停止など)を加えられるかというと、今度の件はそれほど単純なものでもない。

 まず、TBSはこれまで「オウム側の圧力に屈した」とは、明言を避けてきている。また、再生を賭けて放送した「検証特番」でも「報告書」でも、ビデオを見せたか見せなかったのか追及に終結し、「なぜ坂本弁護士のインタビューを放送中止にしたのか」については詳しく報告しなかった。つまり、このポイントさえ明確にしなければ、TBSは、最悪事態を回避できるからである。

さ らに、もっと言えば、たとえ仮に「オウム側の圧力で番組中止」という事実が特定されたとしても、それが担当プロデューサーの独断、あるいは局長レベルの判断という形なら、局自体が外部圧力に屈したわけではないということになる。

 このように、放送法のあいまいな条文に対してはいかようにも対処できるのだ。

 しかも、どんなテレビ局であれ、これまでに何十何百という企画を没にしているにきまっている。そして、そのなかには、政治勢力やスポンサーなどの圧力に屈したのも山ほどあるはずである。ただ、そういったケースでは、テレビ局はきまって「自主的判断で中止した」と言えばすむのである。

 以上が、放送法をめぐっての解釈だが、一般人にとってはどうにも釈然としないと思う。大騒ぎするわりには、別にどうってことない――ように思えてしまうのではなかろうか?

 実際、そのとおりで、今回の不祥事は、やはりただの不祥事。少なくとも放送法上では、それ以上のものではないのである。

 検証番組放映と同時に、TBSは監督官庁である郵政省に「報告書」を提出した。その要旨は次のとおりだ。

1.オウム真理教が坂本弁護士インタビューテープの存在を知ったのは、曜日担当プロデューサーが富士宮で話したため。

2.テープを見せたことに、総合プロデューサーがかかわったことは明白。

3.「オウムの圧力」が他の要因とともに放送中止の一因となったことは否定できない。

4.テープが放送されなかった理由が、報道局の記者を通しての働きかけの結果とは考えられない。

 

 どうであろうか? 見事なまでに、あいまいではなかろうか?

「オウムの圧力」とはいうものの、他の要因もあって、TBSはインタビューテープの放送を中止したと言っているのだ。

 これでは、郵政省の対応も形式的なものにならざるをえない。案の定、それは、文書による厳重注意という名の「行政指導」だった。TBSはこれを受けて、「再発防止のために全力をあげる」ともういちど世間に頭を下げ、自粛処置を発表し、表面上の幕は引かれたも同然となった。放送法史上、これまでに放送を一時的にも中止するようなペナルティを科せられた局は、1局もないのである。

 

ターニング・ポイントはビデオを見せる前日に起きたある事件に!

「今回のTBSバッシングの根底にあるのは、大マスコミ、特に大手新聞の後ろめたさではないかと思うんですよ」

 と言うのは、私の友人のある週刊誌のデスクである。

 思い起こせば、坂本弁護士殺害事件(当時は失跡事件と言われた)が起こった89年、すでに被害者が出て社会問題化したオウムについて、各社はまったく報道していなかった。

「やっていたのは一部のワイドショーと週刊誌だけ。もっとハッキリ言えば、『サンデー毎日』が口火を切って、TBSの『3時にあいましょう』が乗ったぐらい。大新聞も、各局の報道局も完全無視を決めこんでいた。

 しかも、この姿勢はその後もずっと続いて、松本サリン事件では長野県警のチョンボ捜査に乗っかって大ステイクまで犯している。それが、6年たってこんな大事件になってしまった。なぜ、あのときやらなかったのかという後悔と、やらなかったことを正当化しようという自己防衛本能が、TBSだけを悪者に仕立てあげる方向に向いている。これは一種の魔女狩りだ」

 と、そのデスクは続ける。

 彼の説によると、TBSがオウムにビデオを見せるはめになったターニング・ポイントは、89年10月25日だという。これは、ビデオを見せた前日。では、この日、いったい何があったのか?

「週刊誌の連中ならみんな覚えていると思うが、あのときの『サンデー毎日』の反オウムキャンペーンはかなりのインパクトがあった。それで、これはリアクションがあるのではと注目していたら、やはりオウムは『サンデー毎日』を告訴したんです。それが、10月25日。つまり、TBSの連中は、オウムに押しかけられる前、この事実を知っていた。それで、もし強行放映したら、自分達も訴えられると考えたにちがいない。ワイドショーの制作側にとって訴えられるということは、かなり面倒くさいことなんです。だから、ビデオを見せて反応を確かめ、それが強行だったので放映をやめちゃったんでしょうね」

 もしこれが本当なら、TBSは絶対に事実を公表できない。オウムの圧力に屈したと報告すれば、それはメディアとしては死を意味するからだ。

「じゃあ、やめよう」という判断が、その後こんなに大問題になろうとは、このときは誰も思わなかったはずだ。

 

“反省ポーズだけで乗リ切ろう” ストもポーズのTBS御用組合!?

「まあ、猿と一緒だね。反省するだけならお金もかからないし、ここは、とにかく反省の色を見せて、嵐が過ぎ去るのを待つ。“人の噂も75日”というからね」

 この発言、TBSの顔でもあるベテラン編成部員の本音である。TBSでは、さかんに反省のポーズを取っているわけだが、結局は、この言葉が、局全体の本音といってかまわないと思う。

 もちろん、今回の件で、各メディアは、TBS内部のさまざまな反省のポーズを記事にするのに血道をあげている。

 たとえば、局員には上層部に対する不信感が広がっている。TBS労組もスト権を確立し、経営陣との対話を求めていくなどと……。

 しかし、各職場で開かれたという職場集会というのがあるが、それも最初だけ盛りあがっただけで、後は相当ヒマな人間しか出席していないというし、TBS労組主催のパネルディスカッションにしても、局外から田原総一朗や有田芳生などのジャーナリストを呼んだだけで、新聞が書くような“白熱した議論”とはほど遠い。

 はっきりいって一般の局員たちは、自分の日常生活に忙しくて、いくら会社の不祥事とはいえ、そんなものにかかわっている時間はないのだ。これは、どこの会社でも同じだろう。今度の件の当事者である報道局や旧社会情報局以外の部署は、そんなものどこ吹く風と思わなければやっていけないし、また、局員自身もそうしている。

 社内に発足した4つの検証チームの検証が、遅々として進まなかったのも、こうしたことが原因だ。よっぽど強い権力がなければ、いったい誰が自らすすんで、社内浄化のために協力するだろうか。

そうした本来人間性を善としてとらえる考え方では、企業内で人間は生きていけない。

先のベテラン編成部員が続ける。

「だいたいウチの組合というのは、会社側の御用組合なんですよ。だから、ストを打つなんていうのもポーズで、誰も本気にしていませんよ。ともかく、今度のことで営業実績が落ち込んだり、視聴率が下がらなければ、本当に危機なんてやって来ない。そんなことは、みんな知っていますよ」

 とはいえ、今度の件では、TBS労組はかなりの健闘をした。

 4月17日に“ビデオ問題の真相解明を求めるスト権の確立”を求めて、組合員(844人)の投票を行ない、賛成多数で成立。いちおう、経営陣とは一線を画して問題追及をしていく姿勢を世間に示したからだ。

 このスト権の確立とともに、労組は会社側に要望書、質問書も提出。このなかでは、ビデオ事件の徹底究明を求める一方、日本テレビの報道以降の会社側のまずい対応を指摘し、「経営の判断ミスにはどんな意志決定、背景があったのか。責任の所在についてTBSの見解を求める」とした。

 これら一連の動きが、検証番組放映の日取りを早めたのは言うまでもない。

 ちなみに、TBS労組は、91年の損失補填問題のときも、当時の田中和泉社長の退陣を求めてスト権投票を行ない、社長を退陣に追い込んだ実績がある。

「でもね。基本的には儲かっている会社ですから、労組もこうした問題が起きなければ、真剣には組合活動はやりませんよ」

 実際、今度の件でワイドショーが内部検証する特集をすれば視聴率はハネあがる。磯崎前社長の会見を流した『スーパーワイド』、『スペースJ』のおわび、4月30日の検証特番と、みんな高視聴率で、これでは逆にTBSに追い風が吹いているようなものなのだ。

 

午後のワイドショーの打ち切り決定で、外部スタッフが泣きをみた

結局、予想通りですね。ワイドショーを潰したことでTBSはビデオ問題を片づけようとしている。泣きを見るのは、弱い立場の人間だけですよ」

これは、某制作会社幹部氏のコメントだが、TBSは、予定通り、ワイドショー潰しで、世間の目をごまかそうとしたとしか思えない。

その第1の犠牲となったのは、午後のワイドショー『スーパーワイド』だった。この決定は5月7日に、正式に番組スタッフに伝えられた。

そして、5月20日には、ワイドショーを統括する部門である社会情報局の廃止も正式に発表された。

「まさか、10月の改編までは打ち切りはないと思っていた」

 と言うスタッフが多かったから、その動揺ははかりしれないほど大きかった。

『スーパーワイド』は、オウムビデオ事件を起こした『3時にあいましょう』の後番組として91年秋にスタートしたが、オウムビデオ事件は、あくまで『3時にあいましょう』時代に起きた事件であり『スーパーワイド』自体とは、直接関係ない。

「結局、ワイドショーの責任にするために番組を潰しただけ。『スーパーワイド』は関係ないのに番組を潰して沈静化をはかったのでしょう。それより、TBS幹部の責任のほうが重大。幹部達は、なぜ責任を取って、会社を辞めないのか」

 と、ある制作会社の幹部氏は、怒りが収まらない。

 確かに怒るのは、ごもっとも、という気もする。確かにTBSは、オウム幹部にビデオを見せた総合プロデューサーと曜日担当プロデューサーを懲戒解雇処分にしたが、結局、局を辞めたのはこの2人だけ。TBS幹部たちは降格と減俸処分程度だった。

 だが、今度の番組打ち切りで、制作会社社員やレポーターなどの関係者は何と100人前後も失業することになるのだ。

 そもそもワイドショーは、社員プロデューサーが何人かいて、制作会社が受注する形を取っている。『スーパーワイド』もその例に漏れず、『3時にあいましょう』時代以来、泉放送、TBSビジョン、ラダックの3つの制作会社が制作を担当してきた。そして曜日ごとに、制作会社のプロデューサー、ディレクターを含めて、10人以上の人間が担当。月~金曜日の5日間とすると、約70、80人前後の人間が働いてきた。これにレポーター、ナレーター、ヘアメークなどが加わると、なんと100人前後もの人間がこの番組に携わってきたことになる。

「つまり、番組終了によって、100人もの人間が職を失うことになる。実質的に罪のない100人の人間がクビになる。TBS社員は2人しかクビになっていない。予想通りTBSは、弱い者をクビにすることで、ビデオ問題を乗り切ろうとしている。ビデオ問題よりも、このやり方のほうが、よっぽどひどいのでは」

 と、TBSの局員自身も、あきれるばかり。

 なるほど、言いたくてもモノが言えない弱い立場の人間たちを犠牲にしたうえで、自分達だけが生き残ろうとする。

 TBSの誇る官僚的体質が、ここに極まった感があるのだ。

 それどころか、ビデオ問題で、あいまいな態度に終始したTBSの官僚体質は、さらに悪化したと言えるだろう。

 また、こうした見方もある。

「結局、今度の件で批判されたワイドショーを犠牲にして、報道局の傷を最小限にすませたいんです。報道関係を処分したり、番組を潰したりしたら、それですべての責任を認めたことになってしまいますから……。それだけはできないんですよ」

 と、ワイドショーの属する元社会情報局の局員のひとり。

ともあれ、クビを切られる制作会社サイドの人々の表情は深刻そのもの。

「もちろん、今後のことについてはまだ何も決まっていません。ずっとワイドショーをやってきたから、いまさら、他番組、他局ですぐ仕事ができるわけではありませんから。本当に、死活問題なんです」

 しかし、こんな声もあるのも最後につけ加えておこう。

「表向きは番組を潰してみせていますが、いずれまたワイドショーをやらざるをえなくなります。とりあえず、ドラマの再放送などでつないでいき、10月の改編時に新しい生活情報番組をスタートさせると言っていますが、これはワイドショーです。

 新しい生活情報番組が成功した試しはありません。いくらワイドショー路線を避けると言っていても、またすぐに元に戻るのは間違いないでしょう。解体した社会情報局も、また名前を変えて復活するはずです。

 なぜ? それは、そうしなければ視聴率が取れないからです」

 

あまりの高視聴率に「もっと検証番組を」という声が出る“皮肉”!

なんてったって20.2パーセントですよ。これなら何度でも検証番組をやればいい」

 4月30日放送のTBSの検証特番の視聴率が発表されたとき、局内ではこんな正直な声があがったという。

 これはビデオ・リサーチによる関東地区の視聴率。30日午後7時20分から始まった同番組は、10時53分までの213分の平均視聴率で20.2パーセントを記録。9時40分には瞬間最高で24.7パーセントにまで達した。ちょうど同じ時間帯にフジテレビでは、プロ野球ナイター「巨人-中日」戦を放送していたが、こちらは17.2パーセント。これを3%もしのいだのだから、ふだんなら笑いが止まらなくなるところだ。

 この大反響に、検証番組プロジェクトチームの責任者、三辺吉彦・報道局専任局長は、

「視聴者が今回の問題についていかに大きな関心をもっていたかを如実に示したものと受けとめている。責任の重大さをあらためて実感している」

 と話したが、こんな公式コメントより、正直な局員の声のほうが、よほど現実性がある。

 実際、今回の不祥事で、TBSの各番組は軒並み高視聴率を記録している。

 まず、最初に磯崎洋三前社長が会見した翌日、3月26日の『スーパーワイド』では、ビデオ問題を取り上げた午後3時台に10.1パーセントを記録。

「ふだんなら6パーセントぐらいなのに、この日はウチを上まわって、これじゃあ敵に塩を送っているのと同じ」と、午後のワイドショーではNo.1の日本テレビ『ザ・ワイド』のスタッフを悔しがらせている。

 また、同じような現象は、朝のワイドショーの『モーニングEYE』や、夜の『スペースJ』でも起こったから、なんとも皮肉な結果となった。特に、『スペースJ』などは、あまりの低視聴率に、いったんは打ち切りが決まった番組である。それが、95年のオウム報道で生き返り、疑惑のスクープを次々としながら今日まで続いているのだ。

「一時的に局内には、疑惑を招いた『スペースJ』を打ち切ろうという声がありました。しかし、自らまいた種で高視聴率を叩き出してしまったんですから、何とも皮肉です。視聴率をタテにとれば、打ち切りは不可能ですからね」

 と、ワイドショーのあるスタッフ。視聴率を第一に考えれば、「もっと検証番組を」という声は、まったくもって正論なのだ。

 

なぜ“民放の雄”は凋落したのか? 誰もが指摘する「あのころ」……

 かつてTBSが“民放の雄”と言われたころ、「1強3弱」という言葉があった。言うまでもなく1強はTBSで、3弱はフジ、日テレ、テレ朝である。ところが、現在のTBSは、万年3位の定位置から抜け出せないでいる。

 いったい、なぜこうなってしまったのか?

 TBSが、全日とプライムタイムの両視聴率でトップを取ったのは、もう16年も昔の1980年のこと。それ以後は、フジテレビに9年連続で視聴率3冠王を許し、日テレにも抜かれるという長期低迷が続いている。

しかも、今回の不祥事に代表されるように、「やたら問題を起こす局」に成りさがってしまったのだから、情けない。

 こうしたTBSの凋落を考えるとき、年長社員たちが口をそろえて言うのが、「山西時代まではよかった」ということだ。「山西時代」とは、TBSの第5代社長、山西由之さんが活躍した70年代の後半から80年代の初めまでを指す。この時代のTBSは、報道とドラマの2枚看板を持ち、視聴率でもNo.1を独走、山西社長の攻めの経営から人事も刷新され、緑山スタジオの構想も具体化している。また、それまでの多角経営化の反省から、“放送企業は放送番組を最優先し、利益は番組制作に還元して視聴者に還元せよ”という、考えてみればごく当たり前の姿勢の運営がなされていたのである。

「山西さんが偉かったのは、常に攻めの体制作りを心がけ、テレビ本部制とラジオ本部制を解消して、風通しをよくしたりした点だね。こうした攻めの姿勢は、その後の浜口さん(浜口浩三第6代社長)にも引き継がれたが、その後の田中、磯崎両君はどうしようもなかった」

 と、あるOBは厳しく批判する。

 もちろん、こうした歴代社長の実力とは別に、時代という企業を取り巻く環境も、TBS凋落の原因として考えられる。

「TBSは69年から78年の10年間、社員の採用を極端に抑えこんだ時期があるんです。こうしたボディブローが、10年後、20年後にこたえてくる。つまり、30代、40代の働き盛りの社員が他局に比べて極端に少なくなってしまったんですね。この傾向はフジテレビにも見られますが、フジは81年からほぼ毎年中途採用を行ない、人材の空洞化をリカバーしてきた。この点で、TBSは努力を怠り、それがトレンディドラマ路線やお笑い路線で負ける原因を作ったんです。

やはり、民放の雄と言われた驕りがあったんですね」

 と言うのは、総務局のある幹部。

 確かに、TBSは田中和泉、磯崎洋三社長時代になると、なにをやってもうまくいかなくなってしまった。

 田中時代の最大の失敗は、民放の雄というプライドをかなぐり捨てて、他局のモノマネに走った点だろう。

「テレ朝の『ニュースステーション』の成功に刺激されて、森本毅郎を起用して『プライムタイム』を作ってみたら、これが大コケ。もともと、夜10時台は『金妻』などのドラマで高視聴率をあげていたのに、『プライムタイム』でミソをつけたおかげで、ドラマまでダメにしてしまったんです」

 と、元TBSのドラマプロデューサー。

 こうして迎えたのが、TBS創立40周年で、TBSは起死回生を狙って「宇宙特派員計画」というのを実行した。例の秋山豊寛さんを“100億円かけてロシアのソユーズロケットで宇宙へ送り出す”というこの計画は、10日間延べ37時間の特別放送を組み、最高視聴率36.2パーセントを取っていちおう成功した。しかし、番組の成功の裏には、50億円もの莫大な赤字が残されたのである。

「もちろん、製作費のかかり過ぎもありましたが、それ以上にソ連(当時)に多額の契約金と追加金を取られたことも痛かった」

 と言うのは、当時このプロジェクトにかかわったある局員。

「それでも経理出身の社長ということもあって、その後はリストラなどでうまくやってきたんですが、株の損失補填問題であえなく退陣。次に登場した磯崎さんもあの体たらくでしたから」

 と、この局員は嘆くのだ。

 磯崎時代の最大の失敗は、ゴールデンの7時台に『ムーブ』という帯番組を強引に作ったことだろう。

『クイズ100人に聞きました』などという高視聴率番組があるにもかかわらず強行したことは、またしても裏目に出て、1年と持たずに改編を余儀なくされてしまった。

「番組の大幅改編はことごとく失敗したので、もう上層部としては自信を失ったんですね。あれ以来、そんなことをしなくても儲かっているんだから……というムードが社内をおおうようになったんです」

と、この局員は続ける。

 こうして、昨今のTBSは万年3位の定位置を抜け出す意欲も薄れ、その日暮らしの視聴率狙いを続けるだけの集団に成り下がってしまったのである。

 考えてみれば、1400億円もかけて完成させた新社屋『ビッグハット』に移転したときが、TBS再生のチャンスでもあった。

 しかし、TBSは、長年の高収益体質に慣れ過ぎたためか、新しい冒険には打って出なかったのである。

「もういまでは誰も、民放の雄などと思う社員はいなくなりました。それどころか、今度の件でわかる通り、すっかり官僚体質が染みついた組織になってしまったんです」

 はたして、こんなTBSに再生は期待できるのだろうか?

 おりから、TBSは5月20日から5日間にわたって深夜番組の放送を自粛した。放送局が自らの生命線である電波を止めることは致命的な屈辱だが、これは、一部郵政族の議員からの圧力という。「ゴールデンで自粛しろ!」とまで迫った議員までいたというから、あきれてしまう。しかし、議員の世論を背景にした横暴はいまに始まったことではない。それよりも、こうした屈辱を屈辱として素直に受けとめ、局員ひとりひとりが信頼回復の努力をすることが大切だろう。

 

取材を終えてわかった“本当に謝ってほしいもの”――あとがきに代えて

 本書の最終章に詳しく書いたように、現在のテレビ局は視聴率に支配されている。もはや視聴率はモンスターと化し、局内を縦横無尽に歩きまわっている。

 本書の取材で、短期間にじつにさまざまなテレビ関係者に会ったが、そのうちの誰ひとりとして視聴率のことを言わなかった人間はいない。テレビに携わる人なら、どんな人間でも、視聴率を考えていない人間はいないのだ。

「私はあえて視聴率を取りにいかない」

 と言うプロデューサーほど、裏では必死に考えていて、

「視聴率を取りたい」

 と言うプロデューサーに至っては、もう日夜必死に考えている。

 これが、テレビの現実なのだ。

 テレビにとって視聴率とは、まさに金のなる木。一般の会社でいえば、売り上げ、収益である。つまり、一般の会社がお金に支配されているように、テレビ局も視聴率という姿を変えたお金に支配されているに過ぎない。

 現代日本は、まさにお金がすべての社会である。住専にしろ、銀行にしろ、薬害エイズ問題を起こした製薬会社にしろ、厚生省にしろ、政治家から暴力団、一般庶民に至るまで、すべてが金、金、金である。

なぜ、こうなってしまったのか?

 それはもう問うまい。

 ただ、はっきり言えることは、お金の前では、モラルも倫理も消え失せてしまうのである。

 TBSは確かに悪かった。

 モラルと倫理という、人間が生きるうえでいちばん大切なものを踏みにじった。しかしそれはTBSだけのことではない。全メディアの問題なのだ。

 最終章で述べたように、テレビ局には社長はいない。いてもそれは、視聴率の奴隷という社長だから、本当の社長は、お金が姿を変えた視聴率である。

 というわけで、本書の最初に書いたように、視聴者が本当に謝ってほしいものを、最後に記そう。それは、TBSの社長でも局員でもなく、ただ単に視聴率なのである。

 視聴率が、正直に頭を垂れ、

「私が悪うございました」

 と謝れば、それで問題は決着する。

 しかし、そんなことはどう考えてもありえない。