メディアに紹介されたペーパーバックス 印刷

出版新領域の開発に挑戦する光文社ペーパーバックス 

『内側から見た富士通』、フルフォードの著作、問題作・意欲作を多発 

『情報春秋』(2004年10月30日)

   カバー・ジャケットなし、帯なしという簡易な装丁に加え、日本の書籍としては異例の横組み左開き、しかも文章の要所要所の単語に英語が挿入されるという、 異色のシリーズ「光文社ペーパーバックス」。装丁の異色ぶりだけでなく、刊行される作品も、『日本がアルゼンチン・タンゴを踊る日』に代表されるベンジャ ミン・フルフォード氏の辛辣な日本論や、最近ではIT関連のトップ企業が導入した成果主義が惨憺たる結果をもたらしたという内部告発『内側から見た富士 通』が大ヒットするなど、切り口鮮やかな意欲作品が出てきている。

   光文社ペーパーバックスの創刊は2002年11月。まだ2年足らずの新参のシリーズだが、山田順編集長の意気は高い(別掲・インタビュー参照)。想定読者と して、30代、40代の勝ち組みビジネスマンと定義。しかも都市在住者で、海外経験があり、異文化、英語に興味を持っている、好奇心旺盛な読者と明確化し ている。はじめから、狙いを定めているので、何十万人のマス(大衆)に向けたベストセラーはもともとも狙ってはいない。

  とはいうものの、このところ、このシリーズは“当たり”が出てきた。創刊2年目のシリーズとしては大健闘といえる活躍ぶりである。

   最近各方面で話題となっている『内側から見た富士通』(城繁幸)は、今年7月の発売ですでに21万部に達し、さらに重版が続いているのをはじめ、今年5 月に刊行した『新円切賛』(藤井厳喜)は5万8000部、そのほか、今年3月に刊行した『なぜ安アパートに住んでポルシェに乗るのか』(辰巳渚)、9月発 売の『日産を甦らせた英語』(安達洋)、『101人の起業物語』(竹間忠夫&大宮知信)などが重版を繰り返している。さらに、日本の政・官・業の癒着がヤ クザに汚染されていることを構造的に明らかにした『ヤクザ・リセッション』のベンジャミン・フルフォードの一連の著作は合計で20万部を突破している。

  「メディアの役割は、メッセージ性を強く出すことと公共の利益の追求」と語る山田編集長の構想が次第に成果を上げつつある。

 

出版新領域の開発に挑戦する光文社ペーパーバックス

――このペーパーバックスは装丁・体裁がシンプル、中味も横組み・英語入りと変わっていますね。こういう装丁・体裁を考えた理由は。

   「出版界は1996年から1000億円ずつ滅っている市場です。こんな時、何か新しいことをやっていかないと立て直していくことはできないし、実際に時 代から少しずつズレてきているのではないのか。わが社でいえば、カッパブックスという古いブランドが元気がなくなっている。そんな中でわが社では新書に挑 戦した。しかし新書は20社くらいが進出して、かなりの激戦です。それに対し、このシリーズは新書とは違うコンセプトで立ち上げました。それについては後 程触れます。

   ジャケットの問題ですが、かねてから僕は日本の書籍が不満だった。ハードカバー本ではジャケットがあり帯がついてくる。しかしこれは無駄ではないのか。求めて いるのは、この中に盛られた情報、知識、教養です。ブツを買っているわけではない。その原点に立ち返り、できるだけスリム化し、それらは外すしかないとい う結論になりました。それが第一点。そこまでやるなら、資源の無駄遣いをやめ、再生紙を使うことにしました。この用紙は決していいものではありませんが、 これにより読者のためにもコストが下げられます」

――もう1つの特徴は横組みですね。

  「常々、私は横組みの本を作りたかった。そこまで思い切った本はまだありません(個別にはあるが、シリーズとしては珍しい)。本は縦に書くという概念が強 く、新聞も縦です。しかし、一般の方々の生活を見ると、ほとんどの人が横書きをしています。学生は横書きのレポートを書いている。日本語の作文以外はどん なレポートでも横書きです。僕らがやり取りするメールも横書き、企業内の文書も全部横書きです。それにもかかわらず、本だけ縦というのは利便性からみても おかしい。

  編集現場でずっと思っていたこと は、作家とのやり取りはメールなどの横書きなのに、縦に組まなければならない。それに伴う煩わしさから逃れたいということもありました。僕の場合、縦の文 章を読んでいると疲れるということもあります。そこで、思い切って横書きにしようとしたのですが、8割方反対されましたね。帯に関してはそれほどでもな かったのですが、横書きについては文化的影響が強いためか、誰に聞いても日本語とはそういうものではないという返事が返ってきました。しかし、今は、中国 でも韓国でもどこも横書きです。かつて日本でも右から書いていたことがあった。帰国子女とか海外でビジネスをしている人にとって横書きは何の問題もない。 求めているのは、情報、知識、教養です」

――8割の反対でよく成立しましたね。

  「いや、僕は逆に考えました。全員が賛成するものは必ず失敗します。日本政府と同じです。抵抗が強ければ強いほど新しいもののはずです。そのマーケティング戦略に立たないと、今の時代はブレイクスルーできません。必ずその向こうに読者がいるはずです」

――1つ1つのポイントは文中に主要語彙の英語を入れたことですね。

   「このことは物凄い批判があります。読みづらいとか読みにくいという声があります。富士通の本に関しても、内容は敬服しましたが、英語が入っているのは いただけないと言われました。勿論、参考になったという方もいらっしゃいます。しかし、日本の読者の方は真面目なのか、大体英語も読もうとされています ね」

 

――このシリーズの読者というのは。

 

   「日本の社会も最近は二極化しているので、読者は勝ち組みの方々に絞りました。会社帰りに上司の悪口を言って、家でビール飲んで巨人戦を見ている、そん な読者は無視しました。都市在住で、海外経験があり、勝ち組み企業に勤め、第一線でばりばり仕事をしている方々をコア・ターゲットにしています。ですか ら、ベストセラー狙いで作っている訳ではありません。最も大事なお客さんに対して必要な商品を出すという、セグメンテーションしたマーケティングのやり方 で立ち上げています」

 

――このシリーズが目指している基本概念は。

   「日本の出版は戦術ばかりで戦略がない。理念もない。メディアの役割はメッセージ性を強く出すことと公共の利益の追求、言い換えるならマルチ・カルチュ ラリズム(多文化主義)を基本に置いた共有財を作ることです。日本は出版でもビジネスでも、ちょっとした変化ばかりを追ってきた。ある著者がベストセラー を出したら、別の版元が次の本をお願いにいく。オリジナリティーも何もない。2匹目3匹目ばかり狙っていたら、全体が沈没するだけ。市場はどんどん小さく なってしまう。物事は、やる以上は大差をつけて徹底的に違うものにしなければならない。こう言うと、分かって下さる方もいれば、馬鹿だという人もいます」

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              「旬の人」

              『日本経済新聞』(2004年11月1日)

 

装丁・ターゲットの「常識」破る

   活字離れ、新古書店の拡大、蔵書意欲の減退――。出版販売額の低迷として挙がる理由を「編集者側の言い訳にすぎない」と一刀両断する人がいる。光文社 (東京・文京区)の山田順さん(51)。『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』をはじめヒット作が並ぶ光文社ペーパーバックスの編集長だ。

  2002年に創冊しこれまでに合計45タイトルを世に送り出した同シリーズは、いくつかの「本の常識」を破った。まず外装。美しいジャケットやキャッチコピーを添えた帯は、過剰包装とみて取り払った。環境問題に少しでも貢献するため、紙は原則再生紙を利用する。

  通常の書類、電子メール、教科書など日常生活で縦書きは少数派にすぎないと、横書きに。そして、至る所に出てくる英語。「国際的な言葉として広がっている現在、ビジネスマンには欠かせない」と言い切る。価格はいずれも1000円までに抑えた。

   ターゲットは「30~50代の“勝ち組”企業のサラリーマン」と狭い。本好きや、教養としてひもとく人も目を通し、誰もが手にするベストセラーにしたい という考えはない。このため、金融情報、情報技術の知識を蓄え、英語も使う彼らが今、必要とする現実に即した有益なテーマを選んできた。

既存の出版物は読者をとらえる努力をしていない、との分析から生み出した新たなスタイル。「ノンフィクションの世界では、いずれこの形式がスタンダードになる」。1つ1つの言葉に、強い自負心が見える。

 

 

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「冬の時代」の出版界でヒット連発

ペーパーバックス:ターゲットは30代40代ビジネスマン

         『毎日新聞』(2004年11月17日夕刊特集面「特集World」

 

 

        「出版界は冬の時代」というフレーズは業界の決まり文句。

   「ハリー・ポッター」でさえ失速気味の昨今、ヒット作を連発するのは至難だ。そんな中、売り上げ好調で異彩を放っているのがペーパーバックスだ。漫画に 始まり、今やビジネス本にも広がる。「日本では売れない」と言われたペーパーバックスに、あえて挑んだ理由は何か。ビジネス本の“仕掛け人”を訪ねた。【大森泰貴】

 

●差別化

  まずは見た目。カバー・帯なし、横組みでタイトルを表紙に大書した装丁は目を引く。手に取ってみるとまるで洋書のように軽い。再生紙のザラ紙を使っているの だ。キーワードに英語併記も専門書以外では珍しい。確かに文庫、新書・単行本と過当競争の中、外観から明らかに差別化した商品でないと売るのは難しい。

   02年11月の創刊以降、23万部の『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』(城繁幸・著)のほか、ベンジャミン・フルフォード氏の『日本がアルゼン チン・タンゴを踊る日』『泥棒国家の完成』『ヤクザ・リセッション』の3冊が計18万部、藤井厳喜氏の『新円切替』が5万8000部、藤井耕一郎氏 『NTTを殺したのは誰だ』が3万部、辰巳渚氏『なぜ安アパートに住んでポルシェに乗るのか』が2万6000部と快調な売れ行きだ。

   タイトルを見ただけでも、普通のビジネス書と切り口の違うラインアップ。雑誌の次号を待つような気持ちで、つい新刊を待ってしまう。どんな人が作ってい るのかと、東京都文京区音羽の光文社ペーパーバックス編集部を訪ねた。「特に今年は好調。イチロー選手ではないけれど、打率で4割近く行くかもしれません よ」と、その人、ダークグレーの背広の山田順編集長(51)は意気盛んだった。

   発想の原点は「今の本は過剰包装だ」という思いだ。カバーも帯も厚化粧で不必要。その分コストがかさみ、定価も上がる。豪華本を並べる愛読家は少数派、 家に書棚のない人が多い今の日本。冷蔵庫を持たない相手に冷凍食品は売れない。音楽もCDでなくインターネットからダウンロードして専用プレーヤーで聴く 時代。「音だけ買いたい」人にはCDもケースも歌詞カードも不要だ。本来、出版社が売りたい中身、情報をいちばんシンプルな形で提供するには、どこでも持 ち歩けるペーバーバックスしかない。製本コストを下げ、時間も短縮できる。その金と時間を取材など中身にかければいい――。

  「本がますます売れなくなる世の中で、薄い中身を重いハードカバーで提供するのは時代錯誤です。その逆を行く。やる以上は徹底的に違うものにしないと意味がない」と山田氏は言う。

●構造不況

   「出版指標年報」によると、書籍・雑誌の販売額は、96年の2兆6563億円をピークに年々減り続けている。03年には2兆2278億円と7年間で 4000億円以上落ち込んだ。一方で書籍の新刊点数は91年の4万2345点に対し、02年は7万4259点に増えている(出版年鑑)。雑誌は90年の 2235点が02年には3320点(同年報)。一見市場は活性化しているようだが、利幅が薄くても点数を増やして稼がないと利益が出ない厳しい状況だ。

  書店数も88年の2万8216店が02年は2万2688店に減少。売り場面積は同時期に216万8149平方メートルが368万1311平方メートルに増えた(経済産業省商業統計)。大型店進出が相次ぐ一方、「町の本屋さん」が転廃業に追い込まれているのだ。

   「少子高齢化で人口が減り、パイ自体が小さくなる。誰も出版を成長産業とは思わない。出版社もいずれ淘汰が始まるでしょう。ただ活字離れというのはうそ です。『ネットで情報が手に入るから本が売れない』と言う人がいますが、実際はネットを利用する人ほど本も読んでいる。画面で読む分も含め、活字を読む機 会はむしろ増えているんです」(山田氏)

●勝ち組

   そんな中、山田氏はターゲットを絞り込んだ。「万人向けの本を作っても駄目です。今、最も情報に飢えているのは誰か。それは勝ち組企業で頑張っている 30代、40代のビジネスマンです」。IT(情報技術)や金融・経済の知識が必要で、英語も使いこなさなくてはならない。好奇心もある。そんな第一線の人 たちに、考える材料を提供する――。「会社帰りに赤ちょうちんで上司の悪口を言い、家に帰ってビールを飲みながら巨人戦を見る人に情報が必要ですか。もし それで満足しているならいらないと思う」と山田氏の物言いはあえて偽悪的だ。読み捨てられても、頭の中に残ればそれでいいという。

   最大の特徴「横書き」には社内で異論が噴出、8割方が反対だった。しかし教科書やリポート、企業内文書、メールもみな横書きで、縦書きは本と新聞だけ。 漢字文化圏でも中国や韓国では横書きが普及し「人民日報」も横書き。「縦書きより横書きが読みやすい」という人は確実に増えた。ペーパーバックスは280 ページ内外。同じ漁の活字を縦書きにすると約400ページ。密度も横書きのほうが濃いのだ。山田氏は「この形式が今後ノンフィクションのスタンダードにな る」と断言する。

●活字文化

   ペーバーバックスと言えば「別冊宝島」のようなムックはあったし、コンビニエンスストアに並ぶ漫画ではすでに普及した形式だ。最近、講談社や小学館など が、絶版・品切れのコミックスの注文をネットで受け、1冊らでもペーパーバックス形式で印刷・販売するなどの試みも始まっている。一方、電子辞書が隆盛を 誇り、パソコンや専用リーダーで読む電子書籍の点数が徐々に増えるなど出版の形式自体が変わる予兆もみえる。

  こうした中、良質なビジネス書を安価に提供する光文社ペーパーバックスは、横組みの斬新さも相まって、文庫・新書に続く新たな本の市場を生むかもしれない。 カギは他社の参入だ。「そうなればうれしいんですが」とリアリストの山田氏は細い目を光らせながら語る。「ネットや電子書籍がいくら発達しても、活字も紙 の本も滅びないと信じています。それがなくなる時は文化が滅びる時ですから」

 

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光文社“ペーパーバックス”ヒット連発の秘訣

大切なのは本の“中味”――カバーを排除、再生紙を利用、横組・低価格

              『新文化』(2005年2月3日)

 

   2004年ベストセラーランキングビジネス書部門で1位(トーハン調べ)を獲得した『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』(24万部)をはじめ、 『ヤクザ・リセッション』(7万部)など、ヒット作を連発している光文社ペーバーバックス。昨年末に発表された『「国家破産」以後の世界』は、発売1カ月 で5万部を超す売れ行きを見せている。

本は活用するもの

  同シリーズは、ジャケットと帯を排除、本文は横組み、再生紙のザラ紙を使用、キーワードには英語併記というこれまでの本づくりの常識を覆すような斬新な試みを数多く行っている。

  「今、一般に売られている本が、現代生活にフィットしていると思いますか?」

開口一番、こう問われ、我が身を振り返ってみる。高価なハードカバーの書籍を思い切って購入→重い本を持ち歩き、満員電車の中で人にぶつかりながら読む→読み終わっても、本棚がいっぱいなので床に積み上げて置く……情けないがこれが現実だ。

「書棚のない人に本を売ることは、冷蔵庫を持っていない人に冷凍食品を売りつけるようなもの。本は飾っておくものでも、集めて楽しむものでもない。そこから情報を得、それを実際に活用できなければ、意味がありません」と山田順編集長は言う。

「本は実際に活用するもの」――光文社ペーパーバックスの原点はそこにある。

  持ち運びに優れるよう、過剰な包装は避け、軽いザラ紙を使用。1000円以下の低価格に抑え、一般的に使われている横組みを採用したことも、すべてそこに繋がっている。

  「横書きについては社内でも抵抗が強かったのですが、ビジネス文書やメールなどはほとんど横書き。縦書きなのは本と新聞ぐらい。中国や韓国でも横書きが主流です。英語併記については賛否両論ありますが、少しずつ工夫を重ねていきたい」

高度情報化社会の現代、インターネットなどで、欲しい情報が無料でいくらでも手に入る。

  「そんな時代に、ネットの情報をそのまま焼きなおしたような本や、有名作家の話をテープ起こししただけの本が立派に飾り立てられ、1000円以上で売られている。あまりにも読者をバカにしていると思いますよ」

作る側が襟糺せ

本が売れない理由に活字離れが指摘されて久しいが、ネットを見る時間も含め、むしろ活字に接する時間は増えていると山田編集長は指摘する。

「出版不況だ、マイナス成長だと言うけれど、本を作る側の情報発信力と企画力が落ちているから廃れないだけではないですか。

詐欺まがいの本に高い価格がつけられている、こういう現実を変えていかないことには、どうにもならないんじゃないかと思うんです」と手厳しい。当然のことだが、大切なのは中身。

「ネットと本の違いは何か、それは情報の信憑性であり、情報の質なわけです。中身に全精力を注ぐために、装丁などにかける時間やコストを企画や取材にかけるようにしています」

 

読者ターゲットを極端に絞る

  もう1つ、光文社ペーパーバックスで特徴的なのが、読者ターゲットを極端に絞り込んでいること。

「ベストセラーを作るつもりはない」と断言する山田編集長が想定する読者層は30代、40代のビジネスマン。しかも都市在住で、海外経験があり、勝ち組企業に勤めているというところまで限定している。「金融、英語、IT、政治など、彼らが現実的に必要な情報を提供することをいちばんに考えています。英語併記にしたのはこのため。会社帰りに赤提灯で上司の悪口を言いながらビールを飲んでいるような読者は対象にしていません」

  想定読者である10万人以上がターゲットとなるような企画は通さないようにしている。浮気はせず、あくまでもターゲットに誠実であること――光文社ペーパーバックスがコンスタントに売れる理由はここにあるのかもしれない。

  「人間は活字を通して情報を共有することで文化を築いてきました。活字を扱うものである以上、何でもいいから売って儲ければいいというのは間違っている。そこに公共性やメッセージ性がなければ意味はないんです」

富士通の成果主義の崩壊と内部腐敗を鋭く突き、ベストセラーとなった『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』などは、公共の利益を追求するという山田氏が言うところの出版本来の目的にかなった本といえるだろう。

実際、著者の城繁幸氏は、ビジネス系出版社数社にこの企画を持ち込んだが、大スポンサーである富士通を失いたくないと出版を断られたという経緯がある。

  「光文社ペーパーバックスのいちばんの存在意義はここにあると思っています。『勝ち組ビジネスマン』をターゲットにしたのは、彼らが社会全体を活性化させる存在であり、いずれ日本を動かすべき存在であると思っているからです」

カバー排除、再生紙利用、横組みと斬新な取り組みばかりが目立つが、究極に目指しているのは、メッセージを打ち出し、社会を変える原動力になること。そんなメディア本来のあるべき姿を取り戻そうとする光文社ペーパーバックスの取り組みは、出版界のルネッサンスといえるのかもしれない。      (飯島裕子)


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              「編集長に聞く」

             『フジサンケイ ビジネスアイ』(2005年4月5日)

 

狙いは「勝ち組」情報量にこだわり

  「光文社ペーパーバックス」を手に取ると、その斬新な外観に驚かされる。カバーや帯は一切なく、再生紙を使用しているため軽い。ページを開くと、本文は横書き。少しでも重要なキーワードにはすべて英語を併記。いずれも、従来の日本の書籍にはありえなかったスタイルだ。「いちばんのキーワードは“ディファレンス”ですよ」と山田順編集長はいう。

  「最近の出版界は2匹目3匹目のドジョウ狙いばかり。たとえば24社も出している新書なんか、どれを見ても同じでしょう。ほかと全然違うことをしなければ意味がないんです」

   最大の魅力は値段の安さだろう。ハードカバーの単行本にまったくひけを取らないボリュームを持ちながら、定価は1000円以下。外装にかかるコストを切 り詰めた結果だが、横書きによってページ数を減らせたことも大きい。縦書きなら400ページのボリュームが、横書きにすれば300ページ以内に収まるとい う。

  「読者が欲しいのは、“情報”。過剰包装で値段を高くするなんて読者をナメています。インターネットの情報は原則的にはタダ。そんな時代に、1600円もする本が売れるわけありませんよ」

  空前の出版不況にもかかわらず、売れ行きは好調だ。24万部売れた『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』を始め、『ヤクザ・リセッション』、『「国家破産」以後の世界』とヒット作を連発している。ただし、「ミリオンセラーを出すつもりはない」といい切る。ターゲットは30~40代のビジネスマン。しかも「勝ち組」企業に勤め、海外勤務経験あり、と極めて狭い。その条件に当てはまるのは10万人程度だ。

  「だから5万部も売れれば大成功。情報に対するニーズを持ち、明日の日本を担う勝ち組の人たちに、これからも有益な情報を提供していくつもりです」