[129]「東京国際ブックフェア」と「国際電子出版EXPO」から見えてくる電子書籍市場の未来 |
2012年 7月 07日(土曜日) 15:09 |
この時期の恒例となった「東京国際ブックフェア」(ビッグサイトで開催中)に出かけた。今回も、「国際電子出版EXPO」が同時に開催されているが、人出が多いのは圧倒的にこちら。楽天の「Kobo」発売が間近に迫り、アマゾンも「Kindle」の日本発売を開始するとあって、電子書籍市場がいよいよ立ち上がるのではというムードのなか、業界関係者でごったがえしていた。 ←人気の楽天ブース ただし、楽天のブースは「東京国際ブックフェア」会場の講談社の隣にあり、来場者は、並んで展示された「Kobo」を順番待ちで手に取って試していた。この一角だけが別格といった感じで、「Kobo」への期待感は大きいようだ。 ただ、ブックフェア全体としては盛り上がりに欠け、見るべきものはほとんどなかった。日本の出版社の展示ブースは、年々縮小し、展示物も精彩を欠いている。
「打倒アマゾン」のTシャツを講談社・野間社長から手渡された楽天・三木谷社長
フェアの初日の7月4日のパネルディスカッション「人々が求める書籍/出版に私たちはどう応えていくのか」も低調だったと、関係者から聞いた。ただ一つ、面白かったのは、講談社の野間社長が、楽天の三木谷社長に“打倒アマゾン”と書かれたTシャツを手渡したことだったという。 たしかに、この一点に、これまで日本の出版界、電子書籍の業界が苦悩してきたことが集約されている。このとき、野間社長は、楽天の電子書籍事業への参入に対して、こう述べている。 「日本の電子書籍市場の健全性という観点から歓迎したい。市場には競争が必要で、 特定の企業による独占あるいは寡占状態になってしまうと、出版や表現の自由が制限されてしまう可能性がある」
音楽産業の衰退を意識して、既存の枠組みを壊さないやり方を
一方、野間社長からエールを送られた三木谷氏は、koboの事業について、もっと積極的に発言するかと思えたが、穏やかそのものだった。まず、「既存の枠組みを壊さないやり方で進めていきたい」と述べたのだ。 三木谷氏は音楽産業がたどった道から、この教訓を得たという。日本の音楽産業は、ネット配信が普及したことで CDショップが減り、結果的に市場規模が縮小した。そこで、電子書店は、リアル書店と “Win-Win”の関係を築いていくべきだと考えているというのである。 いずれにしても、楽天の「Kobo」の発売が間近に迫り、アマゾンの「Kindle」の日本発売が決まったことで、業界には電子書籍市場がいよいよ本格的に立ち上がるのではないかという期待感がある。アマゾンに先手を打ったかたちの楽天は、日本の出版人としては頼もしい国内パートナーだからだ。 しかし、遅れてやってきた、楽天とアマゾンが、本当に日本の電子書籍市場をつくるかどうかは、まだ未知数だ。すべては、「Kobo」と「Kindle」という電子書籍専用端末が売れるかどうかにかかっている。
↑大手出版社のブースは低調、「書物復権」などという連合ブースができるのも低調なしるし
いまユーザーは フィーチャーフォンからスマホへの転換期
このブログで何度も書いているが、日本の電子書籍市場は特殊で、市場のほとんどをBL、TL中心の“ケータイコミック”が占めている。これまで、一般書籍の電子市場はほとんど確立されてこなかった。これが確立されるのは、なんといってもアメリカのように、電子書籍専用端末が普及することが必要だ。 しかし、いま若いユーザーの間で起こっているのは、フィーチャーフォンからスマホへの転換だ。若いユーザーはスマホ1台ですべて済ませる傾向にあるうえ、もう1台デジタル端末を買う余裕がない。だから、「いくら価格が下がったとはいえ、はたして電子書籍専用端末を買うだろうか?」と、疑問視する声も強いのだ。楽天の「Kobo」は7980円と激安だ。しかし、それだけで売れるとは考えにくいのである。
↑ 左から凸版印刷、パピレス、大日本「honto」の各ブース、どこもプレゼン会は活気があった
日本の電子書籍市場は前年比なんと3.2%のマイナス成長
こうしたなか、インプレスR&Dシンクタンク部門「インターネットメディア総合研究所」から、電子書籍の市場規模レポートが出た。このレポートは同社が主要な電子書籍関連事業者へのヒアリング調査やアンケート、ユーザーへのアンケートなどを基に分析したものだが、それによると、2011年度の電子書籍市場規模は629億円(推計値)。2010年度が650億円だったため、 なんと3.2%のマイナス成長となったのである。 これは、電子書籍市場では初めてのことで、日本ではアメリカのように電子書籍市場が成長しないことを端的に表している。 日本の電子書籍市場が成長しないのは、前述したように、市場のほとんどが“ケータイコミック”市場で、それがすでにピークに達したからだ。事実、ケータイコミックは、2011年度も電子書籍市場全体の約76%を占める480億円市場となっている。ただし、前年度比で16%マイナスであり、このことが、2011年度の電子書籍市場のマイナス成長の最大の原因だ。 このケータイコミックの落ち込みを、スマートフォンやタブレット向けの電子書籍市場がカバーしていれば、マイナス成長はなかった。しかし、こちらは2010年度の24億円から363%増となる112億円へと急拡大を遂げたものの、まだ発展途上。ガラケー(フィーチャーフォン)からスマホへの転換がうまく行っていないケータイコミック市場を補完できなかった。
電子書籍元年から2年がすぎたが、まだ先は見通せない
それでも、この報告書は、2012年度の市場規模を713億円と予想、ケータイ向け電子書籍市場とスマートフォンやタブレット向けの電子書籍市場が逆転するのは2013年と予測している。さらにこれらのデータを基に、2016年の市場規模も推計しているが、なんと、その規模は2011年度比で3.1倍の2000億円。 本当に、あと3年でこんなことになるだろうか? まず言えるのは、ケータイコミックの売上の主力であるBLやTLは、スマホの主力「iPhone」では審査にとおらず、同じ規模の市場が形成されないだろうということ。続いて、専用端末も、廉価な「Kobo」「Kindle」が登場したとはいえ、電子書店のタイトル数が少なければ、それほど売れないだろうと思える。公的資金を引っ張って電子化を進める「出版デジタル機構」もスタートしているが、ここでは過去本のデジタル化は進んでも、ビジネスとしての電子書籍市場をつくる力はない。 こう見ると、日本の電子書籍の将来は、まだまだ見通せない。電子書籍元年と言われた2010年から2年以上がたち、ようやく、本当の元年がやってきたようにも思えるが、またしても先送りされる可能性もある。いずれにせよ、楽天とアマゾンの参入によって、すべてのプレーヤ―が出そろったので、今後はどこが市場を取るのか? それを見ながら、コンテンツの提供側もユーザーも考えるしかない。
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