[154] トーハンと日販が始めたリアル書店での電子書籍販売が大不振 |
2013年 3月 30日(土曜日) 22:31 |
現在、電子書籍業界は、アマゾン、アップルの外国勢と、ソニー、楽天、大日本印刷、凸版印刷などの国内勢との乱戦状態にある。ここに遅れて参戦したことも不振の原因だが、もう一つ、この2社のビジネスモデル自体も不振の原因だ。 そのビジネスモデルとは、「リアル書店の店頭で電子書籍を販売する」というもの。 日本の出版流通はこの2社で約90%のシェアがあるだけに、リアル書店との共存共栄をはからなければならない。そのために考えられたのが、このビジネスモデルだ。
■店頭に紙書籍と電子書籍注文カードが同時陳列
では、その仕組みはどうなっているのだろうか? 現在、日販では、「書店店頭販売フェア」を4月中旬までの予定で開催中だが、ユーザーは次のような流れで、電子書籍を購入する 1、書店の店頭に設置された電子書籍コーナーに、電子化されている書籍と電子書籍注文カードが陳列されているので、そこからお気に入りの書籍の電子書籍注文カードを選ぶ。2、電子書籍注文カードをレジに持っていき、現金かクレジットカードで支払い、販売カード(引換券)を受け取る。この販売カードには、電子書籍のダウンロードコードが記載されている。 4、ダウンロード用画面に、販売カードに記載されているダウンロードコードを入力すると、購入した電子書籍の表紙が書棚に表示される。これをタップすると電子書籍が自動的ダウンロードされ、読むことができる。
■販売カードを購入してくれたお客さんは一桁 日販はこれまで主に絵本出版社と連携し独自の電子書籍を、アップルの「iOS」向けアプリとして販売してきた。今回のフェアはそれを実用書、写真集などに広げるための布石として行われている。 しかし、点数(品ぞろえ)が圧倒的に少ないので、購入者はほとんどいない。 未来屋書店、有隣堂、リブロなどでこのフェアは行われているが、足を運んでみると、顧客は店頭のコーナーを見向きもせずに店内の書棚に直行していた。 「正直言ってまったく反応がありません。この1カ月、販売カードを購入してくれたお客さんは一桁。ほかの店ではゼロというところもあります」と、ある大手書店チェーンの関係者。 さらに、この関係者は、「フェアのためにシステムを整えたりしましたが、それはみなこちらの負担でしたので、正直、がっかりしています」と、肩を落とす。
■ソフトバンクとメディアドゥ組んだトーハン
一方のトーハンの購入の仕組みも、日販とほぼ同じ。日販より早く、昨年の12月22日から、全国の1500店のリアル書店で、電子書籍の店頭販売ができるシステム「c-shelf(シーシェルフ)」の稼働を開始した。 ただ、トーハンが日販と違うのは、ソフトバンクとメディアドゥ組んだことだ。つまり、ユーザーは、店頭で購入カードを買って引換券をもらい、これでソフトバンクの電子書籍販売ストア「スマートブックストア」から電子書籍をダウンロードする。この「スマートブックおストア」も電子書籍ストアとしては後発だが、それでも約4万点のタイトルをそろえている。「それでも、日販と同じく、ほとんど売れていません。そもそも、ソフトバンクやメディアドゥと組むこと自体が、大きく出遅れていて、そこに無理がある」 と、取次業界関係者。
■最後発組が仕方なく手を組んだだけ
では、なぜ、トーハンはソフトバンクとメディアドゥの2社と組んだのだろうか? 「最後発だから、組む相手がそこしかなかったということでしょう。書店との連携というモデルは苦肉の選択ですが、大日本印刷はすでに丸善やジュンク堂を傘下に入れている。凸版印刷は三省堂と業務提携している。また、主な電子書籍ストアはすでに事業を展開していますからね」と、先の取次関係者。 ソフトバンクは、電子書籍事業に関しては、同じ通信キャリアのドコモやKDDIに大きく出遅れていた。つまり、出遅れた者同士が提携したというわけだ。 また、メディアドゥというのは、出版社や電子書籍ストア向けに電子書籍の売上などの集計を請け負ってきた会社だが、トーハンにその機能がなかったから組んだにすぎないという。
■リアル店舗とネットを連携させても相乗効果はない
リアル書店を活性化しないかぎり、取次会社は生き残れない。それで、トーハンと日販はリアル書店の店頭での販売というビジネスモデルをつくった。リアル店舗とネットを連携させて相乗効果を狙うモデルは、たとえば、コンビニのローソンなどで始まっている。 しかし、だからといって、電子書籍ビジネスに、このモデルが成立するとは限らない。 ユーザーは、紙の本を買うためにリアル書店に足を運ぶ。電子書籍を買うなら、わざわざリアル書店に足を運ぶ必要はない。 「しかも、買えるのは販売カードだけで、それを受け取ってから、今度は自分の端末にコードを打ち込まなければなりません。こんな面倒なことする人がいますかね?」 と、私の周囲の出版関係者も口をそろえる。 トーハンと日販のこのビジネスモデルでは、書店は、電子書籍をユーザーが選択した場合は15~20%のマージンが得られる。これは紙書籍を売った場合と変わらない。また、トーハンのモデルの場合、会員登録した利用者が「スマートブックストア」で電子書籍を購入した場合5%のロイヤルティが入ってくる。 しかし、価格が紙書籍に比べて安く設定しなければ売れない電子書籍の場合、この程度のマージンでは、とてもビジネスにならないだろう。しかも、書店で電子書籍を販促すればするほど、書店に足を運ぶ人間は減るはずだ。電子書籍はネット検索で買うコンテンツであり、紙書籍とは違うコンテンツである。 |
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