[156] タックスヘイブンの調査報道に世界中の企業と富裕層が戦々恐々 |
2013年 4月 18日(木曜日) 02:50 |
それは、この4月から、アメリカの非営利の調査報道団体CIR(Center for Investigative Reporting)の国際報道部門ICIJ(The International Consortium of Investigative Journalists)による「タックスヘイブン調査報道」が次々と公開され出したからだ。 日本でも、『朝日新聞』が4月5日に大きく紙面を割いて、「金持ち天国 タックスへイブン」という見出しで、その内容を報道した。また、4月7日の『ワシントン・ポスト』が、紙面を大々的に割いて報道。さらに、イギリスの『ガーディアン』『BBC』、フランスの『ルモンド』などの有力メディアも、同じような内容の報道をいっせいに始め出した。 しかも、これはまだ序の口だ。ICIJでは、タックスヘイブン関連の膨大な秘密ファイルを入手し、その分析を1年前からスタートさせてきたからだ。
秘密ファイルの量は、なんと260Gバイトと巨大
『ワシントン・ポスト』によると、この秘密ファイルはオーストラリアの調査報道ジャーナリストジェラルド・ライル氏(現在はICIJのディレクター)が取材過程で入手したもので、 英領バージン諸島などに設立されたペーパーカンパニーにおける取引内容などが大量に収められているという。ファイルの作成元は、タックスヘイブンでの会社設立などを代行する、ある専門業者。ファイルには、資金の動き、登記の日付、企業の株主や役員などが克明に記載されているという。 記録されているペーパーカンパニー数は、なんと12万社超。ファイル量は、なんと260Gバイトと巨大。 ファイル量があまりにも巨大なため、当初、分析するには数年を要すとされ、ICIJだけでは手に負えない。そこで、ICIJでは世界中の報道機関や記者と協力して分析・取材することを呼びかけ、現在、46カ国、86人の記者が参加している。朝日新聞も、このプロジェクトに参加したというわけだ。 現在、この国際協力プロジェクトの最初の成果は、ICIJのサイトにアップされている。そこには、秘密ファイルに記録されている政治家、独裁者、経営者、あるいはその親族の顔写真が掲載されている。 ・Piercing the secrecy of offshore tax havens(Washington Post) 東北電力、丸紅など、日本企業の名も次々に
4月5日の朝日記事では、この秘密ファイルにオリンパス事件の関係者が記録されていると紹介、さらに、9日の記事では、東北電力がタックスヘイブンの取引に関与していたことを暴露した。 東北電力は商社の丸紅と組んで、タックスヘイブンに置いた子会社を通じてオーストラリアの発電事業に出資していたという。朝日記事によると、東北電力は、2002年に「トーホク・パワー・インベストメント・カンパニー(TPIC)」という子会社をオランダに設立。東北電力は、この子会社を通じてタックスヘイブンであるマレーシア・ラブアン島に丸紅が所有する別の投資子会社に30億円を出資し、オーストラリア・クインズランド州のミルメランで展開される発電事業に参画したという。 出資した30億円は日本の利用者から集めた電気料金がもとになっている。朝日新聞は、東北電力に対し、「発電事業での配当収入があったのか、これまでに課税実績はあるのか、利益を日本に還元するのか」などを問い合わせたが、東北電力は「コメントしない」と回答したという。 このほかにも、石油資源開発、三菱商事などの取引も暴露されている。
世界には少なくとも50カ所のタックスヘイブンが存在する 現在、タックスヘイブンにある金融資産の総額は少なくとも21兆ドル(約2000兆円)あるという。これは、日本のGDPの4年分。今回のアベノミクスで日銀が拡大するというマネタリーベース270兆円の約8倍である。これらは、世界の有力企業、政治家、富豪、有名人、そして地下組織などが、貯め込んだ資産で、これまで、明らかにされたことはほとんどない。 タックスヘイブンを「非居住者の資産の隠し場所」とするなら、現在、世界には少なくとも50カ所のタックスヘイブンが存在する。そして、そこに存在するペーパーカンパニーの数は200万社を超えるとされている。だから、ICIJが握った12万社は20分の1にすぎないが、それでも、すべて公開されれば衝撃度は大きい。 たとえば、今回、ICIJが公開したファイルには、フィリピンの故・マルコス大統領の長女。モンゴル国会の副議長で元財務大臣のサンガジャブ・バヤルツォグト氏。ロシアのシュワロフ第1副首相の妻などの有名人がいて、いずれも必死になってジャーナリストの追及を逃れようとしている。 ・Who Uses the Offshore World(ICIJ)
一つのビルになんと1万8000社が存在している
さて、このICIJの「タックスヘイブン調査報道」は、現在、世界で進む貧富の二極化、各国の財政赤字の膨張という流れに、見事に符合している。「金持ちからもっと税金を取れ」というのは、アメリカでも、この日本でも、国民の支持を受けやすし、政治家たちにとっては票になるいちばん簡単な政策だからだ。 たとえば、イギリスのデビッド・キャメロン首相は、企業の税金逃れへの対策をG8の議題のトップに掲げるように主張している。また、アメリカのオバマ大統領も富裕層課税の強化に熱心だ。すでに、アメリカでは、「外国口座税務コンプライアンス法」(FATCA)が議会で成立しており、これは、外国の金融機関に対して、米国人顧客に関する情報の開示を義務付けるものだ。 オバマ大統領は、タックヘイブンの監視強化を訴えるとき、よくケイマンにある「ウグランドハウス」というビルの名前を挙げる。ここには、なんと約1万8000社のペーパーカンパニーが公式に登記されている。
じつはイギリス、アメリカ自身がタックスヘイブン
しかし、じつは英米の資本主義にとって、タックスヘイブンは歴史的になくてはならない存在だ。この問題を突き詰めると、タックスヘイブンに向けた矢は自分たちの喉元に返ってきてしまうからだ。ロンドンのシティも、じつはタックスヘイブンである。非居住者の本国での税金逃れによって、いまでも国際金融センターの地位を維持している。イギリスにも無数のペーパーカンパニーが存在する。 また、アメリカの小さな州、人口が100万人に満たないデラウェア州には、94万5000社の企業が存在し、その多くがペーパーカンパニーである。 いずれにせよ、ICIJの秘密ファイルの暴露がどこまで進むのか? 今後、秘密を持っている世界中の企業と富裕層にとって、戦々恐々の日々は続く。しかし、すべてが暴露されることはないだろう。そんなことになったら、資本主義自体がつぶれてしまう。 |
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