[160]アベノミクスは本当に危ない! 政府に巨大債務があるかぎり経済成長は不可能 |
2013年 5月 04日(土曜日) 03:08 |
アベノミクスは「第三の矢」が生命線だから、それがないとなると大変なことになる。なにしろ、この先には増税メニューが目白押しなのだ。インフレに増税のダブルパンチで、私たちの生活はどうなるかわからない。 そこで、アベノミクスがいかに危険で、日本が抱える根本問題を解決しようとしていなかを、正攻法で考えてみたい。
アベノミクスを批判するのは「非国民」なのか?
最近、「なぜあなたはアベノミクスの悲観的なのか?」「せっかく円安、株高になったのに水を差すようなことを言うのか?」というメールが来る。さらに、「悲観論を煽るな、バカ」「おマエの書くことはクズだ」というメールまで来るようになった。 いまやアベノミクスを批判すると、非国民のように言われる嫌なムードになっている。 日本人なら誰もが、日本経済の復活を望んでいる。悲観論者と言われるこの私だって、できるものならアベノミクスが成功してほしい。しかし、冷静に現実を見据えれば、アベノミクスだけで日本経済が復活するなんてことはありえない。むしろ、財政悪化による高インフレ、超円安で、どん底に落ちる可能性のほうが高いからだ。現在のムードは、太平洋戦争のときと似ている。負けると確信していても、それを口に出してはいけない。 日本では、一度ある空気が醸成されると、その空気を壊す者は「村八分」にされるからだ。 たとえその政策が間違っていても、「危険だ」と言ってはいけないのだ。しかし、いまは戦時中ではない。負けると確信するなら、その根拠を示して、語るべきだ。
今回のアベノミクスも根本問題に切り込んでいない
アベノミクスは一種のストーリーである。現在、株価が上がり円安が進んでいるから、この先、給料も上がり、企業の設備投資も消費も活発化し日本経済が復活するというストーリーになっている。しかし、このストーリーを本当に信じている人がどれだけいるだろうか? 残念ながら、私は信じられない。アベノミクスが始まるはるか以前から、日本復活のどんなストーリーも信じてこなかったから、今回だけ信じろと言われても無理なのである。 では、なぜ私は、日本復活のどんなストーリーも信じてこなかったのか? それは、今日まで日本を20年以上にわたって覆ってきた閉塞感を、根本的に解消するようなことが1度も起こらなかったからだ。 日本を覆う閉塞感。それをもっと具体的に言うと、「なぜいくら働いても給料は増えないのか?」「いくらがんばっても幸せになれないのか?」ということになる。 これまでの「失われた20年間」の間に、日本復活の処方箋は山のように提案された。しかし、そのどれもが、根本原因に切り込んでいなかった。今回のアベノミクスもまったく同じに思えるのだ。 日本を覆う閉塞感の根本原因とは、日本政府が積み上げてしまった巨大な債務である。これがあるから、私たちはいくら頑張っても豊かになれず、未来に希望も持てないのだ。したがって、この根本原因を解消しないかぎり、未来は開けない。 それでは先の批判メールへの答えにもなるので、このことを、以下、あくまで平たく、専門的にならずに、述べていきたい。 (以下の内容は「Yahooニュース個人」に書いた記事「なぜ日本人はいくら働いても幸せになれないのか? アベノミクスは根本問題を解決しない!」をアレンジ加筆したものです)
国家でさえ民間企業や家庭と同じように破産する
まず、よく考えていただきたい。なぜ、日本は今日までGDP比で2倍以上という、世界のどの国でもありえない約1000兆円もの巨大債務を積み上げることができたのだろうか?と……。 その答えは、誰も「返せ!」と言わないからだ。 もし、これが民間の債務なら、債権者は疑心暗鬼になって、どこかで必ず催促しているはずだ。借金というものは返済を前提に成り立っている。だから、貸し手は借り手の状況を見極めて、お金を貸す。「貸し倒れ」にならないように、相手の返済能力を見極め、踏み倒されるリスクを評価したうえで、相応の金利を付けて貸し出す。 しかし、借り手が政府となると、現在の金融システムでは貸し倒れはありえないという設定になっている。 この世界には、政府、つまり国家権力以上の権力はあり得ないので、政府の借金はリスクゼロということになっている。したがって政府の借用証である国債は「リスクフリー債権」となっている。 では、この設定は間違いないのだろうか? そうではない。ギリシャやアルゼンチンを見れば明らかなように、国家も借金を踏み倒すのだ。国家でさえ民間企業や家庭と同じように破産するからだ。
日本国債が「最強」とされるカラクリ
しかし、日本はなぜか破産しないことになっている。これまで、さんざん財政破綻が警告されたにもかかわらず、その兆候さえない。だから、財政破綻を言うと、最近では異端者扱いされ、リフレ派と言われる人々やその支持者から総攻撃にあう。「国家破産はありえない」というような、信じ難き本を書く人間も出てくる。 その根拠は、「日本政府は国内から借金している。ギリシャのように海外から借りているわけではない」というのだ。事実そのとおり日本は海外からはほとんど借りていない。しかし、国内だろうと国外だろうと、債権者がいて返済を催促され、その原資がないとわかれば破綻するのだ。そうでなければ、資本主義は成り立たない。 いまのところ日本国債は「最強」ということになっている。なにしろ、世界のどの国の国債より金利が低い。いくら発行しても、低金利で安定的に消化されている。 しかし、本当に最強なのだろうか? 日本国債が「最強」と思われているのは、じつは、本当の貸し手である国民と企業が返済を請求できないところにある。
国債の「本当の債権者」は国民自身というジレンマ
現在、日本国債はその9割以上が、日本国内で消化され、その保有者は主に銀行と保険会社である。銀行のうちゆうちょ銀行はとくに保有比率が高く約170兆円 の預金残高のうち、8割以上約140兆円が国債だ。メガバンク3行も預金のうち、3割~4割が国債だ。三菱UFJFG約45兆円、みずほFG約30兆円、三井住友FG26兆円といずれも巨額である。 このように国債の保有者は、名目上は金融機関である。しかし、その購入資金は家計や企業が金融機関に預けた金融資産なのだから、本当の債権者は国民自身である。つまり、日本政府は、国民自身からお金を借りているのだ。 それでは、日本政府はこの借金を返すのだろうか? れっきとした借金である以上、返すのが当然だが、その原資はなんと税金である。政府には徴税権があり、これが国債の担保になっている。 ということは、本当の債権者である国民は、債権の権利を行使して取り立てを行うと、自分自身の首を絞めることになる。これでは、取り立てができるわけがない。 アダム・スミスは「国債は税金手形だ」と言っている。どちらも政府が民間にあるお金を吸い上げるのだから、本質的に同じなのだ。
肌感覚「政府は巨大債務を返せない」が成長を阻んでいる
このことを多くの国民はうすうす気がついていると思う。しかし、これを認めると自分で負担しなければならないので、知らないふりをするしかない。もちろん、この構造をまったく知らない国民もいるだろう。 ただ、いずれにせよ、この国が閉塞感におおわれ、将来不安が増していることは、肌感覚でわかっているはずだ。この肌感覚、「おそらく政府は巨大債務を返せない」が、日本の成長を阻んでいるのだ。
民間の借金と政府の借金の大きな違いとはなにか?
それでは、ここで、政府債務と民間債務を比較してみよう。 民間債務は前記したように貸し倒れリスクがある。したがって、貸し手は常に借り手を監視する。だから、借り手は必死に働き、金利を払う。事業者なら自身の事業に専心し、なんとか早く返済しようとする。これによって、お金は世の中を巡り、取引は活発化し、経済も回るし、成長もある。 しかし、政府はこのような努力をする必要がない。必死になって返さなくとも、理論的に徴税権を行使すればいいし、金融機関は残高がある限り、政府の言うことを聞いて国債を買うしかないからだ。 これで、はたして政府が本当に仕事をするだろうか? 国債で吸い上げたお金をばらまくだけで、本当に儲けて返そうとするだろうか? バブル崩壊以後、国債発行によるばらまきが行われてもいっこうに景気が浮揚しなかったのは、ここに原因があるからだ。 しかも、この状況が20年以上も長く続いてしまっている。これでは、アベノミクスがいくら異次元金融緩和しても、資金は株や土地などの資産バブルを起こすだけで、景気を浮揚させるはずがない。 自国民から借金するということは、このような放漫財政を招くだけなのだ。これなら、海外から借金したほうが、返済できなければ国際的な信用を失うというリスクがある分まだましだと言えよう。
国債の大量発行ができたのはデフレ下で超低金利が続いたから
それでは、なぜ、こんな状況なのに、放漫財政は続き、あげくの果てにアベノミクスのような異常な政策が打ち出されたのだろうか? うがった見方をすれば、これでインフレにして、政府債務を減らしてしまおうと考えたからとも言える。もちろん、リフレ派が本気でこれで景気回復できると信じたこともあるだろう。しかし、どうみても、この目論見は成功確率が極めて低い。なぜなら、財政再建とセットでないからだ。少しも借金を返す姿勢を見せなければ、市場の反乱にあう。 これまで、政府が大量の国債消化(つまり借金)を続けられたのは、デフレの下で金利が異常に低かったからだ。しかし、インフレになり、そのインフレ率が2%などというマイルドなものでなくなれば、国債価格が大きく下落する。 金利が上昇して、国債価格が下落すれば、当然金融機関には損失が発生する。実際に決算毎に損失計上をする必要があるかどうかは、国債の保有区分にもよるが、損失が表面化しようがしまいが、資産が劣化するのは同じことだ。4月17日の出た「日銀レポート」によると、銀行の損出額は金利1%の上昇で6.6兆円となっている。 これでは、数%の金利上昇で、金融機関はほとんど倒産してしまう。
国債の大量発行ができたのはデフレ下で超低金利が続いたから
ここ数年、メガバンクはリスク回避のため、国債の平均残存期間の短期化を進めてきた。長期債を離し、短期債に切り替えることを積極的に行ってきた。しかし、地銀と生保はまだ大量に長期債を抱えている。 GW前の4月24日の日経新聞の「金融ニッポン」の記事に、次のような記述があった。 《「長めの国債はすべて売り切った」。日銀が金融緩和に踏み切った翌日の今月5日、横浜銀行頭取の寺沢辰磨(66)は横浜市内で開いたアナリスト説明会で、満期までの残存期間が5年以上の国債を売却し、売買益を確保したことを明かした。》
また、4月25日、生命保険9社の2013年度の資産運用計画が出そろったが、国債中心から外債での運用を増加し、その合計で1兆円に迫ると発表された。すでに日本の金融機関は、国債暴落リスクを念頭に置いて行動しだしたのである。 アベノミクスはデフレ下の低金利だからこそ続けられた国債発行による借金財政を、破壊してしまう可能性が強い。なにより、成長戦略がなければシナリオは崩れる。今後、日銀は国債を大量に抱えることになる。期待通りインフレになり、そのインフレが限度を超えそうになったら、この国債を売却してインフレを落ちつける必要がある。これが出口戦略である。 しかし、そのとき国債の買い手はいないだろう。いるとしたら、投機目的のヘッジファンドぐらいだ。
現在行われているのは「危ない」「大丈夫」の心理ゲーム
アベノミクスは、これまで続いてきた日本国の債権・債務の関係のバランスを、すでに崩し始めている。 すでに、わが国のバランスシートは債務超過に陥っている。日本政府は十分な資産を持っているというが、それは売れない米国債や、資産価値がない公共物(道路や橋、政府関連施設)や土地だ。もし、政府が国有地を大量に売りだせば、地価は大暴落するのだから、売れるはずがない。この点で、「資産があるから大丈夫」と言っている人間は、帳簿だけしか見ていない。 このように見てくると、これが民間企業、家庭なら、もうお金を貸すところなどあり得ないのだ。それなのに、金融機関はいまだに国債の応札に応じているのだろうか? それは様子見ということもあるが、現状では、ほかにポジションの取りようがないからだ。 それからもう一つ、現状では、まだ国民の半数以上が国家が潰れることなどあり得ないと考えていると判断しているからだろう。 じつは、こうした心理的要因のほうが、現実問題より大きいから、これまで政府は借金を続けられたとも言えるのだ。国家が潰れたら、金融機関どころではない、国民も共倒れだ。だから、いくら借金漬けでも貸し込む(「追い貸し」)しかなく、それで危機を先送りしてきたとしか言いようがない。 国民が日本経済はまだまだ生産力と技術力を保持し、絶えず富を生み出せると信じ、懸命に努力するなら、先送りはもう少し可能だろう。しかし、それでも債務がこれほど大きいと限界は必ずやってくる。現在の心理ゲームが崩れるときがくる。それをアベノミクスは早めてしまった。
同じ巨大債務国アメリカと日本の決定的な違い
ここで、それなら同じような巨大債務を抱えるアメリカはどうなんだ?という見方もあるだろう。現在のアメリカは、財政と貿易という巨大な「双子の赤字」を抱えたうえに、リーマンショック後に大胆な金融緩和(QE1、QE2、QE3)を3回も行っている。しかも、アメリカの赤字の穴埋めは海外からの資金供給だ。日本をはじめ世界中がアメリカ国債を買い、事実上の「追い貸し」を行っている。だから、この点でいうと、海外からカネを借りていない分だけ、日本のほうがましではないかというのだ。 しかし、ここで誤解をしてはいけない。アメリカより日本のほうがよほど危ないのである。というのは、アメリカには日本にない世界覇権がある。豊富な資源も世界最大の軍事力もある。つまり、いざとなれば軍事力を使って戦争を起こせるし、いくらでも追い貸しを迫れる。さらに、なんといってもドルは基軸通貨だから、これを減価されては世界中が困るのだ。 ところが日本は、アメリカのように世界から資金を呼び込めない。借金が国内でバランスしているうちはいいが、それが崩れたら日本にお金を貸す国があるだろうか? 世界経済のプレーヤーとしてのアメリカは重要だが、日本はさして重要ではない。アメリカの倒産は世界中に巨大な損害を与えるが、日本の倒産はほとんどの債務が国内にあるだけに、超円安になって調整され、あくまで国内問題で終わるだろう。 ここであえて書いておくが、国家破産は終わりではない。日本国と日本経済は続いていくのであり、終わるのは借金をつくり過ぎた現在の官僚機構中心の日本政府である。つまり、公務委員の大幅なリストラ、政府資産の売却とともに政権が交代し、新しい政府の下で、厳しい緊縮財政が敷かれることになる。 もちろん、私たちの暮らしはいまよりずっと貧しくなる。
しなければならないのは憲法改正より「国債償還法」
アベノミクスが挫折し、現在の日本が終局を迎えるシナリオを、私は2とおり考えている。それは、心理ゲームがいっぺんに崩れるときがくるというサドンデスのシナリオと、じわじわと崩れていくスローデスのシナリオだ。 サドンデスでは、金利上昇と国債暴落がある日突然、信じられない規模で起こる。これに対してスローデスでは、それがゆるやかに進行していく。どちらも規模が大きければ、預金封鎖、財産税、デノミなどの強権手段にまで行き着く可能性がある。 日本がいましなければならないのは、憲法改正ではない。「国債償還法」をつくることだ。そうして、それが守れなければ予算の執行を止めることである。 そのうえで、国債暴落が起こらない程度の持続した経済成長を我慢強く続けること。それで、税収の安定を図ることだ。 アベノミクスのような金融・財政政策よりもこちらが優先であり、増税は最悪の選択である。だから、本来なら先に「第三の矢」が来なければならない。そのうえで国債発行を抑制し、公務員の首切りを実施して政府をスリムにし、プライマリーバランスの達成を目指さなければならない。 増税よりも減税を行い、海外からの投資を呼び込むこと。深刻な少子化による人口減を、移民導入などの政策でストップさせることも必要だろう。 アベノミクスは成功してほしいと思う。しかし、いまのままではほぼ失敗するだろう。 |
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