[179]デフレは脱却したがアベノミクスは完全に失敗しているのではないか? |
2013年 9月 03日(火曜日) 03:49 |
ということは、これだけを見れば、すでにデフレ脱却が起こっていて、アベノミクスの最初の目標は達成されたと言える。 しかし、値上がりした品目を見ていくと、その実態は、単なる「輸入インフレ」だ。値上がりした品目は、電気代、AV機器、ガス代、家電製品、自動車、旅行など、みな円安による値上がりだからだ。 さらに、最近の報道によると、輸入インフレは止まらない。日本水産は、9月から家庭用の冷凍食品26品目の出荷価格を約7~10%引き上げた、サントリーやメルシャンは輸入ワインを、キユーピーは主要ジャム製品の一部を約4~7%値上げ、明治屋もジャム14品目を約3~8%引き上げた。 このほか、家庭向け電気料金は、北海道電力、東北電力、四国電力が9月から値上がりした。この先、10月には、牛乳や清酒の値上げもあるという。
■惨憺たる状況になっている日本の自動車販売
さらに、驚くことがある。それは、景気のバロメーターとも言える自動車販売が落ち込み続けていることだ。 日本自動車販売協会連合会が9月2日に発表した8月の新車販売台数(軽自動車を除く登録車、速報)は、なんと、4カ月連続の減少を記録。1年前に比べても、6.4%減少している。 会社別では、トヨタは12.5%減少の10万1404台と10万台割れ寸前。ホンダは22.2%減少の1万8985台と2万台を下回った。かろうじて日産が3.3%増加の3万2442台と3万台をキープしただけである。 ただ、この落ち込みをなんとかカバーしたのが、軽自動車の販売。こちらは1年前に比べ7.9%増加の14万9343台だった。 ということは、いまや日本の自動車市場は、普通車は売れず、軽自動車(日本だけの様式)が主流と、完全にガラパゴス化していることになる。
■マスメディアは本当のことを伝えていない?
ところが、この惨憺たる状況をNHKニュースは、以下のように伝えている。 「先月、国内で販売された新車の台数は「エコカー補助金」が終了した影響が続いていることから、4か月連続で、前の年の同じ月の実績を下回りましたが、軽自動車の販売が好調で、減少幅は縮小しました」 これを聞くと、自動車販売は上向いてきたように感じてしまうが、実態は上記したとおりだ。アベノミクスが始まってから、このようなバイアスがかかった報道が多い。 数字が景気の悪化を示しているのに、メディアはそうは伝えないのである。
■円安・株高はアベノミクスのせいではなかった
まだまだ驚くことはある。 それは、『週刊東洋経済』(8月31日号)で、野口悠紀雄先生(早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問)が、「円安はアベノミクス前から始まっていた」と、詳細なデータを用いて実証していることだ。 これまでは、アベノミクスによって円安が起こり、それとともに株価も上昇したと思われていた。しかし、野口先生は、以下の3つのポイントで、円安・株高が起こったとしている。 (1)ユーロ危機の変化を受けて、欧州から日本の短期国債へのネット投資が、2011年7~9月期ごろに頭打ちとなった。 (2)それによって円高が是正された。それを受けて、円安に向けての積極的な投機が始まった。 (3)円安による輸出産業の利益増大が予想されるので、2012年8~9月頃から、日本株式に対する米国からの投機的投資が始まった。 そして、野口先生はこう述べている。 「ここで重要なのは、こうした国際的投機資金の流れの変化が、すでに11年下期に始まっていることだ。これは、安倍内閣が金融緩和を標榜するよりずっと前のことである。このことを見れば、円安転換が安倍内閣の経済政策の結果として生じたものではないことが明らかだ」 つまり、アベノミクスがあろうとなかろうと、国際資金の流れから円安・株高が起こった。そして、現在、この流れは、アメリカのQE3の手仕舞い観測から、終わりつつあるようだ。
■「薄商い」が続くなかPKOが株価を下支え
実際、ここのところの東京市場は、薄商いが続いている。 夏場は相場が動かないとしても、売買代金は株価が上がっていたときは優に2兆円を超えていたのに、いまは1兆5000億円がやっと。9月2日は、1兆4598億円と大幅に落ち込んでいる。 ひところ、相場を動かしていた外国人は引いてしまっていて、買っているのは、公的資金(年金資金、日銀)だけのようだ。 つまり、外国人が引いた相場を、日本政府がPKOで必死に維持しているとしか思えない状況になっている。これは、値上がり銘柄数より、値下がり銘柄数のほうが多いことに現れている。
■無能のバーナンキFRB議長の政策をパクリ
そもそも、アベノミクスの異次元金融緩和は、アメリカのQE1〜QE3(大規模金融緩和)のパクリである。リーマンショック後、FRBは傷ついた金融機関のバランスシートを救うため、ドルを刷り続けた。これを促進したのが、史上もっとも無能とされるバーナンキFRB議長だ。 バーナンキFRB議長を「無能」と言っているのは、私ではない。私には知りもしないアメリカ人が無能かどう知る術がない。しかし、敬愛する投資家ジム・ロジャーズ氏が、そう断言するのだから信じるしかない。 ジム・ロジャーズ氏の新刊『冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート――市場の英知で時代を読み解く』(神田由布子訳、ソフトバンク・クリエイティブ)には、以下のような下りがある。 「グリーンスパンは市場が自律的な修正に向かうことを拒んだ。旧友を苦境から救い出せば万人のためになる、などといった間抜けな信念を持って」(p145) ジム・ロジャーズ氏は、金融市場になにかあると、そのたびにドルを刷ったグリーンスパン前FRB議長を、まず、このように批判している。そして、その後継者を、以下のように、完全な無能者呼ばわりしている。 「2002年、連邦準備制度理事会に加わったあとにワシントンで開かれたナショナル・エコノミスト・クラブの演説で、バーナンキが自らの金融政策アプローチについて以下のような概略を述べたのは有名である。『アメリカ政府には輪転機というテクノロジーがあり、今日ではエレクトロニクス化されています。したがって、実質的にはノーコストで好きなだけドル紙幣が印刷できます。結論を申せば、紙幣制度において、断固意を決した政府は常により多くの消費を生み出し、したがって前向きなインフレをもたらすことができます』」(P146〜147)
■インフレに伴う賃金の上昇は期待薄
円安・株高がアベノミクス効果ではなく、物価上昇が単なる輸入インフレだとしたら、この先、安倍首相が言う「賃金上昇」は起こらない。インフレになるのだから、起こらないと私たちは困るが、企業が取る最初の行動は、輸入価格の上昇を賃金抑制でカバーしようすることだろう。 となると、物価の上昇に比べて賃金はそれほど上昇しない可能性のほうが強い。 アベノミクスは2%の期待インフレを目指している。そうなると、自然に景気も回復するとしている。しかし、この状況で景気が本当に回復するとは考えにくい。 実際のところ、景気は金融・財政政策で回復するのではなく、生産性の向上や、破壊的なイノベーションが起こることで回復する。 いまの日本にその兆しがあるだろうか? 英国が北海油田を掘り当てて英国病から脱出できたように、メタンハイドレードが低コストで生産できるようなマジックでも起これば、別だが……。
■「政府支出」でGDPを押し上げるしかない
こうなると、GDPを押し上げて、「景気がよくなりました」と言うためには、異次元金融緩和で得た資金を、公共事業につぎ込むしかない。政府支出はGDPにカウントされるからだ。 GDPは次のように計算される(以下の式は前回のブログでも取りあげた)。 GDP(国内総支出)=民間消費+民間投資+政府支出+純輸出(財貨・サービスの輸出-輸入) この式の右辺を見れば、「民間消費」「民間投資」「純輸出」の3つが民間部門、「政府支出」が公共部門である。ということは、民間部門がダメなのだから、公共部門を増やすしかない。つまり、政府が税金をつぎ込んで事業をすればGDPは増える。 ここで登場するのが「国土強靭化計画」である。政府はこの先10年間で200兆円を投じると言われているが、これは、旧来の自民党の土建政治とまったく同じだ。
■民間が必死にやる以外日本は回復しない
しかし、公共投資をいくらしたところで、国民は豊かにならないだろう。豊かになるのは、道路や施設だけだ。すでに、新幹線も復活した。なんと、博多と長崎間をたった13分短縮するためだけに5000億円が使われる。もちろん、こうした工事があるうちだけは雇用は維持され、それにかかわるところにはおカネが回る。しかし、これは実需でないのだから、工事が終わればそれで終わりだ。 景気回復が政府支出だけでできるなら、こんな簡単な話はない。だから、アベノミクスの本丸は、規制緩和や新産業の創出なのである。ケインズでさえ、公共投資の必要性は説いたものの、公共投資が必要なのは不況期だけで、それを毎年のように期待することは社会主義への道であると指摘していたと思う。 政府は、国民経済で生まれた富を再配分するだけで、自らは富を増やせない。いくらおカネを刷っても富は増えない。アメリカの無能な金融政策者もそれはわかっている。しかし、基軸通貨だけにやらないことにはいかず、その出口で悩みまくっているわけだ。 結局、日本を取り戻せるのは政府ではなく、私たち民間がイノベーションを起こし、必死に働く以外にないということになる。 |
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