[183] FRBの緩和縮小の見送りと東京不動産バブルの再来 |
2013年 9月 21日(土曜日) 05:31 |
バブル崩壊は次のバブルでしか穴埋めできない。しかし、次のバブルもまた崩壊する。9月18日のFRBの量的緩和縮小の見送りは、この次のバブル崩壊を恐れての措置だ。市場は緩和縮小を見込んでいたから、肩すかしを食らったかっこうになったが、それでもひと安心したのは間違いない。とりあえず、バブル崩壊が先送りされたからだ。 しかし、出口戦略は、いつかは行なわれなければならない。つまり、いずれ、株高、不動産高なんて言っていられない状況がやってくる。 リーマンショック後の金融危機に対し、ドルを刷ることで乗り切ろうとした無能なベン・バーナンキFRB議長は、やはり単なる臆病者だった。彼は今年の5月頃から、年末までに緩和縮小を始める、そして2014年半ばには債券買い入れプログラムの終了を視野に入れていると発言してきた。 そうしたら、フェデラルボンド10年物債利回りが1%超も上昇してしまい、あわてて今回、緩和縮小を先送りしてしまった。自分の任期中は、バブル崩壊を見たくないからだろう。この状況を察したローレン・サマーズ氏は、次期FRB議長をさっさと辞退してしまった。
■金を刷るしか能のないバーナンキFRB議長
バーナンキFRB議長が「ヘリコプター・ベン」と言われてきたことは、市場関係者なら誰でも知っている。危機に対しては、ともかくお金を刷ってヘリコプターでバラまけばいいとしか考えていないからだ。こうすると、不良債権をつくり出した彼のウォール街の仲間は救われるが、一般国民は救われない。なぜなら、その穴埋めは税金で成されるからだ。 かつてバーナンキFRB議長は、日本のデフレ脱却策に言及して「紙幣をどんどん刷ってヘリコプターからばら撒けばいい」などと言ったこともある。経済学者のポール・クルーグマン氏も同じようなことを言った。その口車にのせられて、アベノミクスで異次元金融緩和が始まった。この政策は、FRBの完全な物真似なのは言うまでもない。 冒険投資家ジム・ロジャーズ氏は、グリースパン、バーナンキという師弟コンビに完全に愛想が尽き、アメリカを見捨てて、シンガポールに移住した。彼の新刊『冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート――市場の英知で時代を読み解く』(神田由布子訳、ソフトバンク・クリエイティブ)には、次の一節がある。 「2002年、連邦準備制度理事会に加わったあとにワシントンで開かれたナショナル・エコノミスト・クラブの演説で、バーナンキが自らの金融政策アプローチについて以下のような概略を述べたのは有名である。 『アメリカ政府には輪転機というテクノロジーがあり、今日ではエレクトロニクス化されています。したがって、実質的にはノーコストで好きなだけドル紙幣が印刷できます。結論を申せば、紙幣制度において、断固意を決した政府は常により多くの消費を生み出し、したがって前向きなインフレをもたらすことができます』」(P146〜147)
■東京は世界不動産バブルの最終ランナー
リーマンショック後の世界同時不況から抜け出すため、世界の中央銀行はなにをしてきたか? どこもかしこもFRBの真似だ。ECBも大量にユーロを刷った。その影響で世界中にマネーが溢れかえり、その結果、株や不動産などの投機的市場では、バブルが世界規模で拡大した。 しかし、実体経済はなにも回復していないから、金融緩和を止めれば、バブルは崩壊する。それなのに、最後にこの金融緩和路線に乗り出した日本は、東京オリンピック招致というカードを引いてしまい、いま、バブルの最終ランナーになろうとしている。 この9月19日、都道府県地価調査が公表され、東京都や愛知県などで住宅地、商業地ともに5年ぶりに地価が上昇に転じたと報道された。もっとも、これは都市部だけの現象で、地方は相変わらず下落が続いている。しかし、メディアはアベノミクスと東京オリンピックで浮かれていて、そちらの状況は伝えない。そればかりか、「都心部の高級マンション人気高まる」として、都心にできたタワーマンションや高級マンションが相次いで売れていることを伝えた。 じつは、アベノミクスが始まる以前から、都心の高級マンション、とくに億を超える物件は売れていた。とくに最上階のペントハウスなどの買い手は海外の投資家で、日本人が居住目的で買っているのではなかった。調べれば、こうした物件の持ち主が、ケイマン諸島などのオフショアに籍を置く会社や中国マネーであったりするのだが、そういう話はほとんど伝えられていない。 日本の人口は、東京でも今後減少する。とすれば、需要と供給から言えば、どんな物件も値下がりする。しかし、金融緩和バブルで投機資金が不動産に投入されて、値段を上げてきた。これは、東京が一番遅いだけで、すでに、ニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポールなどで起こってきた。 そこで、以下、世界の主な都市の不動産の状況を概観してみたい。
■ロンドン(坪単価世界一の無人コンド)
ロンドンの不動産バブルを象徴するのが、坪単価世界一(約4000万円)とされる最高級コンド「ワンハイドパーク」だ。2011年に竣工したこの物件は、ナイツブリッジ地区にあり、隣はマンダリンオリエンタル・ホテル。これまで伝えられたところによると、いちばん高い部屋の価格は2億1400万米ドル(約214億円)。英『デイリーメール』によると、売り出し当時、最も価格の低い部屋は650万ドルだった。 この物件の設備などは書いても仕方ないのでやめるが、セキュリティは万全で、エレベーターは、オーナーの眼球の虹彩などを読み取って作動する方式になっている。 しかし、ここには住人がほとんどいない。英『サンデー・タイムズ』の記事によると、「夜になっても灯りがつかない。周りのビルに比べたら、ただの黒い闇だ」というほどなのだ。そこで、登記を調べた結果、76戸のうち、個人名はわずか12戸。残りは、ケイマン諸島、リヒテンシュタイン、マン島などの会社名義だったという。 ロンドンでは、都心部を中心に不動産価格はずっと右肩上がりで上がってきた。チェルシやケンジントンなどを中心にビッグベンのあるウエンストミンスターの地域では、リーマンショックの影響すらなかった。 私の知人で、地元で不動産ビジネスをやっている人間は「買っているのは、アラブ、インド、ロシア、カザフスタンの富豪たち。続いて、中国人」だと言う。 ちなみに、ロンドン以外の英国の地方都市では、不動産は下落傾向にある。
■ニューヨーク(ロシア、中東マネーが買いあさる)
2012年「10065」というZIPコードが、全米でもっとも不動産価格が高い場所になったと報道された。それは、セントラルパークの東側に位置する「34E65thSt.」で、なんと古い邸宅に4000万ドル(40億円)の値段が付けられたのだ。 ロシアの大富豪ドミトリー・リボロフレフ氏が、マンハッタンの高級コンドのペントハウスを8800万ドルというNYのコンド取引では過去最高額で購入したことも話題になった。なぜなら、名義が彼ではなく、20歳の彼の娘名義だったからだ。 極めつけがセントラルパーク西「157West57thSt.」に建設中の超高層コンド「One57」。ここをカタール首相が、ペントハウスをはじめとして何部屋かを一挙に2億5000万ドル(250億円)で購入したこと。このように、NY不動産はリーマンショックの影響をほとんど受けていない。
■サンフランシスコ、ロサンゼルス、マイアミ
リーマンショック後、郊外に買った家を手放す人が続出した西海岸だが、サンフランシスコの中心部はいまも不動産が値上がりしている。また、サンフランシスコからサンノゼに至るベイエリア(シリコンバレー)の住宅価格は、以前の住宅バブル時より15~24%も高くなっている。これらのエリアでは、不動産は売りに出すと1週間以内に買い手がつくという。 ロサンゼルスの不動産市場も活況だ。とくに高級住宅地マリブでは、リーマンショック以前の価格を超えており、豪邸が活発に取引されている。取引価格は昨年に比べて20%アップしたという。 マイアミも高級コンドから一般コンドまで、ほぼすべての不動産が値上がりしている。誰も住んでいない高級コンドの1室が数億円で取り引きされている。これは、中南米マネーとオフショア経由のマネーが流れ込んでいるためとされている。 アメリカ人は、不動産バブルが何度崩壊しても懲りない。「不動産の価値は確実に上がる」と信じて込んでいる。株価も同じだ。だから、FRBは金をばらまき、この神話を崩壊させないようにしているのだ。
■香港(バブルのソフトランディングを目指す)
香港でも、高級コンドは日本円にして軽く4、5億円(1平米400〜500万円)はする。ここ数年、賃貸の家賃も毎年20%ほど上昇してきた。ナイトフランクの世界不動産レポートによると、香港の高級不動産市場は2012 年、海外からの投資で前年比8.7 %上昇した。 これは明らかなバブルだから、今年の6月、FRBの金融緩和が縮小するとの見方が強まったことを受けて、曽俊華財政長官は、市民に不動産リスクに対する注意を呼びかけたほどだ。 香港政府は、昨年からバブルのソフトランディングに注力している。
■中国(すでにバブル崩壊)
2012年のIMFのデータによると、不動産価格がもっとも高い世界10大都市に、 中国から、北京、上海、深セン、香港、天津、広州、重慶の7都市がランクインしている。 しかも、このうちの上位5都市は、東京、ロンドン、ニューヨークの不動産価格さえも上回っている。 ニューヨークではアパートの価格が一般家庭の年収の約6.2倍だが、 北京の中心地区では同約25倍にもなるという。 これは、リーマンショック後に中国政府が総額4兆元を市場にばらまいたからだ。 しかし、すでに中国の都市不動産バブルは崩壊を始めており、シャドーバンキング問題が顕在化してからは、海外からの投資マネーは中国を離れている。
■シンガポール、マレーシア(バブルを抑制中)
シンガポールの高級コンドは、どれも1平米あたり日本円で最低100万円はする。オーチャードなど中心部の物件だと、300万円はする。つまり、すでに十分に高いくなっており、シンガポール政府は今年から印紙税を上げたりする抑止策を実施している。しかし、投資のプレーヤーの中心が中国人やアラブ人のため、まだ上昇すると見る向きもある。 現在、日本人投資家は、シンガポールよりマレーシアの不動産に向かっている。とくに人気は、イスカンダル計画が進むジョホールバルだが、最近、懸念される報道があった。それは、政府が不動産の外国人保有規制「Quota System」を厳格化する見通しが出たこと。 たとえば、コンドとサービスアパートメントは保有が50%に制限されるなどで、これが実施されると外国人投資家に売る出口戦略ができなくなるため、投資が落ち込む可能性がある。
■東京の不動産は、シンガポール、香港より安い
以上、ざっと世界の不動産状況を概観したが、どこも、緩和マネーによってバブルになっており、FRBの緩和縮小が与える影響は大きい。そこで、世界的な緩和の最後に登場した日本マネーが、今後、日本と世界の不動産に向かう可能性がある。すでに、東京はその様相を呈している。 異次元緩和に加えてオリンピック誘致まであるのだから、バブルの要素は出そろった。また現在、東京の不動産は、ここまで見てきた世界の各都市に比べると、比較的安い。 たとえば、シンガポールに不動産投資をしている外国人なら、六本木ヒルズやミッドタウンなら、「オーチャードより安い」と言うだろう。香港に物件を持つ中国人富裕層も「セントラルよりよっぽど安い」と言うだろう。 これは、東京に今後、バブルが起こる可能性があるということだ。それにうまく乗れる投資家にとってはチャンスだが、私たち一般日本人にとってなんの関係もない話、というか、かえって大きなダメージを受けかねない話である。
■バブルには妄想と自己欺瞞があるだけ
FRBは中央銀行発の世界バブルを、なんとか終わらせようとしている。金を刷って時間を買えば、やがて実体経済は回復してくる。そのとき、出口戦略に入ればいいと考えた。しかし、アメリカ経済はまだ回復していない。ジョブレスリカバリーしか起きていない。こうなると、あとはシェールガス頼りだ。 しかし、日本はバブルが起きるだけで、それを起こした原資は借金(国債)だから、いったいどうなるのか? 消費税を引き上げるために、1万円を配るなんてばらまきばかりやっていたら、出口なんていつまでたっても見えてこないだろう。 しかし、バブルは必ず崩壊する。 ここは、古典的名著とされるジョン・ケネス・ガルブレイス著『[新版]バブルの物語人々はなぜ「熱狂」を繰り返すのか』(鈴木哲太郎:訳,ダイヤモンド社、2008)から、以下の1節を引用しておきたい。 「興奮したムードが市場に拡がったり、投資の見通しが楽観ムードに包まれるような時や、特別な先見の明に基づく独得の機会があるという主張がなされるような時には、良識あるすべての人は渦中に入らないほうがよい。これは警戒すべき時なのだ。たぶん、そこには機会があるのかもしれない。紅海の底には、かの宝物があるかもしれない。しかし、そうしたところには妄想と自己欺瞞があるだけだという場合のほうがむしろ多いということは、歴史が十分に証明している。」(P155)
参照:The Emerging Markets Bubble (or The “BRIC” Bubble) Business Insider China's Property Bubble
Singapore's Property Bubble
Malaysia's Property Bubble Hong Kong's Property Bubble
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