[192] 靖国参拝の安倍首相に感じる“違和感” 日本は自滅しようとしているのか? |
2013年 12月 28日(土曜日) 15:55 |
まさか、クリスマス後にこんなことが待っているとは思いもしなかった。安倍首相の靖国参拝のニュースは、聞いた瞬間「冗談では?」と思わず、口に出てしまった。そして、次第に気分が重くなる一方になった。 現在、カリフォルニア州サンタバーバラに滞在しているので、日本で聞くのとは気分が違うかもしれない。しかし、それを差し引いても、彼が本当に日本のことを考えているのか疑わしく思えるようになった。 じつは前々から、安倍首相には違和感があった。それは、今回のことで、メディアがいっせいに批判するようなこととはまったく別の違和感だ。参拝後の記者会見で、安倍首相は「日本のために尊い命を犠牲にされたご英霊に対して、尊崇の念を表し、不戦の誓いを新たにした」と言った。 これは、彼の政治家としての政治的な発言ではなく、おそらくホンネだろう。だとすると、私は、彼と同じ戦後世代として、その感覚に疑問を感じざるをえない。なぜなら、「御英霊」「尊崇の念」「不戦の誓い」などという空虚な言葉を、私はけっして使わないし、使おうとも思ったことがないからだ。
前から思っていたが、彼はなぜ、あんなに戦前が好きなのだろうか? 私も、子どものころ、戦艦大和、ゼロ戦などの話を少年雑誌で読み、大日本帝国に憧れた。朝鮮半島、満州、台湾、中国を支配する大帝国だった日本はすごいと思った。しかし、その日本がアメリカに破れた現実を、大人になって歴史的に冷静に考えてみると、大帝国は単なるハリボテ国家、日本人は虚勢を張っていただけにすぎないと思った。 この思いは、アメリカに行けばよりいっそう明確になった。70年代に初めてアメリカに行ったとき、この国はすごい。こんな国と戦争して勝てるわけがないと肌で感じた。だから、子どものころ、大人たちに「なんで負けるのがわかっていてアメリカと戦争したの?」と聞いて答えが返ってこなかった理由もわかった。
戦後世代、とくに横浜生まれの私にとって、アメリカは一貫して憧れの国だった。とくに、カリフォルニアには、あらゆる面で憧れた。ハリウッド、サーフィン、ビーチボーズ、フリスビー、スケボー、ヒッピーなどの風俗、文化をいち早く真似することが、私たち世代がいちばん熱心にやったことだ。70年代にやっていたことといえば、現在のコンピュータ文明につながる『ホール・アース・カタログ』を読みふけり、カリフォルニアサウンドを聞き、映画『アメリカン・グラフィティ』を見て、夏はビーチでTシャツと短パンですごす。こんなことばかりだ。 その70年代の後半、安倍首相はカリフォルニアに留学している。当初、成蹊大学を卒業後、サザンカリフォルニア大学に2年間留学したとされていたが、実際には1年間にも満たないことが後で判明した。しかしそれでも、この地で過ごしたのは確かだ。 1977年渡米とあるから、このときは、イーグルスのあの空前の大ヒット曲『Hotel California』を毎日のように耳にしていただろう。アメリカ西海岸の「自由」なカルチャーをその目で見て、肌で感じたはずだ。
だから、本当に不思議だ。なぜ、靖国に行くのか? もちろん、アメリカ留学と靖国は関係ない。最近の日本の一部若者は、完全に右傾化して盲目的な愛国主義に陥り、アメリカに憧れたりしなくなったというが、私たちの世代は違う。当時は、アメリカ一辺倒。中国・韓国など意識しようにもすることもできない小さな存在だったから、やはりアメリカ、アメリカだった。 安倍首相は、そのアメリカを失望させた。 Japan is a valued ally and friend. Nevertheless, the United States is disappointed that Japan's leadership has taken an action that will exacerbate tensions with Japan's neighbors. アメリカの公式声明には、はっきりと、「disappointed」と書いてある。それはそうだ。米メディアが指摘するように、ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が、訪日時に千鳥ヶ淵墓苑で献花をしたことは、最大のメセージだったからだ。安倍首相はそれを無視したのである。あるいは、メッセージの意味がわからなかったのかもしれない。
中国・韓国は仕方がない。彼らは、どんな手を尽くしても国家レベルでは、日本を恨み続ける。国民がどう考えていようとも、これをやり続けるだろう。しかし、アメリカは国家として、一度は日本を許した。原爆を落とし殲滅することもできた文明を続けさせたのだ。 しかも、日本はこのアメリカに19世紀の開国以来、ずっと依存して生きてきた国家だ。 「対米従属からの独立」「美しい日本の復活」「日本を取り戻す」など、どうでもいい虚しいスローガンだ。現実は、戦前も戦後も日本はアメリカなくして発展できない国である。
戦前の大日本帝国もじつはアメリカ依存の国家だった。歴史を調べればわかるが、戦前の日本のGDPは、およそ世界5位程度。それを支えたのはアメリカとの貿易だ。戦前の日本はアメリカに生糸を輸出し、代わりに石油、工作機械、屑鉄、綿花などを輸入していた。このうち、石油、工作機械、綿花の三本柱は日本にとって死活的な重要品目だった。 そのアメリカと戦争すると決め、国民を大量死させた大日本帝国の政治家や軍人は、いったいなにをしたかったのか? 英霊とはなにを指すのか?
カリフォルニアに来るたびに思うのは、年々、日本のプレゼンスが低下していること。1970年代はまだコリアン、チャイニーズはそれほど多くなかった。しかし、いまやロスのリトルトーキョーは半分以上がコリアンのものとなり、サンフランシスコのジャパンタウンも寂れてしまった。日系社会は、戦前移民の2世、3世、戦後新移民、バブル期移民、企業駐在員などが反目しあって、結局衰退し、アジア系の主流はいまや中国・韓国になってしまった。 サンタバーバラのような平和な街にいると、このことはさらに強く感じる。若い世代のアメリカ人にとって、アジアといえば中国である。最近の世論調査でも、アメリカ人は日本より中国を重要と考えている。
アベノミクスは経済政策としては博打である。博打を打たずに、痛みに耐え、地道にやっていく選択もあったのに、安倍内閣はこれを実行。その成果も出ないうちに、すべてをぶち壊すような靖国参拝を行った。 私は、いまの日本が死に急いでいるようにしか見えない。いったい、なにをあせって、最悪手ばかりを差すのだろうか? 来年の消費税値上げを考えると、日本は自滅しようとしているようにしか見えない。日本はまだまだ大国だけに、今後も持ち続ける。しかし、アベノミクス以後は、急速に衰えていくかもしれない。
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