[033]マーケティングでますます時代遅れになる書店と出版社 |
2009年9月30日 今回もまた、出版業界の話である。もう、自分でもうんざりしてきたが、今日の報道を知って、どうしても書き留めておきたいことがあるので書くことにした。以下の報道は、新聞各紙に載っているが、気に止めなければ、お決まりの「出版不況」ニュースである。 《大日本印刷(DNP)と、同社傘下の丸善、図書館流通センター(TRC)、ジュンク堂書店は、9月29日に開催した取締役会において、書籍販売事業の経営統合に関する合意を締結した。 これによって、丸善とTRCは、DNPが設立する共同持株会社「CHI(シーエイチアイ)グループ」の完全子会社となり、経営統合を進める。ジュンク堂はCHI設立後3年以内をめどに傘下に入り、経営統合に参加するという。 新会社CHIの代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)には、現丸善代表取締役社長の小城武彦氏が就き、CHIは、今後、DNP、丸善、TRCの営業力、書籍データベースや物流センター、ブランド力などを共有化し、業務の効率化とコスト削減、営業体制の強化を図っていく。 また、DNP、丸善、ジュンク堂の3社は業務提携についても、合意。店舗運営ノウハウの共有、商品調達力の相互応用、POSシステムの統合、システム開発の一本化などに取り組む。》
これまでの書店にはマーケティング戦略がなかった
——さて、このニュースを伝える日経新聞(9月30日付け)の記事の横には、『出版が変わる』という連載記事があり、そのなかで、書店再編の現状についての解説が書かれている。市場収縮(出版不況)のなかで、印刷会社も出版社も書店も変わらなければ生き残れない時代になったが、これまでの書店にはマーケティング戦略がなかったという。 そこで、大日本印刷は、丸善、TRC、ジュンク堂などを傘下に入れ、一体化したマーケティングに基づいて、本を売っていこうというのだ。 その例として、丸善丸の内店で行われている、書店員が考えた書棚コーナーが紹介されている。テーマ•内容ごとに独自の分類で「こんなときに読む本」のコーナーである。いわゆる「提案型販売」を目指す新しい動きだ。 そして、丸善の小城社長の、こんなコメントが続く。「マーケティングは小売業の基本。書店にはそれがなかった」
これまでも編集者はマッケッターだった
たしかのそのとおりである。これまでの本の販売は、返本が可能な「委託販売制度」のおかげで、マーケティングなどを積極的にする必要はなかった。それが、返本率の大幅な上昇を招き、書店経営、出版社経営を圧迫してきた。 しかし、では、マーケティングをして、書店に来る読者を徹底分析し、そのニーズに合った本作りと販売方法をとれば本は売れるのだろうか? 残念ながら、そんなことはないというのが、私の考えだ。これは、私の編集者経験から断言できる。かつての本作りは、読者を知ることが基本だった。だから、編集者は一種のマーケッターでもあり、読者をよりよく知った編集者が売れる本を作ることができた。ただし、ここでいう読者とは、時代にもっとも敏感な人々のことである。
いまの書店に来る客は時代の先端を行っているだろうか?
それでは、いまの書店に、そんな時代に敏感な読者がいるだろうか? いまの書店に来る客の大半は、このデジタル化時代に取り残された人々ではないだろうか? 本や雑誌の購買年齢は、年々上がっている。いまや、情報や教養はデジタルで得る時代だから、書店に来るのは、そのデジタルが使いこなせない人たちである。つまり、大半が中高年で、そのほとんどがPCやスマートフォンを駆使して情報を集められない人々だ。 ファッションの最先端を知るために、書店でファッション誌を買うだろうか?金融•経済の最先端情報を得るために、書店に足を運ぶ人がどれほどいるだろうか? 数年前から、書店に行くたびに、私は読者がどんどん高齢化し、時代遅れの人々が多くなっているのを感じてきた。いまや、小学生、中学生の姿はまばら、高校生、大学生、若いサラリーマン、OLなどの姿は、都会の大型書店を除けば、ほとんど見かけなくなった。
書店はもはや街の情報ステーションではない
もはや、書店は、街の情報ステーションでもなければ、文化の発信地でもない。その証拠に、ここ数年のベストセラーを見れば、たしかに時代を反映はしているが、先端的な本、文化的な本はどんどん少なくなってきた。 時代遅れのどうでもいいような内容、簡単な内容の本ばかりが、ベストセラーのリストを飾るようになった。これを逆から言えば、編集者が読者に合わせた結果である。つまり、マーケティングをすればするほど、こうした本ばかりになるのだ。
マーケティングをすればするほど時代に取り残される
出版もジャーナリズムなら、こんな市場では、それを続けることは不可能だ。読者が高齢化し、時代に取り残された人々ばかりになっていく市場で、時代をリードすることなどできようはずがない。もはや、紙の市場から、どのように撤退し、次の時代のジャーナリズムを続けていくかが、ジャーナリストや編集者のテーマである。 書店での読者マーケティングは必要である。それをすれば、返品率も落ちるだろう。大型書店の再編が進み、店舗運営ノウハウの共有、商品調達力の相互応用、POSシステムの統合、システム開発の一本化などが進むことは、市場に順応しなければ生き残れない以上、仕方がないことだ。 しかし、それをやればやるほど、本や雑誌の情報、文化的な価値は下がっていく。かつて書店が街で占めていた位置は、どんどん低下する。 書店や紙媒体をサバイバルさせることと、情報発信すること、文化を発展させることは全然違うことだと、私たちはもう気がつくべきときに来ている。
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