[041]危うい民主党政権。第2の巨大バブル後に日本崩壊というシナリオ |
2009年11月12日 民主党内閣が立ち往生している。「必ず実現する。国民との契約だ」としたマニフェストの実現は、ほぼすべて先送りされた。あれだけ削るといった予算もたった3兆円で、それも新たな補正にまわすことになり、「民主党は財務省に完敗」「政治主導は幻にすぎなかった」という批判が相次いでいる。 正直言って、私もここまで混乱するとは思わなかったから、失望感が強い。もとより、それほど期待はしなかったが、政策のよしあしは別として「子供手当2万6000円支給」「高速道路無料化」「後期高齢者医療制度の廃止」「八ッ場ダム建設中止」などのうち1つぐらいはやるだろうと思っていたが、どれも実現の可能性さえ見出せない雲行きだ。
民主党はよほどクソマジメなのか、お人よしの集まりなのか
「これで日本は変わる」「政権交代は一種の革命だ」「明治維新以来の官僚支配が終わる」などと、つい2カ月前に騒いでいたことが嘘のようだ。永田町で民主党寄りの取材をしてきた私の友人の記者たちも、いちおうに肩を落としている。 結局、いま私たちが国会で見ている光景は、「革命」「改革」などではなく、ただの「大騒動」にすぎないようだ。そして、これに高笑いしているのが、旧勢力と官僚たちだから、バカバカしいにもほどがある。 官僚支配を終わらせるのは、彼らから人事権と予算権を取り上げるしかない。つまり、トップを何人か即座にクビにし、民間がやっているような大幅なリストラ(首切り)を行うのが先だったはずだ。1990年代、カナダでもスウェーデンでも財政危機になったときは、公務員の大幅なレイオフが行われた。 それもせず、彼らにたよって「事業の仕分け作業」などをやっているのを見ると、民主党はよほどクソマジメなのか、お人よしの集まりなのかと思う。
なぜJALも郵政も後戻りしてしまうのだろうか?
JALにしても、結局は国が救済することになった。タスクフォースなどと言って期待を集めておきながら、彼らが出した案は債権放棄と公的資金投入だけ。子供でもできる再建案で、これならそれまで検討されていた自主再建案のほうがマシだった。 なぜ、JALをまた国営にする必要があるのだろうか? 不採算部門などを整理したうえで、民間企業やファンドに売ってしまえばいいはずだ。あれだけの企業なのだから、買い手は必ずつく。そうすれば、国民負担も減るだろうし、企業年金問題もドラスティックに解決しただろう。 郵政もまた国営に戻った。これで、国民の個人資産1400兆円の多くがつぎ込まれている郵便貯金は財務省管理となり、結局は国債購入資金に逆戻りである。国債はかたちを変えた税金であり、将来世代の未来を奪うものだ。日本人は金融がもっとも不得意である。いまのグローバル資本主義の金融はエンジニアリング人材が動かしているのだから、文系人間ばかりの日本の金融機関に勝ち目はない。日本の最後の砦の個人金融資産は、これで塩漬けとなり、日本はますます停滞する。
「冬のボーナス、過去最大の減少」の意味するところ
国の中枢が騒動をくり広げている間に、経済も国民の暮らしもどんどん悪化している。サラリーマンの冬のボーナスは、過去最大の減少幅を記録し、このままでは年末の消費は大幅に落ち込むだろう。 10月28日、日本経団連が発表した大手企業の今冬のボーナス妥結状況によると、組合員1人当たりの妥結額(加重平均)は前年実績比15.91%減の74万7282円で、冬のボーナスでは調査を開始した1959年以降最大の減少となった。 しかし、これは今年の冬だけではすまされない。 いま、金融危機以後の税金投入のカンフル剤が切れ出したので、世界中が景気の2番底に向かっているからだ。おそらく、このままいけば、来年の夏のボーナスはもっと落ち込むはずだ。
ボーナス、退職金は日本企業特有の「給料の後払い」 ここで、日本企業のボーナスについて触れておくと、これは給料の後払いシステムであり、欧米のような報奨金とは違う。というのは、昔の日本企業は設備投資の資金が慢性的に不足していて、それを埋めるために、ボーナスという制度を利用したからだ。退職金(企業年金)も同じである。 どういうことかというと、給料を低く抑えて、その代りに業績が上がれば半年ごとに不足分を払う。また、さらに長年勤めてくれたら退職時に一時金として払うということ。 これは、経済も企業も成長しているときはうまくいったが、もうシステムとして成り立たなくなっている。 リーマンショックで「100年に1度の危機」と言われた昨年末でも、いくつかの業種でボーナスのマイナスはあった。しかし、大半の業種は「ゼロ、もしくは若干のプラス」といった状況だった。 ところが今年は、自動車業界で22%減、電機業界で19%減というのだから、もはや、この不況で日本システムが崩壊しつつあると見たほうがいいだろう。JALの年金問題も、結局は同根の問題だ。それを「JALは年金が高すぎる」と国民の大半であるサラリーマン同士の対立を煽るように報道するマスメディアは、本質を見ていない。また、危機感が欠如している。 私も出版界にいて、不況業種のせいか大幅なボーナスの減額にあっている。これは新聞、テレビもみな同じだろうに、なぜ、マスメディアの記者は、昔ながらの記事しか書かないのだろうか?
国債金利(長期金利)の上昇は国が信用されていないから
マスメディアの記者の危機感のなさは、国債金利がじわじわと上昇していることに関しても同じだ。国債金利の上昇は、国家に対する不信感の表れである。 民主党政府は、予算審議で、税収の大幅な落ち込みにショックを受け、国債増発もやもう得ないという姿勢に転じてしまった。それで、国債金利は上がり出した。 国税庁の発表によれば、今年7月末までに申告した2008年度決算法人の所得金額が、前年度比20兆8370億円(35.4%)減の37兆9874億円と、6年ぶりの低水準になったという。なんと、35.4%減である。ここまで法人税が落ち込むということは、日本の企業がほぼ総崩れだということだ。 法人税で20兆円もすっ飛ぶのだから、もはや財源問題などいくら議論しても意味がない。 予算を縮小して、重点分野だけに効率的につぎ込むような緊急措置を取らなければならない。そのためには、将来の日本を見据えた戦略がいる。しかし、民主党にはどうやらそれがないようだ。だから、「仕分け作業」などのディテールばかりやっている。
これ以上の国債発行を、絶対に許してはならない しかし、この額も日本のGDPから見るとありえない巨額だ。日本のGDPは約500兆円だから、50兆円でGDPの10%に相当する。すでに日本の国債残高(2009年6月時点)は対GDP比で190%となっていて、44兆円となれば、ほぼ200%に届いてしまう。 金融危機であれほどドルを刷りまくったアメリカでさえ、まだ100%に達していないし、EUでもっとも財政が悪いイタリアであっても120%前後である。 「このままでは、日本国政府は金利すら払えなくなるのではないか」と市場が思えば、長期金利の指標となる新発10年物国債の金利は上昇する。そして、これは、住宅ローンなどの金利を引き上げる。インフレが近づく足音が聞こえてくる。 「仕分け作業」のドタバタを伝えるより、こうしたことに本腰を入れてマスメディアは伝えるべきだ。そして、これ以上の国債発行を、絶対に許してはならない。
2011年から12年に、日本で第2の巨大バブルが発生する
ところで、あの徳川家広氏が、ついに自著を書き、「山田さん、やっとできました。読んでください」と言うので、一気に読んだ。『バブルの興亡 日本は破滅の未来を変えられるのか』 (講談社BIZ) が、彼が書いた本だ。この本のなかには、なるほどと思わずうなずいてしまうことが、いっぱい書かれている。 こ本の内容は、かねてからの彼の主張だっただけに、私には目新しくない。ただ、初めて読まれる人は驚くだろう。なにしろ、今後、巨大バブルがやって来て、そのバブルが崩壊した後に日本は廃墟と化すというのだから。 2011年から12年に、日本でなぜバブルが発生するのかは、バブルのメカニズムから説明されている。詳しくは書かないが、およそ「危機の2年後には、必ずバブルが来る」「バブルは、一度育ってしまったらば、必ず崩壊して、深刻な経済危機をもたらす」ということでわかると思う。 バブル崩壊後の日本を、徳川氏は、銀行は大量に破綻し、企業は連鎖倒産し、日本の不動産を中国人やロシア人 が買いあさる。失業率は30%を超え、売春と凶悪犯罪と感染症が激増して、「先進国としての日本」は完全に終焉する、としている。
「友愛」を具現化する戦略がないと、日本は第2のバブルで崩壊
この本を、よくある国家破産本と同時に論じていけない。徳川氏には、危機を煽って本を売ろうなどという発想は微塵もないからだ。彼は、徳川家の19代目を継ぐ人物なので、そんな世俗的なことに興味はない。 私が読んで面白かったのは、「日本の歴代首相はなぜ『失われた20年』を作ってしまったのか」「ブッシュのイラク戦争と サブプライム・バブルの関係」「民主党政権はどこまでバブルを煽るのか」などだ。また「巨大バブル崩壊の時に資産を守る方法」も、彼のサービス精神から書かれていて、ともかく一気に読んだ。 彼の未来予測が当たらないほうがいいとは思うが、いまの状況を見ていると、そちらに向かっている気がして仕方ない。民主党政権には、理念はある。鳩山首相が言うように「友愛」は理念、理想としては、ケチのつけようがない。しかし、それを具現化する戦略がないと、日本は第2のバブルで崩壊という未来シナリオはともかく、このまま衰退を続けるのは間違いないだろう。
普天間基地移転問題など、アメリカにとって些細なこと
オバマ大統領が13日に来日するので、日本のマスメディアが騒いでいる普天間基地移転問題も書いておきたい。相変わらず、この問題を、日本のメディアはアメリカの威を借りるかたちで、政府批判の道具にしている。 しかし、こんな問題など、アメリカにとっては大した問題ではない。これで、「日米同盟が揺らぐ」など、そう言いたいのはアメリカでもジャパンハンドで潤ってきた人々だけで、全体としては意にも止めていないはずだ。 前のブログにも書いたが、すでに欧米メディアは「日中同盟」の可能性を書き、日本がアメリカよりも中国に向かうという見方を始めている。そして、それを仕方ないこととして受け止めている。なのに、基地ひとつぐらいでアメリカが怒るはずがない。 ならば、鳩山首相はもっと踏み込んで、「自民党政権時代の約束は民意を反映していないから反故にし、新しく話し合いたい」と言ってもかまわないと思う。
核兵器を持つことで、戦争はなくなり、平和になる
ただ、ここで危惧されるのは、鳩山・岡田外交(「友愛外交」)が理念、理想に支配されて、幼稚になりすぎていることだ。オバマの非核演説、「核のない世界を目指す」は理念、理想で、世界各国はその裏で現実外交を展開しているということである。 では、核がある世界での現実外交とはなにか? それは、セオドア・ルーズベルトが唱えた「棍棒外交」Big Stick Diplomacy(Speak softly and carry a big stick, you will go far)のことで、これはいまだに変わっていない。理念、理想を語るには、「棍棒」=「核兵器」が必要で、それがなければ世界は相手にしないし、平和も訪れないということだ。 こう書くと、では日本は核を持つべきなのか?と言われるが、じつはそのとおりで、アメリカと「対等な関係」を築くなら、その選択肢しかないだろう。 「核兵器を持つことで、戦争はなくなり、平和になる」というのは、人類が20世紀後半に経験した厳然たる事実である。核保有国同士は、第2次大戦後の世界でけっして戦争をしなかった。これは、戦争抑止力が働いたからだ。 実際、これまであれほど仲が悪く戦争をくり返した中露、印パは核兵器保有後、戦争をしなくなった。イスラエルが存在しているのも核保有国だからである。北朝鮮も核を持ったので、今後、朝鮮戦争は起こらず、中国もアメリカも真剣に話し合うしかなくなった。 北朝鮮の核は北京には届くが、まだ、ワシントンには届かない。だから、アメリカにはまだ時間があるということにすぎない。
オバマ大統領の「核廃絶」宣言はただのきれいごと
つまり、「核のない世界を目指す」というのは、核保有国のタテマエで本音ではない。オバマもこの点は口だけだ。オバマ大統領の「核廃絶」宣言は、きれいごとと見抜き、そのうえで、有愛を唱えるなら、私は友愛外交を評価したい。友愛を唱えながら、「日本も世界平和のためには核を持つ選択肢がある」と言えなければ、日米対等など絵に描いたモチだ。 もし、民主党にこうした観点がないなら、小学生が大人に向かって対等宣言をしているようなもので、本当に幼稚で危ういと言うしかない。 経済も衰退、独立自尊の道も閉ざされているとしたら、この国の未来には希望はない。 |
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