[293]「脱紙出版」「減書店」がどんどん進む2018年の出版界はどうなるのか? |
2018年 1月 07日(日曜日) 03:04 |
2017年の紙の出版物推定販売額は1兆3700億円。前年比にして6.9%減1009億円のマイナス(1〜11月実績からの推計)である。これはもちろん過去最大の落込みで、1996年をピークとして減少を続けてきた出版市場は、この20年で半減したことになった。 内訳は、コミックス(漫画単行本)を含む雑誌が6600億円で、前年比10.0%減739億円のマイナス。書籍は7150億円で同3.0%減220億円のマイナスとなっている。
なお、以上の数字は紙出版のみで、電子出版の数字は加味されていない。そこで、電子出版がどれくらいの市場規模かを示すと、これは上半期の数字しか出ていない。それによると、電子コミックが777億円で前年同期比22.7%増、電子書籍が140億円で同14.8%増、電子雑誌が112億円で同21.7%増となっていて、電子出版市場全体では1029億円で同21.5%増である。 とすると、下半期も同じ成長率で推移したとすれば、2018年の電子出版市場は約2370億円となる。そこで、これを紙市場と合算すると、1兆6030億円ということになる。
この紙プラス電子を、業界は出版市場と捉えているが、はたしてそうだろうか? そんな捉え方をするから、デジタル化が進むなかで、出版社はスタンスを間違え続けてきたのではないだろうか? 私としては、出版を紙と電子に分けるのは、もはや古いと考えている。デジタルメディアとしての電子出版は、すでに紙とはまったく違うものと捉えるべきだろう。 紙を電子に置き換えることが電子出版ではないからだ。
そういうわけで、2017年の出版界で特筆すべきことは、次の2点だ。1つは、紙のコミックスが前年比12%減とこれまでになく落ち込み、ついに販売額においては紙と電子が逆転してしまったことだ。日本の電子書籍市場は8割が漫画だから、今後コミックは紙ではなく、デジタルが主流になり、そのような出版(発信)をしていく傾向がますます強まるだろう。というか、じきに紙をほとんど捨て、デジタルのみで存在するようなかたちにしなければならない。 なお、電子出版市場がますます拡大していくという見方があるが、それはコミックだけの話にすぎない。 特筆すべき点のもう1つは、雑誌の凋落がはっきりしたことだ。たとえば「文春砲」がいくらスクープ、スキャンダルをやろうと、「週刊文春」は部数を伸ばせない。すでに、多くの月刊誌、週刊誌、女性誌までも、読者のライフスタイルに合致しなくなり、部数減が止まらない。したがって、今後は休刊が相次ぎ、それとともに雑誌単位のウエブサイトも閉鎖に追い込まれるだろう。 雑誌をウエブに移行して生き残りをはかるのは、もっとも愚かな選択だ。
雑誌の凋落と同じように、文芸書、新書などの書籍も大幅な販売減に陥っている。この10年間で、書店店頭においての売上を落としているのは、減少率で見ると、文芸(43.8%減)がもっとも高く、次いで新書(39.1%減)、雑誌(36.7%減)、文庫(30.3%減)の順になっている。 これは、書店数が減っているのだから、もはや回復できるわけがなく、ネット販売(アマゾンなど)でもカバーしきれない。 日書連加盟書店数は2017年の下半期で109店減少し、3395店となった。書店数のピークは1986年で、約1万3000店。なんと1万店が消滅してしまったことになる。もはや、街に中小書店はないのだ。 こうしたなか、店頭販売で唯一伸びたジャンルが児童書のため、児童書に力をいれている出版社は多い。しかし、昨年誕生した子供は100万人を割り98万人。すぐに頭打ちになるだろう。
ともかく、いまや紙出版はとても持たないところまで追い込まれている。返本率は40%を超え、出版された雑誌、書籍の半分が返品として破棄される状況だ、これは、コンビニの食品破棄率と比べたら異常で、資源の無駄だ。 この状況でわかるのは、もはや紙の本の流通システムは成り立たないということだろう。出版社はビジネスモデルを紙依存から大きく転換する瀬戸際に立たされている。 こうしたなかで、業界の垣根を超えた合従連衡や提携が進んでいる。メディアドゥが出版デジタル機構を買収したり、CCCが徳間書店や主婦の友社を買収したりした。KADOKAWAはアシェットと合弁会社を設立した。 しかし、こうした動きは、なにか悪あがきに思え、未来が見えてこない。
アメリカでは、「出版界のAmazonを目指す」として「Publica」が仮想通貨取引所である香港「KuCoin」に上場し、PBL トークンを発行して 1億米ドルを調達したことが、大きな話題になった。「Publica」は仮想通貨によるクラウドファンディングによる、新しいかたちの出版プラットフォームを始めたわけだ。しかし、これが成功するとはとても思えない。 出版は大きく捉えれば情報産業であり、紙だろうと電子だろうと、かたちはどうでもいいのである。いかに価値ある情報を集め、それをユーザーに提供できるかだ。 今後、情報はすべてデジタルになる。2020年には通信は次世代の「5G」に移行する。映像はますます重要になる。それとともに文字もますます重要になるだろう。 2018年は、「脱紙出版」「減書店」に向けて、出版そのものから流通も含めて、デジタルをどう構築していくかの転換点の年になるだろう。 |
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