[314]ファーウェイ の“お姫様”逮捕で始まった米中次世代技術「5G覇権戦争」のこの先? |
2018年 12月 14日(金曜日) 20:29 |
なにしろ、NYダウは先週後半、2日間で1200ドルも下げた。昨日、お姫様は保釈されたとはいえ、このショックはいまも続いている。 では、今後、どうなるだろうか?
今回の逮捕劇で私がもっとも注目したのは、彼女の逮捕容疑が「金融詐欺」ということ。アメリカの報道によれば、米司法当局はファーウェイが香港のペーパーカンパニー「SkyCom」(スカイコム)を使ってイランの通信会社と取引したことを制裁措置違反と指摘したところ、虚偽の報告をしてきたことが原因としている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙によれば、スカイコムはHSBCの口座を通して違法取引をしていたという。
日本のメディアはほとんど指摘していないが、ここでHSBCの名前が出たことは、本当に注目に値する。なぜなら、アメリカは世界中の銀行の取引口座情報を自由に見ることができるということを表しているからだ。どうやら、HSBCは、米当局に積極的に協力したらしい。
すでにアメリカは、2013年に施行された「FATCA」(ファトカ:Foreign Account Tax Compliance Act:外国口座税務コンプライアンス法)により、アメリカに納税義務のある個人または法人の銀行口座を開示させることができるようになっている。さらに、これに2017年から「CRS」(Common Reporting Standard:共通報告基準)が加わり、国際税務協定により、CRS参加国に所在する金融機関は、管理する金融口座から税務上の非居住者を特定し、当該口座情報を自国の税務当局に報告する義務が生じた。この情報は各国の税務当局間で相互に共有されるので、アメリカは事実上、世界のあらゆる金融取引の実態を知ることができる。
なぜ、こんなことがわかっていながら、ファーウェイはHSBCを通じてイラン企業と取引をしたのだろうか?余談だが、日本の検察に逮捕されたカルロス・ゴーン日産元会長は、オランダに設立した「SPC」(Special Purpose Company:特的目的会社)を通して、個人別荘などを購入していた。このような取引も、アメリカの金融当局はすべて把握できていると言っていい。
つまり、こうした金融取引情報こそが、現在のアメリカの最大の武器であり、米中戦争は、最終的には金融面での争いになるだろう。 いまのところ、次世代通信技術「5G」にばかりに目がいっているが、「中国製造(メイドイン・チャイナ)2025」を潰すには、人民元の力を削ぐほかない。
それにしても、ここで思い出されるのが、1980年代に起こった「日米半導体戦争」だ。このとき、アメリカは日本の半導体が不当にダンピングしているとしてWTO(当時はGATT)に提訴した。そして、日本の半導体の米国市場への進出は、アメリカのハイテク、防衛産業の基盤を脅かすという安全保障上の脅威としたのである。 と同時に、1985年に「プラザ合意」が行われ、円は一気に切り上がった。それまで1ドル240円だった円は、約2年で120円になってしまった。 当時、日本の半導体は確かに技術面でアメリカを超えていた。だから、世界シェアでトップに立った。しかし、1986年、「日米半導体協定」が結ばれると、それを機に日本の半導体産業は凋落した。そうして、1993 年、アメリカは世界シェアトップを取り戻したのだった。
ファーウェイのスマホが世界第2位にまで躍進したのは、安価なうえにハイスペックな点にある。これを実現させているのが、子会社のハイシリコンが製造する半導体で、この半導体はいまや世界トップクラスだと、半導体の専門家は言う。 現在、スマホ向けの半導体は、1つのチップ上に必要な機能の多く、もしくはすべての機能を実装しており、これは「SoC」(エスオーシー:System on a Chip)と呼ばれている。
このSoCのメーカーは、クアルコム、サムスン、ハイシリコン、メディアテック、アップルなどがあるが、クアルコムのものが世界的によく使われ、高性能とされている。 このクアルコムの高性能にほぼ匹敵するのがハイシリコンで、クアルコムのスマホの定番である「Snapdragon」(スナップドラゴン)ブランドに、ハイシリコンのブランド「Kirin」(麒麟)は十分に対抗できると言う。
しかし、ハイシリコンの高度な技術は、もともとはクアルコムが育てたものだ。クアルコムは1990年代後半から北京郵電大学を通して、巨額の研究投資を行い、人材養成をしてきた。ハイシリコンを率いる何庭波(He Tingbo)総裁は女性で、北京郵電大学の卒業生である。 スマホ以前の時代、携帯電話メーカー最大手だったモトローラも中国には巨額投資をしていた。 それを考えると、アメリカという国も日本と同じく相当な「お人好し」と言えるだろう。その結果、自分で蒔いたタネを自分で刈り取らなければならなくなったのだ。
それにしても不思議なのが、ファーウェイのお姫様逮捕の翌日、日本ではソフトバンクの通信回線に大規模な障害が起こったことだ。その原因をソフトバンクは「エリクソン設備のソフトウェアに異常が発生したため」と発表した。また、エリクソン側も、日本だけでなく、英国の「O2」(オーツー)など世界11カ国の通信事業で障害が発生したことを発表して謝罪した。 エリクソン側の説明によると、原因はLTE通信網内にあるソフトウェアで、デジタル証明書の期限が切れていたことで、これはエリクソンのミスだという。
しかし、この原因説は、本当なのだろうか? ソフトバンクは、2017年に、「5G」の実証実験に関する契約をエリクソンとフィンランドのノキア、そしてファーウェイとZTEの4社と締結している。つまり、この4社から中国勢が消えることと、今回の通信障害は関連があるのではないだろうか? 実際、「5G」インフラに関しては、現在、この4社がほぼ独占している。したがって、ファーウェイとZTEを排除すると、「5G」の設備は事実上、エリクソンとノキアの2社独占となってしまう。つまり、エリクソンとノキアには、降って湧いたような「特需」が訪れたのである。
日本のメディア、一部の専門家が見誤っているのが、11月の中間選挙の結果だ。上院で共和党はマジョリティを維持したが、下院では民主党に負けた。このことで、「ねじれ」と「分断」が進み、トランプの政策は議会での承認が難しくなるとしている。 しかし、対中政策に関しては、そんなことはありえない。
なぜなら、すでに77歳と高齢だが、民主党の重鎮ナンシー・ペロシ女史が下院委員長に返り咲いたからである。彼女はオバマ政権時代、一貫して中国のチベット弾圧を非難してきた。それ以前、ブッシュ大統領時代には、2008年の北京オリンピックを「ボイコットせよ」とまで主張した。 つまり、彼女は、筋金入りの「中国嫌い」=「ドランゴンスレイヤー」(Dragon Slayer:対中強硬派)である。この点で、トランプとは一致し、トランプ政権内のロバート・ライトハイザーUSTR代表、ピーター・ナヴァロ国家通商会議議長とは意見が合うのだ。
現在、米中関税戦争は90日間の休戦に入った。この期間を利用して、中国はさまざま揺さぶり、見せかけの妥協案を出してくるだろう。しかし、この戦争は、妥協では解決しない。覇権戦争であるから、敗者が明確に決まるまで続く。もちろん、中国に勝ち目はない。 関税戦争が再開されれば、次に考えられるのが、金融戦争の口火となる「チャイナプレミアム」の導入ではないだろうか。中国からの資金調達に2%程度の「プレミアム」(加算金利)をつけることを、アメリカ政府は各国の銀行に求めるだろう。 すでに、人民元安が進み、「キャピタルフライト」(資本逃避)も起こり始めている。これまで、中国企業は世界中で爆弾投資を重ねてきたが、それがアダとなって債務が膨らむ一方になっている。中国保険大手の安邦保険集団は巨額債務を抱えたあげく、今年2月に中国政府の管理下に入っている。
貿易戦争が激化すれば、こういう中国企業が増えていくだろう。そうなると、チャイナプレミアムは現実化する。じつは、日本企業もバブル崩壊後に同様な罠にはまり、日本の銀行の資金調達に「ジャパンプレミアム」が課せられたことがある。 世界の金融はドルで成り立っている。世界の債権の約60%はドル建てであり、これが意味するところは、単縦な話、ドルで借りたものはドルで返さなければならないということだ。つまり、各国の金融機関にとって、ドルの入手にコストがかかるということは、やがて破綻しかねないことを意味する。ファーウェイとともに、中国の金融、人民元を潰していく、これが、この戦争の次の戦場になるだろう。 |
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