メディアの未来[017]「なぜ現代人は本を読まなくなったのか?」の真相 |
2009年 12月 19日(土曜日) 17:52 |
出版不況のいちばんの原因は、ウェブやケータイなどのオンラインメディアの進展にあると考えられている。しかし、それは本当だろうか? たしかに、現代人は昔に比べて本を読まなくなった。ただ、それは、ウェブやケータイなどの電子ディバイスのほうが本より便利で面白いからなのだろうか? 出版界は紙にこだわるあまり、長くオンラインメディアを敵対視してきたが、本が売れなくなった理由がオンラインメディアの攻勢ではないとしたら、違った世界が見えてくのではないだろうか? 最近、この問題をめぐって、2つの面白い調査結果が発表されたので、それを紹介しつつ考えてみたい。
「書籍読まない」40代男性と30代女性が5割超す
2009年10月26日、楽天リサーチと楽天が運営するオンライン書店「楽天ブックス」が、読書調査の結果を発表した。この調査によると、書籍・雑誌を1カ月に「ほとんど読まない」人が書籍で42.3%、雑誌で40.2%と、ともに大多数を占めた。 また、「書籍・雑誌を読む時間」の変化を聞いたところ、2〜3年前と比べ「減った」(「やや減った」と「かなり減った」の合算)は書籍で 40.6%、雑誌で41.6%と、年々読まなくなっている傾向が強まっていた。
この結果は、別段驚くようなことではない。現代人が昔に比べて本を読まなくなったのが裏付けられたからだ。ただ、この調査で注目されるのは、どの年代がいちばん本を読んでいないかがはっきりしたことである。 調査は、2009年8月31日から9月1日にかけて、楽天リサーチ登録モニター(約170万人)の中から、全国の15〜69歳の男女計1200人を対象に行なわれた。そして、調査対象者を年齢別に分けてみると、書籍を「ほとんど読まない」の回答のうちもっとも多かったのが、なんと男性40代で53.0%だった。次が女性30代(52.0%)、男性30代(47.0%)。
いっぽう雑誌では、「ほとんど読まない」がもっとも多いのは、男性10代で48.0%。ところが女性10代は28.0%で、男性よりはずっと読んでいるという結果になった。
調査対象者の属性がはっきりしないので、一概には言えないが、本をほとんど読まないのが男性40代(53.0%)であるというのは、驚きではないだろうか? 一般的には、この年代の男性は社会の中核にいるから、知識や情報の吸収をもっとも必要としていると思われている。働き盛りの人たちが、本を読まないというのは、不思議ではないだろうか? また、一般的に、デジタル化(携帯、PC)の影響で書籍・雑誌離れが進んでいるなら、その傾向は若い世代ほど顕著になるはずである。ところが、ケータイをもっとも駆使している女性10代は28.0%は、本や雑誌を意外と読んでいるのである。
本を読まないのは「本を読む時間がない」から
この楽天調査の1カ月ほど前、同じような読書調査の結果が発表されている。 2009年9月8日、ネットマイルは読者に関する調査結果を発表し、調査母体で最近1カ月の間にコミック・週刊誌・雑誌以外の書籍を1冊も読んでいない人が、本を読まなかった最大の理由は「本を読む時間がない」であると公表した。 この調査では、「読みたい本がない」もその次に位置しているから、最近の本があまり面白くなくなっているのも書籍離れの原因なのは間違いない。ただ、「テレビやラジオ、ネットの方が面白い」は第3位なので、デジタル化(携帯、PC)の影響で書籍・雑誌離れが進んでいるというのは、それほど大きな原因ではないのではないだろうか?
この調査は、2009年8月27日から28日までの間に、インターネット経由で行われたもので、有効回答数は600。男女比は1対1で年齢階層比は10代・20代・30代・40代・50代・60歳以上と均等割り当てになっている。 したがって、この調査では、どの年代とも本を読まないのは「読む時間がないとは言えない。ただ、実際に、調査母体において、この1か月間に本(コミック・週刊誌・雑誌のぞく)を1冊も読んでいない人に、その原因を複数回答で尋ねてみると、もっとも 多くの人が選んだ選択肢は「本を読む時間がない」で4割以上に達していた。
(最近1カ月に本を読まなかった方へ)本を読まなかった理由は何ですか?(複数回答)
「本を読む時間がない」が単純に「多忙で」なのか、「テレビやネットに時間を割いてしまって、読書にまで回す時間がないから」なのかは、この回答からだけではわからない。しかし、「時間がないから本は読まない」というのが第1位ということの意味は大きい。 なぜなら、この調査がインターネット経由で行われたにも関わらず、「ネットの方が楽しいから」よりも「時間がない」が上に来ているからだ。 そこで、「本よりテレビやラジオ、インターネットのほうが面白いから」と回答した人を、年齢階層別に区分して表にしたのが次の図だ。
(最近1ヵ月に本を読まなかった方へ)本を読まなかった理由は何ですか?(本よりテレビやラジオ、インターネットのほうが面白いからと回答した人)
40代が本を読まないのは「テレビやネット、ケータイの方が面白いから」?
とすると、先の調査と合わせてみると、40代が本や雑誌をいちばん読まない。いちばん書籍離れが進んでいて、その原因は「読む時間がない」ことはもちろんだが、どの世代より「テレビやネット、ケータイの方が面白いから、本は読まない」ということになる。 はたして、そんなことがありえるだろうか? 現代人が、なにかをできないとき「時間がない」と言うのは、「忙しい」か「ほかにすることが沢山ある」かのどちらかである。そのほかにすることが、40代に限って「テレビやラジオ、ネット」であるとは思えない。ここからは推測だが、40代は「忙しすぎて本を読まない」が、その理由を見栄でネット、ケータイなどの新メディアの方が面白いと答えているのかもしれない。そうすることで、自分が時代に遅れていないことの言い訳にしているのではないだろうか?
情報過多のなかで、雑誌や本の価値は薄れていくばかり
さて、もうひとつ、現代人が本や雑誌を読まなくなった答に対する別のアプローチがある。それは、現代が昔に比べて「情報過多、情報洪水の時代」であるからというものだ。実際、ネット、ケータイなどのオンラインメディアが爆発的に普及して以来、私たちを取り巻く情報量は飛躍的に増えてきた。 昔は、新聞、雑誌、本、テレビ、ラジオというブロードキャスティング(一方通行)を通じて流れていた情報は、ネットというネッワーキング(双方向)の登場によって、加速度的に増加した。ネッワークのなかでは、お互いに情報を発し合うので、情報はどんどん増幅する。そして、その増加の仕方は、年々加速度がついている。いまや、その量の多さに、ほとんどの人間は消化不良を起こしているのではないだろうか。
この情報洪水を、いまいちばん気にしているのが、出版社ではなく、広告業界である。 ネットが登場して以来、4大メディア(新聞、テレビ、出版、ラジオ)はじじょじょに影響力を失い、広告は多様化してしまった。そんななか、いま広告業界は、いかにして広告のメッセージをエンドユーザーに届けるのか? 腐心している。それがわからなければ、効果のある広告は不可能だからだ。
「情報ビッグバン」のなかで、モノがえらべなくなってしまった現代人
日本では、2000年代に入ったあたりから、飛躍的に情報が増え出した。
では、この「情報ビッグバン」がなにをもたらしたかというと、情報がどんどん増える一方で、大量の情報がゴミ化してしまうということである。 これを「消費可能情報量」と呼んでいるが、じつはこれは、この10年間で15倍ほどしか増えていない。それに対してメディアを通して流される情報は400倍にも増加しているのだから、ほとんどがゴミ化して当然だろう。
現代人の本を読まないという傾向は、情報ビックバンのせいで情報が増えすぎたため、どの本を読んでいいかわからなくなってしまったことも原因だろう。巨大なゴミの山のなかから、自分にとって有益なものを探すには骨が折れる。「読む時間がない」というのは、「探している暇がない」と言い換えてもいいと思うが、どうだろうか?
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