[053]開国か?鎖国か? 電子書籍から政治まで引き裂かれる日本 |
2010年4月29日 今年は、春がなかった。うららかな春らしい日が、本当に少なかった。季節はずれの寒波と雨が続き、気がつけばGWがやってきてしまった。季節はもう初夏になろうとしている。 ただし、そんな季節の異変を気に止めていられないほど、この春は本当にあわただしく過ぎた。このままではいけない。そう思って、いま久しぶりにブログを更新することにした。とはいえ時間がないので、メモ程度の更新になる。 桜の季節もあっという間に過ぎた じつは書こうと思えば、書くことは山ほどあった。この春、自身が体験したこと、身の回りで起こったこと、そして世間の動き、世界の動き……どこから書いていいのか、正直迷ってばかりいた。それでもあえてテーマを絞ってみると、この春私がずっと考えていいたのは「開国か鎖国か」ということになるだろう。 ■ 現在、私の最大の関心事は、出版界を含めて既存メディアがどうなるか?ということに尽きる。これは3年ほど前からずっと引きずってきたテーマで、そのため、このブログやこのサイトにあえて立てた連載「メディアの未来」の中でも、くり返し書いてきた。 では、なぜ、メディア界の現状が、鎖国か開国かになるのだろうか? それは、日本の出版界が、KindleやiPadなどに対して「黒船来襲」のような意識を持っているからだ。 なぜ、紙から電子媒体に移行する流れをチャンスと捉えないのか、私には不思議だ。ネットは世界中が1つにつながった新天地である。そう思えば、やがて来るだろう電子ブックリーダーの普及は、縮小する日本のマーケットから一気に世界マーケットというブルーオーシャンに打って出られるチャンスだろう。 日本語にこだわるからいけない。だから、日本独自のフォーマットという発想になる。日本の出版社、新聞社がなぜ英語で発信してはいけないのか? 欧米の人気作家の作品を電子書籍で日本の出版社がダイレクトに出してもかまわない。また、日本の世界に類を見ない漫画コンテンツを世界にダイレクトに発信できるはないか。紙では、翻訳や流通などにバカみたいなコストがかかる。しかし、電子出版ならこのハードルをいとも簡単に乗り越えられる。 iPadは読書スタイルを変えてしまうのだろうか? 日本独自の流通、再販制度、書店などを守ろうとすると、著作権法までふみこんで議論しなければならない。実際、電子書協や大手出版社はそうしている。しかし、世界中が1つにつながったネット世界で、そんなことを考えるのはムダだ。この世界では、使おうと思えばどの国の著作権法でも使える。金融にオフショアがあるように、著作権にもオフショアがあってもよく、実際、ヨーロッパではコンテンツをスイスなどに集めてしまおうという動きがある。 ■
じつは、この3月、4月で電子書籍のフォーラムや会合を繰り返し、すでにロサンゼルスで電子書籍ビジネスを始めた立入勝義氏とは何度も語り合った。彼の考えは、まさに私と同じで、「日本はケータイでもそうだったが、電子書籍でも鎖国して、ガラパゴス化している」というものだった。 立入氏は35歳という若さで、ロスでは新進の起業家として活躍している。いま、「電子ブック開国論」という本を書きあげ、本格的にこの世界に進んでいこうとしている。この世界では、「電子書籍の衝撃」を書いた佐々木俊尚氏や角川グループH会長兼CEO 角川歴彦氏などの論説が最も的を射ていると思うが、KDDI総研・リサーチフェローの小林雅一氏の『モバイル・コンピューティング』(PHP研究所)も、非常に参考になる。また、キンドルの衝撃』(毎日新聞社)を書いた石川幸憲氏の考察もためになった。 さらに、立入氏から紹介されたebook2forumの主宰者・鎌田博樹氏の言論も鋭い。 鎌田氏(右)立入氏(左)が講師になった電子ブック勉強会 しかし、いま手元にある立入氏の「開国論」は一見乱暴だが、時代の流れの本質を突いていて、なにより書き手のエネルギーが溢れているだけに、グサリと来る。 4月3日、アメリカでiPadが発売され、案の定飛ぶように売れた。その結果、日本発売は遅くなったが、ネットで次々に公開されるiPad用の電子書籍は、衝撃的だった。とくにAlice for the iPadは、そうか今後の本はこうなるのかと思わせるものだった。 また、ショートムービー付きの電子書籍vookの映像も衝撃的だ。 ともかく、電子書籍リーダーやタブレットPCはどんどん新しいものが登場してくる。たとえば、夏から秋にかけてヒューレッド&パッカードは独自のH&P Slateを発売するという。中国でも電子書籍リーダーは普及し始め、このままいけば、中国が世界最大の電子書籍市場になるとの見方が出ている。中国版Kindleとされる「漢王」の製造元漢王科技は中国移動(チャイナ・モバイル)と契約を結ぶなど、電子書籍リーダーの販売を強化している。 噂の「HP Slate」(英国「Smartphone Essentials」より) 私はこの2カ月間、こうした激しい動きについていくのがやっとだった。手元にKindleがあり、何冊か買ってみたが、読むヒマなどなかった。 ■
こうした世界の動きの中で、たしかに日本は鎖国している。電子書籍にかぎらず、携帯でもSIMフリーをここまで解禁しなかった国はないだろう。最近、やっと総務省が言い出したが、SIMロックのおかげてひとり勝ちになったソフトバンクが反対したのにはあきれた。ガラパゴス化を続けてまで儲けたいのだろうか? 電話機本体を販売する電話会社のSIMカードでしか動作しないという携帯があるのは、ほとんど日本だけだ。その結果、日本に来た外国人は自分の携帯が使えない。こんな不便な状況を解消もせず、外国人観光客を増やす、観光立国政策を国が推し進めているのだから、矛盾もはなはだしい。
ドコモから発売されたスマートフォン「xperia」(有楽町ビッグカメラ) ところで、スマートフォンのことを「多機能な携帯電話のこと」と解説し、新聞も( )して多機能携帯電話などと書いている。しかし、これは携帯電話ではない。コンピュータに電話機能を登載したものだ。 こうした出発点からして違う理解の仕方が、日本の産業をガラパゴス化、鎖国状態にしてしまったのではないだろうか。 コンンピュータによる革命が進行している現在は、やがて人間生活のほとんどの部分がコンピュータによって置き換えられていく途上だと言える。つまり、現在のすべての産業のベースはコンピュータにある。電子書籍リーダーもスマートフォンも同じことだ。 通信も音楽も、そしてメディアもみなコンピュータが取り込んでいくのである。 ところが、日本は、携帯なら携帯、テレビならテレビ、自動車なら自動車と産業がタテ割りで独自で発展してしまった。だから、ガラパゴス化してしまった。
iPadは本当にスグレモノなのか?(英国「Smartphone Essentials」) iPhoneは電話ではない。iPhoneの大型版とされるiPadに電話機能がついていないのは、スティーブ・ジョブズが携帯電話をつくったわけではないからだ。 いまやソニーもパナソニックも束になってもサムソンにかなわない。まして、アップルなんてはるか遠くなった。ものずくり国家、技術大国と言ってはみたが、根本のところが抑えられなかったので、もはや巻き返しようがないのではなかろうか。 いまの日本を外から見ると、どこへ飛んでいくのかわからない飛行機のようだ。飛行機に乗るときは、まず行き先を決める。そして、安全かどうか考える。安全のためには、機体のメインテナンスの問題や、なによりパイロット(機長)の腕が問題になる。はたして、鳩山首相は本当に日本の機長なのか? どこに飛んで行こうとしているのか?皆目わからない。 再建をめぐってJALが迷走を続けるのも、仕方がないだろう。 ■
政治もガラパゴス化し、この春の2カ月間で小政党が乱立してしまった。私が親しくさせてもらってきた同年代の国際評論家、浜田和幸氏と藤井厳喜氏は、こんな日本の状態に耐えられないのだろう、2人とも今度の参議院選に立候補するため、いま選挙活動を続けている。 それにしても、「舛添新党」も平沼赳夫や石原慎太郎らが結成した新党「たちあがれ日本」も、そして、中田宏らの新党、大阪の橋下知事らの大阪維新の会も、みな日本を再生したいのはわかる。 しかし、どこにどうやって飛んでいこうとしているのか見えてこない。 この2週間ほどの間に2回、ジャーナリストの若林亜紀さんに誘われて、みんなの党に行き、浅尾慶一郎氏、渡辺喜美氏、江田憲司氏の話を聞いた、乱立する小政党のなかで、みんなの党はいまや元祖と言えるが、どこよりも明確な方針を持っている。すなわち、官僚国家を解体し、小さな政府のもとに経済を成長させていく。成長がなければ分配はしない。ムダを削るだけではダメで、収入も増やさねばならない。そのためには、幕末から明治にかけてのように、鎖国から開国に向かわなければならない。 みんなの党が、私が見てきたかぎり、いちばんの開国派だ。 ■
最低なのは、国民新党で郵政を再国有化したうえ、限度額を2000万円まで引き上げるという愚策をやろうとしている。郵政再国有化こそ、最大の鎖国政策である。 これを聞いた私の知人のエコノミストは、「これは罠だ」と言った。ペイオフが1000万円だから、2000万円で国民のお金を集め、財政破綻したときに差額の1000万円を国が没収できるからだという。なるほどそうかと思った。 ゆうちょ銀やかんぽ生命が保有している国債は約230兆円。もし、日本経済がデフレを克服し、インフレが訪れたとき、国債価格が1ポイント上昇すると16兆5000億円もの評価損が発生するという。先頃暴落したギリシア国債のイールドは9%を超えた。日本国債はいま1.3〜1.4%といったところだが、この先はわからない。 ■
話は変わって、先日アメリカの友人が来日し、宿泊している新宿の京王プラザに会いにいった。すると、ロビーには中国人観光客があふれていた。昔は欧米人客が多かったが、いまは外国人客といえば中国人が中心だ。 また、私の友人で中国と取引している男がいるが、彼の取引先の企業オーナーはいまや大富豪で、日本でビルを買っている。このオーナーの会社は来年上海取引所に上場することになっているので、その前に個人で使えるお金を海外資産にどんどん替えているという。 「彼はまだまだ日本で不動産を買いたいようだね。すでにアメリカで家を5軒買い、娘が住んでいるニュージーランドでは娘に牧場を買ってやったそうだ。そうしたら、その牧場に城がついてきたと言っていたよ」 もはや、日本は中・韓に完全に抜かれた。7、8年前、サムスン幹部を取材したとき、こう言われたことを思い出す。 「この前までは私たちは日本のマネをしてきました。1997年の通貨危機まではそうでした。でも、それからは日本のやることと反対のことをやるようになりました。それが成功の秘訣です」 中国、韓国とも鎖国はしていない。幼児からの英語教育もあっという間に取り入れ、いまでは英語を話す若者が激増した。トップ大学の学生ならほとんど話せる。ということは、日本はアメリカという英語国民と、中・韓という英語のバイリンガル国民との間で挟み撃ちにされているようなものだ。 世界共通語の英語教育もせず、規制をはりめぐらせたガラパゴス政策をとり、産業が異系発達した日本は、この先、衰退するばかりなのか? ■
短くまとめるつもりが、つい書きすぎてしまった。時間がないのは本当で、この辺でやめないと、飛行機に間に合わない。これから、アジアで国民がいちばん豊かな国、シンガポールに出かける。
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